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第A−19話 過去の戦いから学んだもの

◇◆◇◆


 目が覚めた私がいる世界は地獄絵図だった。


 辺りは業火に覆われて、様々な建物が破壊されていた。  


 微かに照らす太陽の角度からして、曇り空の昼過ぎだろうか。


 そんな風景の南方の遠くから、一人の騎士がやって来る。


 その人物は、薄汚れた灰色の防具に身を纏い、腰には大きな剣をしまった鞘を身に付けていた。


 また、反対側の北側からは円陣を組みながら、沢山たくさんの兵隊が、こちらに向かって来る。


 こちらは青色の防具で1メートルくらいの白銀の槍を抱えている。


「来ましたね」


 ただ一人の灰色の防具の仮面から、凛とした高い声が響く。


 仮面からはみ出した金髪といい、声からして女性だろうか。 


「……ダル、お前もここまでだ。おとなしく、あれを渡せ」


 一番先頭にいた青色の防具の仮面から、低い男性の声が響く。


「嫌です。これは命にかえても渡さないわ。どうせ、あなた達のことだからロクなことに使わないんでしょ」

「そうか、それなら仕方がないな」


 その一人の男が槍を構え、前傾姿勢になる。


「なら、お前を殺して奪うだけだ」

「ふふっ、私を甘く見ないでください。

私には、あの系統の血が流れているのですから」

「……だから、何だというんだ」

「ならば、食らいなさい!」


 女が剣を引き抜いてから、それを地面に突き刺し、両手を胸元に置き、細かく体を震わす。


 すると、体全体から眩しい光が発せられて、周囲が無機質な灰色に染まる。


「やあっ!!」


 その女が叫び声とともに地面から剣を引き抜くと、颯爽さっそうと男の首に向かって剣を振りかざす。


「その首、私がもらいました!!」


「がはっ!?」


 ──だが、その声の主は、


「残念だったな。

……ダル」


 女の胸に槍を突き刺している男が、満足の笑みを浮かべる。


 そう、勝ったのは男の方だった。


「……がはっ、どうして……そんなはずでは…。

私達の、秘伝の技が……通用しないなんて……」

「愚かな女だ。その力は俺には効かない」


「がはっ!?」


 男が女の体から槍を引き抜くと、顔面蒼白になった女が胸を押さえ、うめき声とともに大量の血を散らし、その場に倒れこむ。


「お前らが得意とした、突き刺した剣の振動から耳の神経の鼓膜を通じて、時を止める技か」

「……所詮しょせん、人間技だったな」


 女が息を止めた瞬間、灰色の情景が元の色に戻り、再び世界はまわり出す。


「……ファン、無事だったか」 


 時が動き出した一人の男の兵士が声をかける。


「俺は何ともない。

それより、皆はあれを探しだせ」

「分かった」

「……ファン様、了解しました」


 皆が彼に一瞥いちべつして、倒れた女の周りを血眼になって調べ始める。


『ピカッ!』


 ──ふと、何かが光る。 


「何だ?」


 死んだはずの女の体が光っている。


「しまった、あの兵器は女の体の中に隠してあったのか!?」


『カッ!!』


 世界は激しい光に包まれた……。


****


「……はっ」


 私は目を覚ます。

 どうやら悪い夢を見ていたようだ。

 でも、何の夢だったのかは、もう思い出せない。


「大丈夫ですかね……」

「案ずるな。一瞬で終わるわい」


 私の耳から、聞き覚えのある声が聞こえる。


(誰?)


「んんー!」


 私は叫ぼうとして動こうとしたが、身動きがとれない。


 よく見ると、体の両手足が紐で縛られており、口もガムテープで塞がれている。


 でも、それでも分かることは、私が寝ている上で何かが起きているということ。


 何者かが、龍牙りゅうがさんに何か悪さをしているのは間違いない。


 私は、何とか転がりながらベッドの柵を乗り越え、無造作に地面へと着地する。


 幸いにもベッドの下の床には分厚い絨毯じゅうたんがあり、着地した時の衝撃を吸収してくれた。


「んんんー!」

「……あっ、石垣いしがきさん。

彼女が起きてしまったみたいですよ」

「心配するな。

きちんと手はうっておる。

今はこっちを、ちゃっちゃっと済ませるぞ」


 どうやら、声の主の一人は石垣教師らしい。


『バチバチバチ!!』


(龍牙さん!?)


 龍牙さんが寝ているベッドで、何かの発光と炸裂音が響く。


「こんな計画、いつまで続けるんでしょうか……」

「それが、ケドラー様の命令だから、仕方がないわい」


「……さて、今度は彼女だな。

毎回、骨が折れるわい」


 はしごから降りてくる二人に、私は恐怖で怯えていた。


「やあ、ゆみ君、おはよう」


 穏やかに接する石垣教師に続き、おどおどした態度で側による眼鏡の青年。


 私はヨロヨロと立ち上がる。


「んんー!」


 身の危険を感じた私は、ありったけの声を吐き出した。


(……何とかして、龍牙さんを助けないと!)


「んんんんー!」

「いかん! 北開ほっかい!」

「はいっ!」


『ピカ……!!』 


 私の体が光り出し、髪の色が金髪に変わろうとする。

 一体、この力はなに……?


『バリバリバリ!!』


「んんっ!?」


 そう思った私の全身から力が抜ける。

 まさか背後に、もう一人いたとは……。

 そのまま力を無くし、その場に崩れ落ちる私……。


「ふぅ。間一髪。俺に感謝しろよ」


 ──携帯式の黒のスタンガンを持った後ろの若者が、得意げにニヤリと笑う。


「……沖縄おきなわさん、ありがとうございます。危なかったですよ」


 同じく、黒のスタンガンを握った北開がヘナヘナとその場でへたれこむ。


「二人とも、まだ終わっとらんぞ」


 石垣が白のヘルメットを、気絶した弓に被せる。


「……そうでしたね。石垣さん、すみません。すっかり忘れていました」

「なら、早くしようぜ。俺はもう寝てえよ」


 そして、ヘルメットから発した青白い光とともに、この部屋の光は再度、暗闇へと閉ざされた……。














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