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第2話 「出発」

「いろんな出会いがあった...

   敵だったり味方だったり……

     とにかくたくさんの人と出会った

           みんな...どうしてるかな...」



大陸に行くことを決意したティエラは、まず東北地方をまっすぐ上り、2日かけて本州の最北端まで来た。


ここから北海道を通じて樺太、そして大陸へ入るというルートだ。


(あと少しで北海道か...ん?)


荒野の中、人影が見える。と、次の瞬間、人影は消え、近くまで来た。


「⁉お前...何者だ?」


「特籍軍...名は、N・ヤスヒロ。突然だが、お前を始末する」


「『回収』じゃないのか?」


「お前が2人も主力を殺すからだ。もはや『回収』は無理だという世界国家の意向だろう」


「へぇ...いいぜ、来いよ」


ティエラがそう言った直後、N・ヤスヒロの姿が再び消えた。


そして気づいたときには、N・ヤスヒロはティエラの背後に立っていた。


「!?」


「Rapid Reading(ラピッドリーディング)...短距離瞬間移動技だ」


「それがお前の特殊能力か」


「いや、これだけではない。俺の能力は摩擦を利用して『削る』ことだ。その対象は物質だろうと空間だろうと関係ない...喰らえッ!!Cutting Edge(カッティングエッジ)!!」


N・ヤスヒロは突然技名を叫ぶと、片手を激しく横にスラッシュした。


次の瞬間、その近くでパァン!!という凄まじい破裂音が鳴り響いた。


それと同時に衝撃波を伴いながら、近くを舞っていた塵が消え去った。


Cutting Edge。それは、20㎝の厚さの空間とその範囲内にある物質を削り、跡形もなく消し去る技である。


(コイツ...空間ごと削りやがったのか...!なるほど...今回もあんまり近づかないほうがよさそうだな...)


「今、近づかないほうがいいと考えたな?」


「!!なんで分かった!?」


「経験だ。そして、対策済みだ。この技でな!CROSS BEAM(クロスビーム)!!」


N・ヤスヒロは腕を交差させると、交点から大量の光弾が形成され、ティエラに向かって次々と飛んできた。


ティエラは岩石の粒子を集め、壁を作り、それらを防ごうとした。


しかし、CROSS BEAMの威力に打ち負かされ、爆風によってティエラは吹っ飛ばされた。


(これだけでも分かるぜ...こいつは、”強い”!!)


ティエラは片手で身体を支えながら立ち上がる。


近づいても、離れても、相手は強い。


「Rapid Reading!!」


N・ヤスヒロは背後にまわり、攻撃を仕掛けようとする。


しかし次の瞬間、ティエラは振り返りもせずに相手に肘打ちをぶち当てた。


「ぐっ!?」


「どうも今回ばかりは本当にヤバそうだからな...。そっちがその気なら、俺も死ぬ気で行くぜ!」


N ・ヤスヒロはCutting Edgeを仕掛けるが、ティエラはCutting Edgeが発動するまでの時間差を利用してそれをかわし、相手の腹部に何度かパンチをお見舞いすると、その後、相手がまだひるんでいるところを狙って相手の顔面に足をめり込ませ、蹴っ飛ばした。


N・ヤスヒロは一度体勢を立て直す。


「やるな...。俺は他人の命令に従うのは嫌いだが、戦うのは好きだ。さてと...身体もそろそろ温まったことだろう...。第2ラウンドといこうか」


N・ヤスヒロは両手をがっしりと合わせる。


「QUEST...stage1」


次の瞬間、N・ヤスヒロの髪が逆立った。


(一体...アイツの身体の中で何が起こっているんだ?)


「行くぞ!Rapid Reading!!」


「!!」


さっきまでは、なんとなく読めていた動きが、今度は全く見えなくなった。


防戦一方だ。


「お前...一体何をした?」


「OUESTで身体能力を大幅に上げた。その仕組みは体内の養分を削り、そのときに生じた摩擦によるエネルギーを活用する。つまり...俺の能力は、一段階”進化”する」


N・ヤスヒロはCutting Edgeを放ってきた。


一応まだかわせはするものの、さっきよりも発動までの時間差が短い。射程距離も長くなっている。


「お前、やっぱ強えよ...。だけどな、ただやられるだけの俺じゃねぇぞ」


そう言うと、ティエラは身体全体に力を入れ始めた。彼の周りが一瞬だけ青白く発光した。


「これでまたおあいこだぜ」


「それはどうかな?」


二人は物凄いスピードで何度もぶつかり合った。ほとんど互角だが、ティエラのほうが少し優勢である。


「その力...まさかお前も...?」


「ああ。お前やS・サネノブの戦い方を見て思ったんだ。俺にもお前らのように身体能力を上げる技が編み出せないかってな。あったさ。地中や空気中に存在する養分を大量に引き寄せ、それを体内でエネルギーに変換させる。これを永遠に続ける。そんなに集中力もいらねぇから、同時に別の物質も錬成できる。それが俺の身体能力強化技だ」


数秒後、ティエラとN・ヤスヒロはお互い同時に拳を突き出した。


それはわずかにティエラのほうが速く、ティエラは、N・ヤスヒロの顔面に一撃喰らわせることに成功した。


N・ヤスヒロは少しふらつく。


「...ここまで追い込まれたのはいつぶりか。いいだろう...俺もその強さに答えてやる。QUEST...stage2」


「⁉stage"2"!?嘘だろ...」


さらにパワーアップしたN・ヤスヒロは周辺にある塵を巻き上げ始めた。


「CROSS BEAM!」


光弾が飛んでくる。


ティエラは鉄で剣を錬成し、それらを弾き飛ばすが、尋常じゃない速さで光弾はまだまだ飛んでくる。


ついに押し負けたティエラは、爆発とともに吹っ飛んだ。


「...ATPソード!!」


「Cutting Edge!!」


伸びた刀身の一部が削られてしまった。Cutting Edgeの発動までの時間もかなり速くなっている。


(クソッタレ...いちいち技名なんかつけやがって...。...って、俺も人のこと言えねぇか)


ティエラは反射的に削られた刀身を直す。


ここで一つ、彼の能力について触れておこう。


物質錬成するには体力を使う必要がある。


ちなみに現在の彼の最大量の体力で錬成可能な剣の量は7本が限界。


7本ぴったりまで錬成すれば、彼はおそらく、ひどいめまいや耳鳴りなどの身体異常に最低でも30分は襲われることになる。


また、物質錬成に使う体力について、錬成する物質が精密であればあるほど体力を失いやすい。


(岩の壁と剣、養分の引き寄せ、刀身の修全...クソッ...まずったな...。なんで刀身の修全なんて精密な作業しちまったんだ...新しく剣を錬成すればよかったってのに...)


もう体力が残り少ない。


まずティエラは、岩石の粒子で自身をおおえるサイズのドームを錬成した。防御を張るためだ。


(さて...防御も張ってと...それと、テキトーに鉄パイプを20本ほど錬成してみたはいいが...。こいつをどう活用するか...)


ティエラはドームに小さな穴を空け、相手の動きを一旦観察する。


(多分アイツはまた遠距離攻撃を仕掛けてくる...。相手が技を出す前に何か対策しねぇと...)


ティエラはとりあえず手を動かす。


ある程度作業をしたその時だった。


穴から見えたのは、N・ヤスヒロが腕を交差させる姿。


(来る!!)


CROSS BEAMは難なくドームを吹き飛ばした。


もちろんティエラも巻き添えである。


彼はもうボロボロだ。身体能力の強化も切れた。


うつぶせのままいっとき動けなさそうである。


「良い勝負だった。さすがと言ったところか...。だが、終わりだ」


N・ヤスヒロが歩いてくる。そして、ドームの残骸に足を踏み入れたその時だった。


「終わるのはお前だ!!喰らえ!ATPスラッグ!!」


「⁉何を...」


次の瞬間、地中から鉄パイプが20本ほど飛び出してきた。


それらはN・ヤスヒロの身体という身体に向かって物凄い勢いで伸び、その全てが打撃をぶちかました。


鉄パイプがもろにめり込んだN・ヤスヒロの骨はバッキバキだろう。


20発もの凄まじい打撃を喰らったN・ヤスヒロは、気を失った。


「ハァッ...ハァッ...ざまあ...見やがれ...。ヤスヒロ...お前の敗因はズバリ...”油断”だ。お前は...自分に溺れすぎたんだ...」


ティエラも意識が朦朧としている。


よく見ると、彼の指の一本一本にはスチールで作った糸が頑丈に巻かれており、それらは20本の鉄パイプ全てに巻きつけられていた。


N・ヤスヒロが技を出すまでの間、ティエラはまず20本の鉄パイプを錬成した後、スチールの糸をかなリ長く錬成し、それを自分の指と鉄パイプの先端に巻き付け、鉄パイプは20本全部、地中に埋めておいたのだ。


『ATPスラッグ』という技名は、その場で思いついたものである。


激戦を終えたティエラは近くの宿で一晩休み、漁師に船に乗せてもらうことにした。


そして...


「よーし...行くぞ...!北海道!!」


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