その日も、朝はいつも通りにやって来た。
出張で不在の両親の代わりに、家政婦が料理を作ってそれを食べた。
半熟たまごのベーコンエッグに、ホットトースト。牛乳を共にし、テレビを観ながら頬張ったのが、遠い昔のようだ。
謎の建造物が世界中に出現したと話題になっており、連日ニュースで取り上げられていたあの頃。
毎日、代わる代わるに科学者やらがゲスト出演し、予想やら見解やらを話していた。
流石に同じ話題ばかりに飽きていた。
だから――早めに学校へ向かおうとして、家政婦に引き留められたのを記憶している。
『
『なんですか? 私学校に……』
『テレビを! テレビを観て下さい! あぁ、なんて恐ろしい!!』
『
そこで、祈理は言葉を失った。
何故なら、謎の建造物――後に漆黒の楔と名付けられる物体――そこから、異形の存在が突如として出現したからだ。
漆黒の身体に翼と尻尾。
顔こそあれど、瞳のないその存在は、次々に人間を襲って行った。
中継をしていた報道記者も、例外なく襲われ……異形の大きな口に飲み込まれて嚙みちぎられ上半身を失い、その命は散った。
カメラマンの映像も途絶え、テレビ各局は騒然とし、各国の元首がその対応に追われる事となった。
本来なら、首脳達が集まり対応を協議するところだが、その時間すらなく、異形の存在達は人々を容赦なく襲う。
だが、予想だにしていない事態は、国の判断を鈍らせるのだと、世界は知った。
特に、日本は顕著であり、対策会議を開いたなど報道されている間に、国会議事堂が襲撃された。
そうして、統率者を失った日本は、混乱を極め、世界で一番早く壊滅した国となった――
それでも……人々は諦めなかった。
日本人は、よく諦めの悪い人種と揶揄されていたが、全くその通りであったのだ。
有志達が集い、反撃に出たのである。
最初は、自衛隊。
次に警察。
そして、消防隊から……一般市民に至るまで。
人々は、トップを失った中でも、懸命に生き延びるために謎の襲撃者達と戦う事を選んだのだ。
そうして行く内に、人々の中から数人……不可思議な力を発現する者達が現れた。
この異能を、天からの贈り物と称した人々は、その異能を手にした者達を主軸として、新たな戦闘体勢を整える事にした。
(でも、それも遠い話だと……あの時は思っていたんだ……)
彼女の運命が動き出したのは、世界が壊滅してから三か月後の事。
避難していたシェルターが――襲撃された日に訪れるのだ……。