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第119話

それから数年後—


妙典みょうでんの桜並木は、今年も見事に咲き誇っていた。その下に、懐かしい顔ぶれが集まっている。


「みんな、来てくれたんだね!」


少し大人の雰囲気になった天音が、嬉しそうに言った。彼女は保育士の制服を着たままだった。


「当たり前だろ、約束だもん」


美羽は相変わらず元気いっぱいだ。体育大学のジャージ姿が、彼女の活発さをより引き立てている。


「遅れてすみません」


眼鏡の直人が小走りでやってきた。手には最新の研究書が握られている。


「研究に夢中で、時間を忘れてしまいました」


「相変わらずだね」


蓮が優しく微笑んだ。穏やかな雰囲気は昔のままだが、大学の心理学研究室での経験が彼に一層の深みを与えていた。


「お、全員揃ったな」


警察官の制服を着た晴翔がやってきた。肩にはまだ新米の階級章かいきゅうしょうだが、その姿は頼もしい。


「懐かしいな、この場所」


「本当に…」


天音は桜を見上げた。


「あれから何年経ったかな」


「正確には…」


直人が言いかけたが、全員が声を合わせて止めた。


「細かいことはいいの!」


笑い声が桜の下に響き渡った。


「でも、本当に色々あったよね」


美羽が懐かしそうに言った。


「『天秤の守護者』の戦い…今思うと夢みたい」


「夢じゃないよ」


蓮は静かに言った。


「僕には、今でもあの日のことが鮮明に見える」


「そうですね」


直人も頷いた。


「現在の科学では説明できないことも多いですが、私たちが経験したことは紛れもない真実です」


「あれから、旧神たちの動きはないのか?」


晴翔が天音に尋ねた。


「ない…」


天音はペンダントに手を当てた。今でも彼女はそれを身に付けていた。


「でも、いつか目覚める可能性はあるかもしれない」


「その時は」


晴翔はきっぱりと言った。


「また俺たちが立ち向かう」


「うん」


全員が頷いた。


「でも、今は…」


天音は穏やかに微笑んだ。


「平和な日々を楽しもう」


「そうだね!」


美羽は元気よく手を叩いた。


「それじゃあ、恒例の『天秤の守護者』同窓会、始めよう!」


「今年も徳願寺とくがんじで花見かな?」


蓮が提案した。


「そうしよう」


天音も賛成した。


五人は並んで歩き始めた。桜の花びらが彼らの道を優しく彩る。


その道は、未知の未来へと続いていた。


―― 了 ――

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