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第16話 「開戦」

「そして...戦争が始まった

   今までの全ての悲劇は...

      ここから始まったんだ...」



「これは...一筋縄ではいかなそうだな」


世界連合艦隊の司令長官はそう呟いた。


少し時間が経つと、互いの空母から戦闘機が発艦し始めた。


「撃て―ッ!!」


戦場でのそんな叫び声とともに、大砲や巡航ミサイルなどの撃ち合いが始まった。


世界連合艦隊の旗艦はそんな中で他の戦艦や巡洋艦などに護られながら静止していた。


旗艦は今、狙いを定めているのだ。


「いいか。良く狙え。狙いは、あの空母だ」


その空母の名は、『いずも』。


2022年、空母に改修されてから未だ現役の空母である。


200年も使われているのだ。防御力なども衰えているだろう。


「照準、定まりました!!」


「よし、整備兵!!異常は!?」


「ありません。それでは、私は”別の任務”がございますので」


そういうと整備兵はどこかへと向かっていった。


「別の任務?はて...そんなものあったか...?まあいい。狙いは海防(極東海洋防衛軍)の空母『いずも』!!撃てーーーーーッ!!!!」


ドッオオオオオオオオオオオン!!!!!


とてつもない爆音が鳴り響くとともに、次の瞬間、旗艦は大爆発を起こしながら吹き飛んだ。


「!?」


周りの戦艦などにいる軍は突然の大惨事に驚愕・混乱した。


爆炎の中、一つの脱出用ボートが出てきた。


世界連合艦隊の軍たちは、混乱のあまり、ボートの存在に気づけていない。


小型ボートは、海防の軍艦へ行くと、海防の軍たちによって引き揚げられた。


ボートの操縦者の正体は、整備兵だった。


整備兵の者に艦長が駆け寄る。


「全く、君にはいつも驚かされるばかりだよ」


「慣れておりますので」


そう言うと、さっきまで白人系の姿をしていた整備兵の者の姿が、アジア系へと変わっていった。


声に抑揚はなく、無表情。


「任務ご苦労であった。鈴木太一一等...いや、失礼した。上等兵」


「別段気にしておりません。上等になってまだ間もないものですから」


お互いにそんな言葉を交わすと、2人とも、左手で敬礼を交わした。


「やはり”こちら”のほうが落ち着きますね...。敬礼は」


「そうだな...。本当に、ご苦労であった」


鈴木太一


数か月前の世界国家による極東公国への奇襲作戦の際、2人のセイレーン、ティエラ、ルナのうち、ティエラを生死不明、ルナを戦死に追い込んだ軍人である。


当時は一等兵であったが、この出来事を機に、見事、上等兵への出世を果たした。とはいったものの、当の本人には出世欲がないため、あまり関係のないことである。


この出来事の後、彼は特殊能力『擬態』を用いて、世界国家の首都、エレノイアへ潜入。今に至るまで、世界連合艦隊の旗艦の整備兵に化け、潜んでいたのだ。


無論、本物の整備兵は既に彼の手で殺害されている。


一方、世界連合艦隊は、旗艦の爆散で一瞬にして指揮系統を失ったことにより、大混乱に陥っていた。


一部の軍艦はパニックに陥った軍たちにより、なりふり構わずミサイルを発射する事態になっていた。





なぜここまで多国籍軍は脆弱なのか。


理由は簡単である。


200年もの間、『本格的な戦争』をほとんどしてこなかったからだ。


いままで世界国家が200年行ってきたものといえば、『戦争』とより、『一方的な殺戮』である。


その結果、多国籍軍は、『勝ち』が”当たり前”として認識されていき、その分余裕を抱くようになったことで様々な面がずさんになっていたのだ。


それに対し、極東公国は、200年もの間、世界国家による侵略の恐怖にさらされ続けてきた。


そのため、”いつ来られてもいいように”、着々と準備を進めてきていた。


数か月前は、急な攻撃になかなか対応できず、一時劣勢を強いられたが、2人のセイレーンの犠牲をきっかけに盛り返し、結果、対馬の奪還に成功し、多国籍軍を撤退まで追い込むことに成功している。


世界国家は、己も敵も知らずして戦いを挑んだのだ。


空のほうでも、発艦した戦闘機による大規模な空中戦が行われていた。


「お...おい!機体を見ろ!!」


「ZEROー2...!?」


正式名称は『Fー零ⅡA』。


海防が開発した新型のステルス戦闘攻撃機である。


数か月前の戦争には参加できなかったが、2か月前からついに実戦配備された。


操縦しやすい、高いステルス性、高い精度を持つ照準、高い命中精度と破壊力を誇る空対空ミサイルを装備した、まさに海防の戦闘機における『集大成』といえる機体である。


その高い戦闘力は、かつて第二次世界大戦において連合国を恐怖に陥れた”ゼロ戦”を彷彿とさせるものであった。


次々と世界国家の戦闘機が撃墜されていく。


その光景はまるで...


「”ゼロ”の再来だ...」


世界国家のパイロットは誰もがその戦闘力に戦慄した。


そんな中、航空隊の隊長がこう告げた。


「慌てるな!ヤツらの戦闘力は確かに高い。だが、数では我々のほうが圧倒的だ!いいか、ゼロ一機にたいして、三機で突っ込め!!」


その指令通り、零Ⅱ一機に対して世界国家のFー35Aは三機で対抗し始めた。


すると、だんだんと世界国家のほうが盛り返し始めた。


海のほうでも、指揮の移転が進んだことで、だんだんと世界国家のほうが優勢になり始めた。


やはり、数の暴力には敵わないということなのだろう。





一方...、首都『エレノイア』の軍令部室にて...


ヴィレイと数人の司令官がそこにいた。


「大統領。現在、我々の軍が優勢に傾いたようです」


「そのようだな。だが、油断はするな。相手は極東公国だ。ヤツらは少数超精鋭。一筋縄じゃいかない」


「もっと多くのセイレーンが居れば...」


「起こったことは仕方ない...。今は前を向いてこれからどうすべきかを考えなければ...」


「仰る通りでございます。大統領」


「...少し席を外す」


ヴィレイは廊下に出た。


窓越しにエレノイアの街並みを見つめる。


「それが...お前の”答え”なのか?ティエラ...」


少しうつむくと、ヴィレイは再び軍令部のもとへ再び戻った。


そのすぐ後のことだった。


突然勢いよく扉が開かれた。


そこにいるのは、息を切らした一人の軍。


「どうした?少し落ち着け」


一人の司令官がそう言うと、軍は一旦深呼吸をし、こう言った。


「申し上げます...。沖縄にて、嘉手納の米軍基地にわが軍の巡航ミサイルが着弾...。それにより、米軍4名が死亡。21名が重軽傷を...」


その言葉で、その場にいた者たちの頭は、真っ白になった。


「あ、あのッ...」


「!!続けたまえ...」


「この事件をきっかけにア連政府は...世界国家に、宣戦布告をしました...!!」


「..................最悪だ」


その一言とともに、軍令部室は、絶望の静寂に包まれた。





大西洋にて、軍港で監視していた軍が、他のくつろいでいた軍に突然突っ込んできた。


「おッ、おい!何だよ突然!!びっくりさせやがっ―」


「今、それどころじゃないんだよ!!こっちに来て、見てくれ!!」


半ば興奮状態の軍に見張り台へ連れられ、双眼鏡を渡されると、言われた方向にそれを向けるもう一人の軍。


その顔は、みるみる青ざめていく。


双眼鏡越しに彼らが視たものは、大艦隊、そして、大きくはためく星条旗の姿であった。


たった今、『第四次世界大戦』が、ここに開戦した。





北部地方...ウラル山脈...。


そこにいるのはセイレーンのアレス。


赤白い髪に火星のような瞳が特徴の青年だ。


吹雪の中、彼を岩陰からのぞき見る者が一人。


その正体は、T・ユカ。


覚悟を決め、ユカは立ち上がる。


彼女は、”獲物”に対し、不敵な笑みを浮かべる。


「よーし.........殺るか!!」


たった今、そこでは死闘が行われようとしていた。

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