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第5話 「接触」

「ここから全てが始まった

  ”アイツら”との出会いが...

    俺にとっての”世界”を変えたんだ...」



「おい!陸だ!!陸があるぞ!!」


T・ユカが陸のほうを指さして叫んでいる。


こうして、三人はついに樺太に上陸した。


樺太には、もう誰も住んでいない。見渡す限りの平原だ。


「よし。目指すは北だ」


「そうやな!北から行ったほうが近いけんな!」


「よ~し!行くぞ~ッ!!」


「なんでお前が仕切ってんだよ」


そんな他愛もない会話をしながら三人は北へ向かって歩いていた。


そして、会話が少し途切れた時、ティエラはあることに気づいた。


(静かすぎる...。敵の気配を全く感じない...。世界国家は一体何を考えてやがんだ...)


数日を経て、三人は何ら苦労することもなく最北端に来た。


(あの先に大陸があんのか...)


「よ~し、船ならアタシが...」


「待て、...誰かいる」


そう、ティエラの言う通り、岸の周辺には人影があった。


こちらに向かってくる。


影はこちらに近づいてきた。近づくにつれて、姿がはっきり分かるようになってきた。


茶髪に世界地図をゆがませたような絵が特徴の奇抜な衣装、そして不思議な瞳。その瞳は、木星のようだった。


そんな中、T・ユカは足を震わせていた。あの大胆不敵なT・ユカが、だ。


「?どうした?ユカ」


「あ...、あ...、ど、どうしたも...、どうしたもあるもんかよッ!!アイツは...ッ!!向こうのヤツは、セイレーンだ!!」


「な、何だって!?」


「あれがセイレーンか...。初めて見たばい...」


すると、セイレーンの者は立ち止まった


「...ここを通りたいか?ティエラ」


セイレーンの者は言った。


「ああ、通してもらうぜ」


「...そうか」


セイレーンの者はうつむいた。


「...お前、今自分が何しようとしてんのか分かってんのか?」


「知ったことかよ」


「...ッ!本当に...全部...。なら、改めて名乗らせてもらうぜ。俺はユピテル。世界の守護神...、セイレーンだ」


(ユカの言う通り、ヤツはセイレーンだったのか...。それにしてもさっきから何だ...?アイツの顔を見るたびにこみあげてくるようなこの感じ...)


「もう一度聞く。ここを通りたいか?」


「...ああ!!」


「そうか...。ならばこのユピテル!!世界の守護神、セイレーンの名にかけて...、お前を...、お前を...、お前を...!排除する!!」


次の瞬間、さっきまで彼の目の中にあった迷いが消えた。覚悟を決めたようだ。


ユピテルは拳を地面に叩きつけた。


そのとき、大地がうねった。


「カオス・ガイア!!」


すると、大地から巨大な2本の岩石の腕が生えてきた。


腕は容赦なくティエラに襲い掛かってきた。


ティエラはまず片腕の攻撃をかわした。が、すかさずもう一方の腕の攻撃が来る。


(クソッ...!間に合わない...!)


と、その時だった。急にティエラの近くで大きな破裂音とともに大きな衝撃が発生した。


それによってティエラは何とか攻撃を回避することができた。


「い、今のはッ...!タイゾウの能力か...?」


その通り。技名は、『圧鬼弾・散』。空気を圧縮した炸裂弾を飛ばし、破裂させることで大きな衝撃波を伴う技だ。ついでにさっきのはかなり威力を抑えている。


H・タイゾウはティエラを圧鬼弾・散で一旦避難させると、足から真空波を出しながら高速で移動し、空槍拳を仕掛けよとした。


が、その時、突然大地から人の腕と同じぐらいのサイズの岩石の腕が飛び出し、そのままの勢いでH・タイゾウにアッパーを喰らわした。


宙を舞い、完全にバランスを崩したH・タイゾウに追い打ちをかけるかのように、ユピテルは相手の脇腹に身体を一回転させながら蹴りをお見舞いした。


セイレーンとして、物心がつく前から特別訓練を受けてきた者たちは、普通の人々よりもはるかに身体能力が高い。


そのため、脇腹に蹴りを喰らったH・タイゾウは大ダメージを受け、尋常ではないほどに吹っ飛んだ。


それに、セイレーンの者たちは、生まれたときから通常の特殊能力者をはるかに凌駕する特殊能力、『超越能力』をその身体に宿している。


つまり、全員が最強ということ。だから、『世界の守護神』セイレーンなのである。


「タイゾーー-ウ!!」


「!!バッ...、バカタレ!俺にかまうな、ユカ!!」


「でもッ...!ぐッ!!」


巨大な左腕がユカを襲う。


「クッソー--ッ!!植生形成!!」


大木を生やすことで上に上がり、攻撃をかわす。ティエラもどさくさにまぎれて大木に手をかけ、上がる。


(今だ!!)


タイミングを見計らうと、ティエラは大木を蹴って急降下し、そのままユピテルの真上まで来ると、そのまま彼の頭に右足を思いっきり蹴下ろした。


その勢いは、地面がえぐれるほどである。ユピテルは少しふらついた。


ユピテルの顔を血が伝う。


「痛ってぇ~...。情けも微塵も感じられねぇ一発だな...。ま、それも仕方ないか」


「?何を言って...」


次の瞬間、巨大な岩石の腕がティエラを襲った。


ティエラはそれをかわし、一旦距離をとる。


ユピテルがそんなティエラに攻撃を仕掛けようとしたそのとき、


「風穴形成!!」


T・ユカが動いた。


ユピテルの背後をとり、T・ユカの攻撃が決まるかと思われたが、攻撃が当たる直前、ユピテルは巨大な岩の両腕をクロスさせ、風穴形成を防御した。


ユピテルがティエラのほうに向き直ろうとしたそのとき、T・ユカはとびかかろうとしたが、なぜか思うように足が上がらない。というか、全く動かない。


「こ...これは...!」


T・ユカの足は、いつの間にか大地から出現した人の腕と同じサイズの岩石の腕によってがっしりとつかまれていた。


そして、気づいたころには、彼女の両側に巨大な岩石の掌があった。


ユピテルはT・ユカを圧死させるつもりだ。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


ティエラは鉄の剣を錬成し、必死に斬りかかる。


すると、さっきまでT・ユカを圧死させようとした巨大な岩石の腕がティエラを拘束した。


ユピテルは自身の腕を大地にめり込ませると、どんどん腕が鉱物に覆われていった。


そして、


「さっきのお返しだ!!喰らえ!!テラ・スマッシュ!!」


巨大な岩石の腕がティエラをユピテルの近くに投げ飛ばすと、そのまま鉱物をまとった拳を思いっきりティエラの顔面にめり込ませた。


ティエラは地面をえぐりながら吹っ飛んだ。


(なんて威力だ...。これじゃお返しどころか、『倍返し』じゃねぇか…)


ティエラは両腕で身体を支え、何とか起き上がった。


「ありゃあ、おとり作戦やったんか...。ティエラのヤツ...、まんまと引っかかってもうたな...」


ユピテルはH・タイゾウのほうに視線を向けると、彼に向って指をさした。


「アース・ショック」


すると次の瞬間、大地が大波を立てながらH・タイゾウに迫ってきた。


「な、何じゃこりゃ!?これじゃまるで、”大地の津波”やないか!!」


H・タイゾウは攻撃の構えをとった。


そして、


「空槍拳...、『乱れ櫻』!!」


『乱れ櫻』


H・タイゾウの使う空槍拳の連打技だ。


しかし、大地の津波はなかなかとまらない。が、数十秒立った、その時だった。


ピシッ


なんと大地の津波にヒビが入り始めたのだ。


H・タイゾウはそのまま連打を続ける。


そして、ついに...


ピシピシッ...、ドガガァーン!!


ギリギリのところで轟音を立て、大地の津波は崩れ去った。


「よし、見たことか!俺の空槍拳の最大の強み、それは打ち込めば打ち込むほど威力が上がるというところにある!!」


「そうか。それはすごいな」


「!?」


気づいたときにはもう遅かった。H・タイゾウはいつの間にかユピテルに背後をとられていた。


「まずはお前だ。じいさん」


次の瞬間、巨大な岩石の拳がH・タイゾウを後ろから殴り飛ばした。


H・タイゾウはうつぶせの状態で地面をえぐりながら吹っ飛び、以前の脇腹のダメージもあってか、そのまま気を失ってしまった。


「そ、そんな...タイゾウが...」


「おい!!感傷に浸ってるひまはねぇぞ、ユカ!!相手はまた抜け目なく仕掛けてくる!!」


「そうだ。抜け目なく、な」


「クッ...クソッ...!かかって...」


ティエラはユピテルから距離をとろうとした。が、なにかがそれを阻んだ。


「こ...、これは...!」


いつの間にかティエラの背後には超巨大な岩山がそびえたっていた。


(ま、まさか...、タイゾウが大地の津波をぶっ壊した時、その際に発生した轟音にまぎれて作ったのか...!?)


そう、こんなに巨大な岩山を作るにあたって、轟音が発生することは避けられない。


そこで、H・タイゾウが大地の津波を破壊したときに生じた轟音を利用したのだ。


なんとも抜け目のない戦略。


(これが...セイレーン)


ティエラはユピテルのほうに向き直り、体勢を整えようとしたが、もう遅かった。


巨大な岩石の拳が容赦なくティエラに打ち込まれ、ティエラは岩山の奥深くにそのままめり込んだ。


そして、ティエラまでもが気を失ってしまった。


「...あと、一人...だな」


「お、おい...、ティエラ、嘘だよな?嘘なんだよな...?...おい!頼むよ!嘘だって言ってくれよ!!これじゃ結局アタシ独りじゃねぇかよ!!」


樺太という静寂の続く空間の中、そんな彼女の悲痛な叫びが響き渡った。


一方その頃...ティエラは心の中にいる”誰か”と問答を繰り返していた。


<クソッ...>


      (どうして...)


           <”また”守れなかった...>


        (”また”...?)


 <これじゃあ、”あのとき”と同じだ...>


                  (いつ...?)


   <叫び声が聞こえる...>


              (ユカの声だ...)


          <助けを呼んでいる...>


                             (行かなきゃ...)


         <思うように体が動かせない...>


     (体中が痛い...)



           <でも...>


      (それでも...)


〈(何もできないのは.........嫌だ!!!!!!!!)〉


二人の思いが交差した瞬間、ティエラの身体に突如、衝撃が走った。


それまでの間、T・ユカは必死に応戦していた。


といっても、風穴形成を繰り返すばかりなのだが。


そして、相手はというと、岩で防御しながら突っ立っている。


「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!!クソッ...!」


「...気は済んだか?」


「...ッ!!」


すると、ユカの両足は以前と同じように拘束され、巨大な岩石の掌が再びT・ユカの両側に出てきた。


今度こそ、圧死させるつもりだ。


「悪く思うなよ。お前んとこの一族のことは...残念だったな...」


そして...


ズバババァー------ンッ!!!!!


突然岩山が木端微塵になった。


砂埃が立つ中、人影が一つ。


「ティエラ...!お前まだ...!」


「いい加減にしろよ...お前...!」


彼の目は、不思議な瞳に変化していた。地球のような...不思議な瞳。

そして、その毛髪も、青みが以前よりも増していた。


(これは...原子か。今まで粒子しか見えてなかったが...、今ならもっとたくさんの物質が錬成できそうだ...!)


そしてティエラは、さっき岩山を粉砕したときにたまたま使った物質をもう一度同じ仕組みで錬成した。


その物質は、ダイヤモンドだった。


「こりゃあいいや...。名付けて...『ダイヤモンド・ソード』...!」


次の瞬間、ティエラは斬撃の構えに入った。


その構えは、なかなか奇抜なものであった。


顔の前に横に剣を構え、ググっとしゃがんだ構え。今にも地面を蹴って飛んできそうな構え。


それは、武道に囲まれて育ったT・ユカでさえ見たことのないものだった。


しかし、ユピテルだけは、一人動揺していた。そしてその時、彼は改めて確信した。


ティエラはやはり、この世界に野放しにしてはいけない、と。


ティエラは攻撃に出た。


その瞬間、彼の姿は砂埃とともに文字通り、消えた。


ユピテルは防護壁を作ろうとした。


が、


「はッ、はやッ...!」


もう遅かった。


気づいた時には、ティエラはユピテルの背後に立っていた。


それから少し後、ユピテルの身体から血しぶきが舞った。


夕日の中だったからか、血しぶきがより一層輝いて見えた。


「ティエラ...」


「まだ意識あんのか。さすがはセイレーンだな」


「...。ゴメンな...」


「!?」


「そうだよな...。それがお前の選んだ道なんだもんな...。そんなら普通、止めるんじゃなくて...、応援してやんなきゃ...、ダメだよな...。ゴメンな...。本当にゴメンなぁ...。俺、結局...お前んこと...」


そう言うと、ユピテルは息を引き取った。彼の目からは、一筋の涙が伝っていた。


「...クソッ!何なんだよ...。なんでそんなコト言うんだよ...!ワケ分かんねぇよ...!」


ティエラは、押し寄せてくるような得体のしれない感情に、独り、ムシャクシャするのだった。


「ティエラ...」


「分かってる。出発は明日にしよう。俺も疲れたしな」


ティエラはH・タイゾウを背負い、T・ユカと休めそうな場所を探すと、そこで眠りにつくことにした。


(気を失ったあの時...俺と一緒に心の中でしゃべってたヤツ...。あの声、間違いねぇ...。夢ん中でいつも『返せ』って言ってくるヤツの声だ。声の主は一体何者なんだ...?過去に俺と何らかの関わりがあったとか...?ヤツは俺の知らない過去のことを少なくとも知っているはずだ。確かにあの時、『”また”守れなかった』とか『”あのとき”と同じだ』とか言ってたし...)


考えれば考えるほど分からなくなってきた。気づいた時には、ティエラは眠りについていた。


そして、


(まただ...。またあの夢だ...)


土砂降りの中、たくさんの兵隊とともにティエラに似た兵隊が倒れている。


その兵隊を何者かが見下ろしている。


そして、『返せ』という声が...聞こえなかった。


その代わりに聞こえてきたのは、少女の声。


『...で』


『...いで』


『...れないで』





『忘れないで!!』


その時、ティエラは目を覚ました。


「おお!やっと起きたばい!!」


「ったくよ...。死んじまったんじゃないかと思ったぜ!」


結構な時間寝てしまっていたようだ。


「おお...タイゾウ、無事だったんだな...」


「ああ!!何とかな!!」


「船はもう出来てるぜ!アタシたちやっと大陸に行けるんだ!!」


「...。よーし、じゃあお前ら!出発だ!!」


「「おう!!」」


こうして三人は樺太を出た。


北の海岸には、質素ではあるものの、世界のために命がけで戦った一人のセイレーンの墓が、地平線を背に、立っていた。

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