「マジヤベー。ああ、これ終わったわ。仕方ない、ダンジョンなかよし散歩団これにて――」
「終わらせないの!! 勝手に諦めてんじゃないわよ。戦えないならせめてこいつを人質にして、手を出させないようにしてやるわ!」
「アヤミちゃん、その考え方は怖いよ……」
「何言ってるの? 使えるものは何だって使いなさい。生き汚さこそが生き延びるコツってもんよ!」
「え、えぇ……。小学生がそれでいいのかな」
ってなこと言い合いながらも、近づいて来る足音は止まらないわけで。
一歩一歩と近づいてくる足音。き、緊張の瞬間だぞ……!
「何が出るかな? 何が出るかな?」
「そんなワクワク要素ないよ!? もう、君はどこでもマイペースなんだから!」
「言ってる場合じゃないわ。ほら、不審者! 私たちの盾になりなさい!!」
「やめろ!? 髪を掴むな!!?」
髪の毛を無理矢理掴んで立たせる。痛そう。
果たして現れるのはどんな化け物か?
そして俺たちは本当に終わってしまうのか?
その先は、ぜひ君の目で確かめて――。
「君達、ここにいたのかい!? いやあ、やっと探し当てたよ」
「三人ともいる? ……どうやら無事みたいだね。でもこれってどういう状況なんだ?」
「あ、姉ちゃんたちだ。おーい」
やってきたのはダカーシャ姉ちゃんとリューイン兄ちゃんだった。
まさか同じダンジョンに居たなんて、ビックリ。じゃあおっさんは全員連れて来てたのか。
「な!? なぜ貴様らがここに?!!」
と思ったらビックリした顔してるおっさん。
え? おっさんが連れてきたわけじゃないの?
「ふっふっふ。油断をしていたようだね。我がギルドにだって優秀な魔法の使い手はいるのさ。大元の石板以外は片っ端から叩き切って出入り口を確保した。その後はマナの
「忘れたからってこっちを見ないでくださいよ。……ごほんっ。つまりは発動していた魔法の術式を調べ、逆に利用する事でこっちに来れた、という事です。こちらには我々以外の人間も来ていますよ、つまりあなたの負けです」
「そういうことだ! 投降は止めて大人しく――」
「もうそれいいわよ。さっきサダが言っちゃたから」
「――ああ、キメ台詞に用意してたのに!」
「それがキメ台詞って……。間違えて覚えてるじゃないですか」
このやり取りを聞くと、確かに姉ちゃんたちだなって。安心ってやつだよな。
じゃあ後はもう俺たち帰るだけだ、やったね!
「姉ちゃん、今何時なの?」
「君たちが居なくなってから二時間ほどだな。さすがに三時のおやつは過ぎてしまったよ。でも……」
ダカーシャ姉ちゃんは俺たちのところまで来て、三人の頭を優しくなでていった。
「夕飯までには返すという約束、これで守れたね。私は友との約束は守る人間なんだ」
「ダカーシャさん、カッコイイ……」
「はっはっは! そうだろエミくん。遠慮することは無い、もっと褒めてくれたまえ!」
「すぐ調子に乗るんだもの、色々台無しだわ」
文句を言うアヤミだけど、声に安心を感じる気がする。
こいつも、何だかんだ言って姉ちゃんのこと認めてるんだよね。
再開した俺たちは、ここで起こったことを姉ちゃんたちに説明した。
やっぱとっても驚いていた二人。危ないことしたからちょっと怒られたけど、でも褒めてもくれたんだ。
へへっ。
「さあ、この大事件を起こした犯人はこっちで預かるよ。ダカーシャさんは、先にこの子達を向こうへ連れていってあげてください」
「ああ、後は頼むよ。……しかし、研修生なのによく頑張った。今回は評価点高いと思うよ?」
「どうですかね、子供達を危険な目にも合わせてしまいましたから。まあでも、良い経験にはなりました」
「ふふっ。……さあ、君たちも帰ろうか。預かってるお菓子も渡さないとだしね。あっ、向こうでみんなでお菓子食べないか? 私も張り切ったから甘いもの食べたいんだ」
「好きねほんと、でも私も甘いもの食べたい気分かも」
「疲れちゃったもんね、みんな」
「俺も。オーラってこんな疲れるんだな」
着けたままのグローブを見る。
こいつのおかげで俺たちもオーラが使えるようになった、今考えても不思議。
ま、外すと使えなくなるんだろうけど。
でも、ちょっと感激ものじゃない? こりゃ出し物で受け狙えるぜ。
にししと思ってた時、俺の手が姉ちゃんに取られた。
「これはギルドが回収させてもらうよ。得体が知れないからね。どんな危険性があるかも分からないものを君達に預ける訳にはいかないのだ」
「え~っ」
「仕方ないでしょ、サダ。こんなもの、私たちが持っててもしょうがないんだから。……はい、私の分」
「あっ、僕のも受け取って下さい」
「ちぇっ。じゃあ……はい」
グローブを脱いだ俺たちは、それを姉ちゃんに渡すことに。
しぶしぶだぞ、まったく。
「確かに受け取ったよ。それと、貸していた通信機もね。……はい、確かに。しっかしこの二つが組み合わさって凄い威力を出すなんてね。オーラを誰でも使えるようにするアイテムもそうだし、あの男は相当な研究者だったんだろう。まだまだ知らない世界が多いと感じるよ」
「世界ねぇ。……そういや、姉ちゃんも元々住んでた場所があるんでしょ? たまには里帰りとかしてるの?」
「ん? いやあ、ここ五年帰って無いな。元々私は孤児だし、成人して孤児院出てるし。何より文明レベルが二百年以上遅れてるんだよ? 車も無いしバスも無い。マンガも無ければテレビも無い。ネットも無いからスマホ持ち込んでもほとんど意味無いし、暇つぶしに動画も見れない。駄菓子だって無いし、それにウォシュレットどころか水洗トイレすら無い場所なんて……、先進文明に身も心も飼いならされた今の私が帰っても、逆に適応出来ないさ。はっはっはっは!」
「ぶっちゃけたわねぇ」
「まあでも、この方がダカーシャさんらしいじゃないかな? なんか、今更だけど安心して来ちゃったかも」
ってな感じで和気あいあい。
俺たちは笑いあり、笑いありな会話をしながら、ダカーシャ姉ちゃんがやって来たダンジョンの道を練り歩く。
そう、気軽に散歩でもするみたいに。
「なぁんてなっ」
「何言ってんのよ? ほら、迷子になるかもだから私の手を握ってなさいな」
「あ~い」