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火力バカうさぎ、推理で殴る
火力バカうさぎ、推理で殴る
雨宮徹
ゲームゲーム世界
2025年04月30日
公開日
1万字
連載中
大地震と海面上昇により、かつての日本は失われた。人類は移動式の浮島で暮らし、仮想世界《ユグドラシル・オンライン》が社会の主軸となった未来。 私はこのゲームで、“最強のイケメン剣士”だった。 攻撃力全振り、戦闘は脳筋、見た目は完璧イケメン。 リアルでは普通の女子高生でも、ゲームの中では主役だった。 ……なのに、なぜか運営に呼び出され、 「探偵になってくれ」とウサギのモブアバターに変えられた。 は? いやいや、私、推理とかできるタイプじゃ……。 ――いや、ちょっと待て。何かおかしい。 ゲームの中で、“本来起こるはずのない事件”が、確かに始まっている。 これは、ただのゲームじゃない。 この世界を守れるのは、火力だけじゃないらしい。 剣とツッコミで、私はこの世界の闇を暴く。 火力バカうさぎ、推理でログイン! ※2025年5月にピックアップされました。

正義執行

火力バカうさぎ、爆誕

 剣を構える。薄く笑みを浮かべながら、オレ──あ、リアルじゃ女子高生だから「私」か。……まあいいや。このゲームの中では、私は最強のイケメン剣士だ。


「ふん……雑魚どもめ」


 長い銀髪に鋭い瞳。完璧に作り込んだ理想のアバター。このアバターを作るのに50時間はかけた。眉の角度から口元のバランスまで、納得がいくまで微調整。結果、イケメン度MAXの完璧剣士がここに誕生した。


 そして、ステータスは火力全振り。防御? 回復? そんなものは味方に任せる。火力は正義なのよ。斬撃一閃、たった一振りでドラゴンを吹き飛ばす。


 ド派手なエフェクトがフィールドいっぱいに広がり、モンスターの断末魔と同時に「クエストクリア」の文字が光った。


 周囲のプレイヤーたちがどよめく。


「さすがだな」「俺もあんな風に活躍してぇ」「あれ絶対ステ振り狂ってるだろ……」


 よしよし、今日もイケメン完璧……。


 そんな自分に、心の中でガッツポーズ。カッコつけてるけど、内心ではニヤニヤが止まらない。


 ──その時だった。


《【緊急】運営システムメッセージ:あなたを特別任務にスカウトします》


「……は?」


 見慣れない通知が頭上に表示される。しかも、金色の縁取りに“未分類タグ”。今まで見たことないタイプのシステムメッセージだ。


 次の瞬間、まばゆい光が視界を覆った。光の奔流。感覚のない浮遊。そして……着地音?


 気づいたら。


 私は、ウサギになっていた。


 ぴょん。……ぴょんぴょん。


「な、なにこれ!? ジャンプしかできないんだけど!? しゃがみボタンがジャンプに割り振られてる!? いやどんなUI設定だよ!?」


 ふわふわの白毛。丸っこいフォルム。手足短すぎて武器すら持てない。……明らかに──モブ中のモブ、NPCのうさぎだ。


「落ち着いてください。あなたは選ばれたのです」


 突然、目の前に巨大なスクリーンが浮かび上がる。そこには、運営スタッフを模した黒スーツの男性アバターが映っていた。眼鏡、無表情、無駄にイケボ。なんだこいつ、AIか?


「……何これ、演出? イベントか何か?」


「いえ。これはシステムレベルでの直接対話です。あなたには、“ある特別任務”を遂行していただきます」


「特別任務? いやいやいや、話が早すぎない? なんで私が?」


「あなたの推理力を高く評価しています。過去、謎解きクエストでは全問正解。さらにはギルド内トラブルの仲裁も見事に──」


「うそ、そんなログまで見てるの……? てか火力でゴリ押ししただけだけど……」


「それで十分です。あなたには、ゲーム内で起きている“ある事件”を調査してもらいたいのです」


 スクリーンに映し出される、赤く染まった草原。プレイヤー同士の戦闘ログ。その中に、見覚えのある名前があった。


「……え、これって、うちのギルメン……?」


「詳細は現地で。あなたは、他プレイヤーに気づかれず調査を行う必要があります。そのため、モブアバターに変更させていただきました」


「いや、だからって……うさぎ!?」


「可愛いは正義です」


「正義じゃねえよ!? 火力バカ剣士どこ行ったの!?」


「火力バカうさぎになっていただきます」


「余計タチ悪いじゃん!」


 ふざけたやり取りの最中も、私の姿はずっとぴょんぴょん跳ねてる。止まれないのかこのうさぎ仕様……!


《新たなクエストが発生しました:

 特別任務・モブ探偵、始動》


 こうして、最強火力のイケメン剣士は──可愛い見た目の火力バカうさぎ探偵として、ゲームの闇に立ち向かうことになったのだった。





 ──翌日。


 ぴょん。ぴょんぴょん。うさぎ姿にもだいぶ慣れてきた。というか、ジャンプ移動しかできないのが地味にキツい。


「うぅ……この見た目で高レベルエリア行くの、罰ゲームすぎる……」


 かわいい見た目と裏腹に、中身はステータス全振りの火力バカ剣士。でもそれを活かす場面は、今のところ全くない。


「ていうか、本当に事件なんてあるの? ただのPvPじゃないの?」


 ぼやきながら森を抜けた、その時──。


「っ……!?」


 視界に、赤いログが走った。プレイヤーが、プレイヤーをキルした通知。


 またPKか……最近、ほんと増えたな。


 ゲーム内ではプレイヤーキル(PK)は合法だ。ただし、ほとんどのプレイヤーはマナーを守って共存している。なのに、ここ数日──急にキルが増え始めた。しかも、キルされた側の名前に見覚えがある。


「……この人、確か珍しい素材アイテムを拾ってたって噂が……」


 ログをたどってみると、直近でPKされたプレイヤーは全員、特定のアイテムを所持していた。


 偶然じゃない……?


 その時だった。


「うそ……!」


 再び流れるキルログ。その名前を見て、私は目を見開く。それは、うちのギルメン。一緒にレイドに行って、何度も死にながら素材を集めた、仲間だった。


「……何が起きてるのよ……!」


 思わず叫んでいた。


 ぴょん、と跳ねる足音も、今は悔しさで震えている。


 その瞬間、頭上にまたしてもホログラムウィンドウが現れた。


《システムメッセージ:位置を確保してください。運営より通信が入ります》


「また……?」


 近くの岩にジャンプして安全な場所を確保すると、黒スーツの運営スタッフのアバターが映し出された。


「ご協力、感謝します」


「協力って……こっちは聞きたいことだらけなんだけど!」


「この件に関して、あなたには特別な調査を依頼します。PKを行っているプレイヤーの特定は、我々もすでに済ませています」


「……じゃあ、止めればいいじゃん。なんでそれを私に?」


「彼は、ルール違反はしていません。PKはあくまで、ゲーム内で認められた行為。しかし──我々には理解できない“理由”があるようです」


「理由?」


「彼は、殺した相手すべてに共通する“何か”を持っている。それが何かを、我々は知りたいのです」


 画面が切り替わり、赤いログと共に、死亡したプレイヤーのリストが表示された。


「動機を突き止めてください。あなたの火力と頭脳、そして……この見た目なら、彼にも警戒されにくいでしょう」


「うさぎで火力バカって、ほんとどういう判断だよ……!」


《任務詳細更新:標的プレイヤーとの接触、及び動機の特定》


 ──わかった。やってやるよ。


 火力バカうさぎ、捜査開始。

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