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第10話 「対面」

「ここで一つ昔話をしてやろう...

  どうしようもなくバカで格好悪い

       そんな一人の男の話だ...」



風穴拳一族の反乱から1年半が経過した。


ティエラは16歳になった。


例の件の直後は英雄だの希望だのはやしたてられたが、1年半たつと、それも嘘だったかのようになくなっていた。


「それにしてもアレだよなー...」


そう言ったのはユピテル


「?アレでは分からん。何のことだ」


そう不愛想に返したのはティエラ。ユピテルから受け取った缶ジュースの水面を見つめている。


「ホラ、ヴィレイさんが俺たちセイレーンの意見を聞きたいとか言い出したろ?」


「それがどうした」


「そんでよ、ソレイユがセイレーンだけでミーティングするって言うんだぜ?まずミーティングをマトモにできるか心配でさ...」


「俺にそれを言って何になるというんだ」


「え...?そりゃあお前...悩みがあったらダチに相談するもんだろ?」


「お前と友達になった覚えはない」


「そう言うなよ...」


「...まあ、俺にはまず意見がない。その時点で俺はパスだな」


「そう言うと思ったよ...。どーせお前以外のヤツらもそう言うだろうとソレイユは対策を講じたらしいぜ」


「...?どんな対策だ」


「なんと、今日の4時からミーティング開始なんだとよ!なあティエラ、時計見てみ」


そう言うと、ユピテルは自分の缶ジュースを飲み干し、ゴミ箱に投げ入れた。


ティエラは時計を見る。


「3時50分...?あと10分...」


次の瞬間、メールの通知が来た。ソレイユからだ。


「...『訓練施設で待っている』だと?」


「プププ...あっはははは!!つまりだ!ティエラ!お前はもう逃げらんねぇぜ!!」


「!...はめられた」


午後4時、セイレーンは10人全員訓練施設に集合した。


訓練施設の真ん中には丸い大きな机と10人分の椅子が用意されていた。


近くにはソレイユが立っている。


「コレ...全部お前が準備したのか?」


ユピテルがそう言うと、


「...暇だったんだ」


と、ソレイユは恥ずかしそうに言った。


「呼んでくれりゃあ手伝ってもよかったんだぜ?」


「お気遣い感謝する。ユピテル」


皆は椅子に座った。


「大体さ~、俺たちの意見を聞いて何か意味あんのかな~?」


ヴィーナスは苦笑いしながらそう言った。


「ないことはないのだろう...。ヴィレイ殿の御意向だ」


「相変わらずアンタはカタいやつね...サターン。ねぇ、さっさと終わらせない?アタシ、早くショッピングに行きたいんだけど」


そう言ったのはテティス。趣味のショッピングの時間を削られ、いかにもご機嫌斜めというカンジだ。


「雑談はそれまでにして、本題に入ろう。今回の議題は...そうだな...。『戦略』はどうだ?」


「いーんじゃねーの?」


「よし、それでは賛同してくれたユピテルから意見を聞こう。何かあるか?」


「おいおいソレイユ...そりゃねえぜ...。う~ん...。!!そうだ!複数行動を規則化するってのはどうだ?そっちのほうが心強いし、協調性も広がる!」


「ハイ」


「どうした?テティス」


「複数で行動するなら、能力の連携がとりやすい組み合わせにしたほうがいいんじゃない?どう?ユピテル」


「それいいな!」


「決まりだな。他に意見はないか?」


「うーん...。私はないかなぁ...」


そう言ったのはルナ。月のような瞳が青白く光っている。


「俺もないな~」


ヴィーナスは考えるような仕草をしながらそう言った。


「無し」


サターンはハッキリと言った。


「ティエラは?」


「...?さっきまで何の話をしていたんだ?」


「いや、ちゃんと話聞いとけよ!!」


ユピテルがツッコんだ。


「聞いてても聞いてなくてても答えは同じだ。俺に意見などない。指示があれば動く。それだけだ」


「あとの3人は...答える気なしか...」


残りの3人は『俺に聞くなオーラ』を放っている。


「では、今回出た意見はヴィレイさんに報告させてもらう。これにて解散」


ミーティング終了後、ティエラとユピテルは夕日の中を歩いていた。


二人が公園を通りかかったその時だった。


「あ!!ユピテルだ!!ねぇ、一緒に遊ぼうよ!!」


「おッ!いいぜ!!何して遊ぶ?」


ティエラは、ユピテルと子どもたちが遊んでいる様子を退屈そうに見つめていた。


そして夜、


(複数行動...か。面倒だ...)


そう考えながらティエラは床についた。





翌日...約一名を除いて皆言われた通りの時間に集合した。


約30分ほどたったころ、”彼”が走ってきた。


「ハァッ...ハァッ...スマンッ!遅れた!」


「『集合時間』の30分遅刻だ。ユピテル。まあいい...。どうせ...だろう?」


「ハハ...まあな...」


ユピテルがいつも遅刻する理由...それは人助けをやっているからである。


「お前...ビショビショじゃねぇか...」


ヴィーナスがそう言うと、ユピテルは恥ずかしそうに笑った。


「川で溺れてる子がいたから...つい...」


「どーせそれだけじゃないんだろ?それ以外にもいろいろやったんだろ?」


「まあな...。ゴメン...」


「人助けだからな。目をつむっといてやる。...これを言うのも何度目だか」


「いつも悪ィな、ソレイユ」


ちなみに今日のユピテルの人助けの内容はというと...、川で溺れている子どもの救出、老人を背負って階段の上まで運ぶ、観光客の道案内、電柱から降りられなくなってしまった飼い猫の救出などなど...である。


ユピテルは、困っている人を放っておくことができない優しい心の持ち主なのだ。


ソレイユの場合は、ユピテルが遅れてくることを予想して集合時間をわざと1時間早く伝えることにより、時間に余裕を持たせるよう調整している。


ソレイユはセイレーン皆にとって欠かせない、頼りがいのあるリーダーなのだ。


「で?今日はどんな要件で集合がかかったんだ?」


「例の意見が通った。そこで、組み合わせの発表をする。二人一組だ。まず俺はヘルメスと、ユピテルはウラヌスと、テティスはヴィーナスと、サターンはアレスと、そして、ティエラは......ルナと組むことになった。今回の件はそれだけだ。では、解散」


その後、ペア同士で改めて自己紹介する者やそのまま帰る者がそれぞれいた。


ティエラは後者のほうを選ぼうとしていた。


しかし、


「あッ!待って!」


「.........何だ。とっとと済ませろ」


「改めまして...私、ルナ!これからよろしくね!!」


青白い髪に月のような瞳が特徴の少女......ルナは笑顔でティエラに改めて自己紹介をした。


ティエラはそんな彼女を死んだ目で見つめた。


(これは...また面倒なことになったものだ...)

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