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TS魔法少女マジカル💗ジュキちゃん
TS魔法少女マジカル💗ジュキちゃん
綾森れん
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月29日
公開日
9.4万字
連載中
20XX年、埼玉県内の地下鉄延伸工事中に突然、異界とつながる大穴が開き、次々とモンスターがわいてきた。だが日々自衛隊が対処に当たり、事態は沈静化したかに見えた。 しかしある日、大穴から知能の高い女魔人が現れ、人々は戦慄を覚えた(主に露出度の高いビキニアーマーに)。 橘樹葵(たちばなジュキ)は十六歳の男子高校生。 幼児期に戦隊ヒーローに憧れたことはあるものの、現在はギターを抱えて一人曲作りに没頭する陰キャである。密かにロックスターになりたいと夢見てオリジナル曲を動画サイトにアップしているが、全く人気が出ない。 宿泊学習の夜、ジュキの泊まる部屋のベランダに人間の言葉をしゃべる猫がやって来た。猫はジュキに魔法のステッキを渡し、 「女の子と口づけを交わせば変身して、女魔人に対抗できる魔法を使えるようになるニャ」 と話す。 変身して戦うことに胸を躍らせるジュキだが、女子とのキスに動揺する。 だがジュキの部屋に遊びに来ていた女子生徒、七海玲萌(ななみレモ)はなぜかものすごく積極的で、自分からジュキの唇を奪う。 レモとキスしたことでジュキは魔法少女に変身する。かっこいいヒーローになれると思い込んでいたジュキはショックを受ける。だが市民を守るため女魔人と戦う。 女魔人は強かったが、ジュキの可愛らしさにメロメロとなり弱体化した。 魔法少女になったジュキの姿はニュースや動画サイトを通じて人々に知られていき、誰もがその天性の愛らしさに魅了されていく。 鳴かず飛ばずだったジュキのオリジナル曲も、魔法少女姿で歌ったことで評価されていく。 これは華奢な体つきと可愛らしい顔立ちをコンプレックスに思っていた少年が自らの魅力に気付き、堂々と羽ばたいてゆく成長物語である。

01、魔法少女の正体

 月明かりに照らされたスタジアム前の広場に、小柄な少女が優雅に降り立った。


 子供らしい膝小僧の上でピンクのフレアスカートがふわりと広がり、リボンでツインテールに結った銀髪が夜風に揺れる。幼い頬に宿る無邪気な笑みとは裏腹に、子猫を思わせる緑の瞳には戦う覚悟が燃えていた。


 少女のまなざしを受け止めた女魔人は、赤黒い唇をいびつに歪めた。


「ククク、強気な魔法少女め。わらわを倒せるとでも?」


 女魔人の挑発には答えず、少女は光で形作られた魔法の弓矢を構えた。


「エンジェリック・アロー!」


 さくらんぼのような唇から、少女にしては落ち着いた声音こわねが発せられる。耳に心地よい魔法の言葉と同時に輝く弓から放たれた光の矢は、見事な曲射きょくしゃを描いて女魔人めがけてはしった――


「いやぁ、素晴らしい」


 戦う魔法少女の映像が右上に小さく表示され、代わりにスタジオのアナウンサーが画面に映る。


「突然現われて女魔人を撃退したということでしたね」


「中学生くらいかな?」


 コメンテーターらしき中年男が口をはさむと、隣に座る女性ゲストが首を振った。


「体つきからして思春期前の少女に見えますね」


 アナウンサーが現場に向かって、


「魔法少女の正体について何か分かったことはありますか?」


 と尋ねると、映像が日の昇った埼玉スタジアム前に切り替わった。若い女性アナウンサーがマイクを持って立っている。


「少女の姿は多くの自衛隊員が目撃しているのですが、身元については何もつかめていないとのことです」


「かなりの美少女だよね」


 口をはさんだのはスタジオにいるコメンテーター。


「こんなかわいい子が学校にいたら、すでに有名なんじゃない?」


 無駄に頬をゆるませやがって、気持ちの悪い中年男である。


「では最後にもう一度、魔法少女と呼ばれている少女の映像を見ていきましょう。あ、流れますか?」


 アナウンサーが番組スタッフに声をかけると、あどけなさの残る少女の横顔がアップになった。やや吊り目がちの目元は凛として美しい。白い首筋からつながる、薄手の布に覆われた胸にふくらみはない。だが健康的な四肢にはしなやかな筋肉がうっすらと見え、思春期前の女児にしては骨格もしっかりしていた。


 俺はニュース映像から目をそらし、スマホの画面をスクロールしてコメント欄を表示した。


【やべえ。魔法少女かわいすぎ】


 という一番上のコメントに、いいねが何百もついている。


【これマジなの? 何かの撮影じゃなくて?】


 という半信半疑のコメントに混ざって、


【銀髪ロリ最高】


【つるぺた正義】


 などといったコメントも散見されて、俺は思わず身震いした。スマホの画面を消して机に突っ伏す。


 俺は魔法少女の正体を知っている。いや、こいつは少女じゃない。中身は市内の高校に通う十六歳男子――つまりは俺なのだから。


 ホームルーム開始を待つ教室は騒がしい。皆、魔法少女の話題で持ちきりだ。


 だが陰キャで落ちこぼれの俺に声をかける奴はいない。放っておいてくれて助かるってもんだ。担任が来るまで一眠りしようと目を閉じたとき、うしろから太陽みたいに明るい女子の声が聞こえた。


「おっはよー!」


 挨拶する相手は多分、俺じゃない。身動きせずに目をつむっていると軽やかな足音が駆け寄ってきて、俺の前の席に腰を下ろした気配を感じた。


樹葵ジュキ、おはよ」


 下の名前を親しげに呼ばれて、うっすらと目を開けると、


「なんか落ち込んでる?」


 ほっそりとした指先が伸びてきて、俺の白に近い前髪をそっと持ち上げた。


「ひゃっ」


 まさか触られると思っていなかった俺は驚いて身を起こす。俺は生まれつき色素が少なく、髪も肌も異様に白い。日焼けしたイケメンになりたくても日光に当たると火傷のように赤くなるだけなので、小麦肌は目指せないという悲しい宿命を背負っている。インドア派になる以外、道がなかったのだ。


 色素が足りないためグリーンに近い色をした瞳も紫外線に弱く、視力も悪いから教室の黒板もよく見えない。落ちこぼれになったのも不可抗力というやつだ。俺は悪くないもんねっ


「あら、驚かせちゃってごめんなさい」


 クラスメイトの七海ななみ玲萌レモは口元に手を添えて、華やかな笑い声を上げた。


「でも前髪長いと、せっかくの綺麗な顔が見えないわよ?」


 からかいながら、ずいっと顔を近づけてきた。彼女の襟元から女の子らしい匂いがふわっと漂ってきて、俺は慌てて身を引いた。これっぽっちもイケメンじゃないし背も高くない俺に、彼女がなぜ関わって来るのか謎である。


「あの、七海ななみさん。距離が近いんですが」


「私たち親友になったんだから、これくらい普通よ」


 そうだった。おとといの夜――宿泊学習の最終日、俺はこの謎の美少女に親友宣言をされてしまったのだ。親友はおろか友達さえいなかった俺は知らなかったのだが、親友とはひとつのベッドで寝たり、スキンシップしたりするものなのだと教えられた。


「それから樹葵ジュキ、言ったでしょう?」


 彼女はぴしっと人差し指を立てた。


「親友同士は下の名前で呼び合うの。私のことは玲萌レモって呼んで」


「うん、玲萌レモ


 俺は素直に応じた。


 なぜなら俺は今、謎に距離が近い女子なんて気にならないほど重い悩みを抱えているんだから。


 健全な十六歳男子ならスカート履いてツインテで人前に出るなんて地獄だし、絶対誰にも知られたくないだろう。だが問題はそれだけじゃない。


 俺は疑っているんだ。変身の時に使う力の副作用で、男の大事なモノがサイズダウンしていくんじゃねーかって!


 ろくな説明も無しに俺を変身させた怪しい猫の使い魔に、次会ったら絶対に確認しなきゃなんねえ!!

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