「さて、はりきって作りますわよ」
私は朝早くから、可愛いヒヨコちゃんのイラストのエプロンを着用し、一人してキッチンに立つ。
そう、今日は恋人通しが、愛を深めあうイベント、2月14日、バレンタインデー。
今年は、
あのお菓子作りが初めての
何せ、美希は、あの定番のホットケーキをバンバン作れるのよ。
前日から仕込むのではなく、ぶっちゃけ当日でも、かかってこいな感じですわ。
さてと、まずは刻んで、
こんなのスマホの動画を見ながらやれば、楽勝ですわ。
『プツン……』
あら、スマホの画面が映らないわ?
おかしいですわね、電池が切れたのかしら?
まあ、心配は無用ですわ。
ここまでくれば、溶かしたのを型に入れて、二時間ほど冷やして固めるだけですから、何も問題はありませんわよ。
さあ、美希の華麗なテクニックを、そうご期待ですわ。
──ああ、仕事から疲れて帰ってきた愛しのダーリンが、美味しそうに癒されながら食べる姿が頭に浮かぶわね。
早く、仕事から帰って来ないかしら……。
****
「ただいま……」
──ぶるっ、何か寒気がするなあ。
それに、この部屋中に漂う香ばしい香りはなんだ?
今日の食事当番は美希だったけど、まともな料理は出てくるのだろうか。
彼女の手料理は、いつも
この前もタコの刺し身とか言って、身をさばかずに、そのままで生きている姿を食べさせられた、苦い想い出があるからなあ。
もういいや、我よと祈りながら足をかじったら、暴れだしたタコから、顔面に墨を吹きつけられて──あの時は参ったな……。
****
「お帰り、
帰って早々、俺をリビングのテーブルに座らせる、弾けるように上機嫌の美希。
見たところ、テーブルにちょこんとある、可愛いらしく食べられそうな物体は、少し形が崩れたハートチョコみたいな感じに見えなくもないのだが……。
「そうか、今日はバレンタインか」
「そうそう、召し上がれ♪」
「でも、何で隣にご飯があるんだ?
チョコにご飯とか合わないだろ?」
「まあまあ、そう言わず食べてみて」
俺は何も考えずにそれをかじる。
口の中でそれは溶けて、中で激しく暴れだす。
「かっ、
口から火を吐くような猛烈な辛味。
あまりの激辛に耐えきれず、俺は慌てて、ガラスコップの中の冷たい麦茶を飲み干した。
「何でカレー粉の固まりなんだよ!?」
「いやですわ、もう晩ご飯の時間だから、ご飯ものがいいかなと思ってまして♪」
「しかもこれ、相当辛いんだが?」
「ええ、ハバネロや
「余計に食えるかー!!」
俺は思わずテーブルごと、ひっくり返そうとしたが、耐震設計の作りで床にネジで止めてあり、微動だもしない。
「
「まだ何もやってないだろ?」
「今、テーブルをひっくり返そうとしましたわよ……?」
「ただの目の錯覚だろ……とりあえずいいから、晩飯にしてくれ……」
「だから、そこにあるじゃないですか?」
美希がハート型のカレー粉を、強引に俺に食べさせようとする。
「だああー! もういい。今晩も俺が作る!
いつもの野菜炒めでいいよな?」
「ええ、ありがとう。頼もしいダーリンですわ♪」
今なら
夫婦生活も色々と大変だな。
お前らもいつまでも仲良くしろよ……。
「だああー! 何でバターやマーガリンが大量にあって、サラダ油がないんだよ!」
「ええ、持つべきものは食パンですわ♪」
「もう、お前の飯は毎日パンの耳にするぞ!」
「酷い、やっぱりDVですわよ……」
「何でそうなるんだよ!?」
ああ、もうキリがないから、この辺で俺達の物語もお別れだ。
みんなも頑張って、素敵なパートナーを見つけろよ。
──あと、万が一のために、簡単な料理くらいは出来るようになっとけよ。
とにかく初めは、味噌汁作りから覚えるんだ。
──茶碗で計った水に粉末のダシを入れた鍋の中に、具材を入れて煮込み、沸騰したら火を止めて、味噌を溶かす──まあ、よく練習を重ねるんだな。
腹が減っては、戦はできないからな。
ついでに料理ができない、パートナーにも料理を覚えてもらえよ。
夫婦は
──それじゃあな。
To be continued……?