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第47話 父親

 お婆さんや白銀騎士が凛那に気が付かないように、凛那はこの世界に干渉する事ができない。もしかしたら過去、または未来、はたまた別の世界を見ていると推測できる。


 もしここが一種の映像の中のようなものだとしたら、ルビー・エスクワイアを展開できないのもそれが理由だろう。凛那はここには存在しないものだからだ。


(でもなんで、私はここにいるの……?)


 とりあえず白銀騎士の後をついて行くと、周囲には老若男女関係なく村人が倒れていた。たまに洋服に身を包んでいる村人もいたが、着物の人もいて時代がよく分からない。


 斬られている人もいたが中には血を吐いて倒れている人もおり、直視はできないけど、悲しみと悔しさが沸いてきた。


「団長」


 団長と呼ばれ、白銀騎士が振り向いたので凛那も声のする方に振り返った。

 するとそこには真っ赤な鎧に身を包んだ――いや、あれは着用していない。

 展開しているのだ、騎士鎧を。


 しかも赤い鎧の中に見える姿は面影が残っている。

 先日亡くなった姿より十歳から二十歳くらい若い。


「お、お父さん……」


 中はワイシャツとジーンズというラフな格好だ。年のころは三十代だと思う。髪は短く切りそろえられており、精悍な青年といった風貌だ。


「仁、どうした」

「これで村人は全員です」

「そうか、誠司たちはどうだ」

「特に問題は無いようです。ミーティングで話したような反撃もありませんでした」

「反撃が無いに越した事はない。奴らの一撃は騎士鎧を貫通するからな」


 仁と呼ばれた凛那の父親は浮かない顔で村を見渡す。

 今や燃え盛る家々と死体しか辺りには転がっていない。


「本当にナイツオブアウェイクの全人員が必要だったのでしょうか」

「無論だ、これも私たちの子供のためだ、そうだろう」


 仁は答えない。答えに悩んでいるようだった。


「――仁の娘も四歳になったばかりだったか」

「はい」


 小さく頷く。


「俺の子もいずれ騎士紋章を受け継ぐ。それを思えば仕方のない事だ」

「分かってはいるんです。理解はしているのですが――」


 仁の返答は歯切れが悪い。


「私たちの騎士鎧は何百年も眠ったままでした。それが、こんな。初めて展開するところが、こんな――同士討ちのような」

「同志? いや違うな、仁。

 奴らは私たちの喉元に常に牙を当てている狩人だ。

 その遺恨を断ち切らねば、いずれ子らもこ奴らの手に掛かることもあるだろう、それでも良いのか?」

「いえ、それだけは絶対に」

「そうだ。我ら騎士は騎士紋章に従い人生を狂わせられてきた。

 そして零という存在にも怯えてきた。その因果を断ち切らねばならない。

 皆が賛同してくれて嬉しく思うよ、仁」

「団長……そうですね。

 出来る事なら未来の子供たちに戦いに身を置いて欲しくない。

 こんな生臭いところに立たせたくない。だからこそ、やらねばならない」

「私たちが罪を背負おうじゃないか」


 そう言い残して白銀騎士はこの場を立ち去った。


 仁はまだ周囲を見つめ、唇を強く噛みしめている。きっと何が正しいのか思案しているのだが、答えが出ないのだろう。勿論彼が展開する騎士鎧も何も答えてくれない。


 動かない父親を前に凛那はずっと若い父親を見つめている。


(お父さんも私と同じように騎士紋章に悩み、苦しんでいたんだ。

 騎士としての運命に翻弄されてたんだ……私だけが苦しんでいたんじゃないんだ……)


「え?」


 仁がまとう騎士鎧が凛那を視界に捉えた。

 その赤い兜のデザインは槍の騎士のルビー・エスクワイアとは若干違い、女神のような神々しい羽飾りが随所に施されている。

 見習い騎士のエスクワイアよりもずっと貫禄がある。


 騎士鎧の異変を感じたのか左肩を押さえて、仁は辺りを見渡した。


「どうしたルビー・アストレア?」


 もちろん凛那の姿は見えていないようだ。

 ルビー・アストレアと呼ばれた騎士鎧は凛那に手を伸ばし、肩に触れる。


『凛那ですね』

「ひゃっ」


 突然話しかけられて変な悲鳴を上げてしまう。

 まさか騎士鎧が語り掛けてくるとは夢にも思わなかった。


「は、初めまして」


 ぺこりと頭を下げて相手を見ると、ルビー・アストレアは優しく頭を撫でてくれた。



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