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終幕のエンドレスナイト - 雪原の紅玉姫 -
終幕のエンドレスナイト - 雪原の紅玉姫 -
ひなのねね
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月24日
公開日
1.2万字
連載中
「人生も捨てたもんじゃないって俺が思わせてやる、よ――」 代々、特殊な力を受け継ぐ凛那(りんな)と浅蔵(あさくら)は、300年ぶりに発生した事件に対処しようとするが、300年の月日は多くのモノを失わせていた。 そんな中、ただの高校生である「赤槻 昂我(あかつき こうが)」は、偶然、凛那(りんな)を助けたことで、彼らと共に世界の脅威へと立ち向かっていく。 彼らは運命を通じて、雪が解けて花が咲くように――静かに成長していく。

イツカのカコのイマにあるミライ

 人生捨てたもんじゃねえ――か。


 何時間、私はこうしていただろう。


 私の背中には崩れた日本家屋があって、長い時間をかけて先ほどやっと燻っていた煙が自然消火した。立ち上がって見渡すとどの家も全焼したあとで、瓦礫しか残っていない。


 見上げると雨も降りだしそうだ。


 私は濡れないけれど、目の前でずっと棒立ちの男の子は雨に濡れるだろう。

 けれど私はこの子に干渉する事は出来ない。

 ただ見守る事しかできない。


 彼の背中に触ろうとしても、自身が幽霊のようにするりと通り抜けてしまう。

 私が今ここにいる理由は徐々に理解しだしていた。


 何故か記憶に次々と見知らぬ記憶が刻まれては消え、忘れ去られていくのだ。それはまるで何度も様々な夢を見ているようで、どれが現実なのか分からない。


 これから先の未来を見る事もあれば、違う選択肢の未来もあり、また、誰かの過去を見る事もあった。私そのものは時間や空間を理解していない。


 けれど今の私の状態が、時間や空間を超越している。だから今、私がいない場所で起こっていることも理解できた。


 それでも私は何も出来ない。

 ここでも、この先でも、私は何もできないでいる。それが歯がゆい。


 今までの私ならば、ただ塞ぎ込んで、逃げ道を探していただろう。

 だがこの胸の奥にある湧き上がる思いは、いつもの感情と違う。


 熱い。今すぐにでも動き出したい。行動を起こしたい。

 ――もしかしたら。


 私は一縷の望みを賭け、騎士鎧を展開する。

 左肩が深紅の閃光を放ち、私を取り囲む半透明の深紅の鎧が生まれる。


 未来で行く手を阻まれている『あなた』にきっと届くはず。

 私は男の子に向けて、そっと手を伸ばした。

 彼に触れる事は出来ないけれど、私はそっと彼を抱いた。


 今は何もできないけれど、きっとこの『想い』が遠い未来のあなたに届きますように。

 時間は再び進む。


 私が彼の背中に寄り添って座っていたころ、地面が黒く染まりだし、雨が降り出してきた。

 丁度そのころ、遠くから歩いてくる人影が見えた。

 少年の視界には人影は入っているのに、少年は微動だにせず、雨に打たれたままだ。


 貴方はこれから、色々な事を知っていくのだろう。

 辛い事や楽しい事、泣きたい事もあるし、起こる時もあるだろう。

 それでも歩みを止めずに進んでいく。

 遠い未来で、いつか出会うために。

 歩んでくる人影を見て、私はほっと胸をなでおろした。


                   ――雪原の紅玉姫



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