この世は恋で溢れている。
そこにあるのは様々な心の形。
例えば丸くてすべすべとした物。
親の温かい愛情を真っ直ぐに受け止めて、なに不自由も持たない純粋な心。
例えばウニのように尖っていてささくれた物。
親から反発を受けて、自己嫌悪に落ちて周りが信じられなくなるトゲトゲしい心。
例えば形すらもない物。
親もなく、身寄りもない、孤独で心底に愛情に飢えていても何も見えない心。
もしくは若くして命を絶って広々とした天空をあてもなく、さまよう空っぽの心でもあるだろう。
これらの様々な三つの形に共通する事柄は皆、その形と赤の他人がめぐり合い、恋が生まれて、やがては愛へと変わっていく物語。
人ならば誰でも体験する絵本のような物語。
その中身が明るくても暗くても訪れるのは運命と宿命。
哺乳類として、ただの種の保存による交わりではなく、人間として特有の心を持ち、自我がある愛の行為。
小さなおたまじゃくしが冒険活劇を繰り広げ、多数のライバルを蹴落とし、母の体内で誕生した新しい命。
そんな神秘的なめぐり合わせを迎え、今、ここに一人の男の子が生まれた。
だが、ただ生まれてきた命は、無垢がままにその世界を知らない。
必ずしも幸せがあるとは限らない。
中には己の欲望と快楽の為に過ちをおかして、避妊もろくにせず、望まれない産まれ方をする命もある。
だが、この一人の男の子の人生のスタートはどちらでもなかった。
なぜなら男の子が生まれてきた、この世界は……。