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シーラカンスの俺が人間と一緒に世界を救う話
シーラカンスの俺が人間と一緒に世界を救う話
Nicole_tnz
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月22日
公開日
6.7万字
連載中
深海に住む「鰭人(ひれびと)」たちの世界。彼らは、進化の過程で特異な文化と技術を持ち、海の神ポセイドンの命に従って生活していた。主人公セラは、仲間のセイルと共に、海の深淵で出没する謎の海獣を調査することに。しかし、運命の悪戯か、彼らは恐ろしい海獣「イェーケロプテルス」に遭遇し戦闘に巻き込まれてしまう。 その戦いの中で、セラはかつての師匠との再会を果たし、彼の秘密が明かされるものの気を失い、目が覚めたら深海アオと出会った。この出会いがセラの運命を大きく変える。

第1話 始まりは海から

海。

それは我々生命が誕生した母なる場所と言われている。

海で生まれた生き物達は進化を重ねていき、ある者は陸や空へと進出していった。

海に残った生き物たちも独自の進化を遂げ、海に特化した人間が誕生した。

彼らは魚のように鰭を持ちながら、姿は人間と変わらない『鰭人ひれびと』と呼ばれ、独特な文化や技術を持ち、陸の人間では想像もつかない世界を築いていた。


水深六千メートル付近にて――。


俺とセイルはポセイドン様の命令に従い、ここ最近頻繁に出没する海獸かいじゅうについて調べる為に、水深六千メートル付近で調査をしていた。


「まさか、ポセイドンの爺ちゃんの命令でここまで来るとはねぇ……」

「仕方ないだろ、ここ数年…深淵にいるはずの海獸かいじゅう天海てんかいに頻繁に現れているんだ」

「なぁにが真剣な顔で海獸だ!元を辿れば、お前が城の門を壊さなければ俺が巻き込まれずに済んだんだぞ!」


セイルは怒った表情をし、俺の胸元を掴み、力強く揺さぶってきた。

確かに、原因は俺がセイルとの組手で城の門を破壊してしまったことだ。


「巻き込んだつもりなど…。それにあれは…お前との組手が久しぶりで…つい楽しくなって」

「たく、シーラカンス族の馬鹿力は今に始まった事ではないからいいが…ささっと済ませて帰るぞ」


セイルが俺の胸元から手を離し、周囲を見渡そうとしたその瞬間だった。


「!? 伏せろ!セイル!」


暗闇から、セイルを狙う鋭いハサミが突き出てきた。


「なっ!?」


セイルは瞬時に身を低くし、鰭を使い素早くその場から距離を取った。

二人で、ハサミが伸びてきた暗闇の方を凝視すると、そのハサミの持ち主が姿を現した。


身体は巨大で硬い甲羅を持ち、二本の鋭く大きなハサミと複数の脚が、特徴的な生物が現れた。

その全長はおよそ五十メートルで、俺たち二人を見下ろし、獲物を狙うようにじっと見つめている。


「おいおい、あれは俺の見間違いじゃないよな…」

「見間違いであってほしいが、あれはどう見てもウミサソリだ。しかも、一番厄介なやつ」


ウミサソリには多くの種類が存在するが、その中でも特に厄介なイェーケロプテルスが、まさに俺の目の前に立ちはだかっている。


『ギチギチ』


不気味な音を立てながら、イェーケロプテルスは俺たちに向けてハサミを素早く伸ばしてきた。

俺とセイルは瞬時にそれを避け、戦闘態勢に入った。


「まさか、ここでデボン紀の捕食者と戦うことになるとはな!行くぞ、セラ!」


二手に分かれると、イェーケロプテルスは俺よりも素早く動くセイルを狙い、激しく追いかけて攻撃を仕掛けた。

セイルはカジキ特有の俊敏さで、難なくイェーケロプテルスの攻撃をかわしていく。


「さっさと片付けて、調査を再開するぞ。」

「あぁ。」


俺が頷いた瞬間、イェーケロプテルスは標的を俺に変え、俺を目がけて攻撃を放ってきた。


『ギィィシャァ!』


俺に向けられた攻撃は、術式で硬化された腕によって防ぐことができた。


『ギィ!』

「どうした?もう終わりなのか?」


イェーケロプテルスは俺の挑発に苛立ち、再びハサミを素早く振り下ろしてきた。

俺はその攻撃を軽々とかわし、反撃に転じようと拳に魔力を溜めたその瞬間だった。


「ドン!」と、海底に響くような爆発音が鳴り響いた。


「っつ……!?」

「なっ、なんだ!?」


俺とセイルは思わぬ事態に急いで、イェーケロプテルスから距離を取った。


『ギェェァ!』


イェーケロプテルスは、俺たちが爆発を引き起こしたのかと勘違いし、周囲を警戒して見回している。


その時、背後から凄まじい殺気が俺たちを包み込んだ。


「な、なんだこの殺気は?」

「っつ……」


殺気だけで俺とセイルを捕食しようとする異様さ、こんな殺気を感じたことは今までなかった。

それに加えて、この凄まじい魔力…一体何が起こっているのか。


「おいおい、仲間の声が聞こえたから来てみたら、なんだこの状況は?」


イェーケロプテルスの背後から男が現れた。

男は俺たち鰭人ヒレビトとは異なり、異様な姿をしていた。

ウミサソリ特有の甲殻に、六対の肢。そのうちの一つがハサミとして背中から伸びている。

その姿は、まるで俺たち鰭人が進化する過程を見ているかのようだった。


「深淵付近は、本来人が住める環境ではない。ましてやあの姿…」

「古代の海獣が進化したって言いたいのか?」


進化。

俺たち鰭人も元はただの魚に過ぎなかった。

しかし、歴代のポセイドンの選別を経て、計り知れない長い時をかけて進化し、今の姿になったのだ。

だが、ポセイドンが生まれる前に存在した古代の海獣は、選別の対象には含まれていない。

そんな存在が、ましてやここ深淵で進化したということが信じられない。


イェーケロプテルスは男の姿を見た瞬間、まるでペットのように男の背後に回り、撫でてほしそうな仕草を見せた。


「よしよし、もう大丈夫だ……」


撫で終わると男は、俺たちに視線を移せば、その赤く光る不気味な瞳は俺達を完全に捉えていた。


「そうか、お前たちが…俺たちを殺そうとしている鰭人か」

「「!?」」


男の目はまさに捕食者そのものだった。

そして、先ほど感じた膨大な魔力が解放され、男はその魔力を俺たちに向けて放ってきた。


「まずい!」


俺はその圧倒的な魔力が俺たちを殺しかねないと直感し、素早く術式を展開して防御壁を形成した。

間一髪でその攻撃を防ぐことができた。


「この魔力で倒れないとは…面白い!」

「!?」


男は愉悦の表情を浮かべ、凄まじい魔力と殺気を放ちながら、じわじわと俺たちの方へ迫ってきた。

非常にまずい、この殺意と桁違いの魔力量……俺の防御壁が崩れそうで、このままでは二人ともやられてしまう。


「っつ…!セイル、お前だけでも逃げろ!」

「はぁ!?この状況で何を言ってるんだよ!一緒に戦……」

「馬鹿野郎!この状況を考えろ!このままだと、俺の防御陣が奴の魔力で破られる!今ここで二人ともやられたら、ポセイドン様に報告できなくなる」


そう、この状況を切り抜ける可能性を持つのはセイルだけだ。

セイルの速さならこの場から逃げ出し、いち早くポセイドン様に報告できる。


「早く行け!俺が時間を稼ぐ!」

「っ……分かった!」


セイルは足に術式を展開し、素早くその場から撤退していった。


「ほう?仲間を逃がして、一人で戦うつもりか」

「あたりまえだ。双璧と呼ばれている以上。仲間を守るためなら、戦う覚悟はできている」


俺は深呼吸し、両腕に魔力を溜めて術式を展開した。展開された術式は腕に纏った。


「その術式……そうか、お前が……ふはは!面白い!来い!」


不敵な笑みを浮かべた男は拳をかまえ素早くこちらに詰め寄り、俺もまた素早く拳をぶつければ衝撃波があたりに走った。


「はっ!この拳を受け止められるか!流石、あの男の弟子だな」

「あの男?何のことだ!」

「アトランティスの絶対的防御、前双璧の名を持つ男……」

「!?」


アトランティスの絶対的防御、前双璧の二つ名を持つ男。そして、俺の師匠……。


「まさか!?おまっ……」

「そこまでだ」

「なっ!?」


男に問いただそうとしたその瞬間、聞き覚えのある声と共に、俺の右頬に拳が叩き込まれた。

素早くも重たく、今なお身体に沁みついているこの痛み。

そして、20年以上行方不明だった男が俺の目の前に現れたのだ……。


その師匠の拳によって吹き飛ばされ、岩にぶつかり、そのまま倒れ込んでしまった。


「しっ、師匠……なんで……っつ、身体が」

「脳を揺らしたからな。しばらく動けなくなるだろう」

「弟子に拳を入れるなんて、相変わらず恐ろしい男だな」


男の言葉に対し、師匠は表情を変えず、冷酷に答えた。


「弟子であろうと、こいつは俺たちの計画を妨げる敵だ。敵に加減など必要ない。それに、俺たちはまだ戦う時ではないと言われている。このまま戦えば、あの男の怒りを買うことになるぞ」


師匠の言葉に、男は溜息をついた。


「仕方ない。ただ、このままあいつを放置するのはまずいのでは?」

「……俺があいつを処分する。お前は先に行け」

「…分かった」


男は師匠の元から姿を消した。そして、師匠はこちらに視線を向け、静かに近寄ってきた。その表情は冷たく、ただ殺気だけが漂っていた。


「答えろ、師匠!なんであなたが海獣なんかと――!」

「……」


師匠はゆっくりと膝をつき、俺の胸ぐらを掴んで無理やり立たせた。


「師匠」

「セラ、よく聞け……」


そして、俺の耳元で囁いた言葉を聞いた瞬間、俺の視界が暗くなった。

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