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火力は正義

 夜が明ける。ログイン画面の背景が淡く輝き始めたその時、私はうさぎを脱ぎ捨てた。


 久々に装備する剣士用アバター。肩当ての銀、マントの青、何より──背中に背負う大剣の重さが懐かしい。筋肉の張り、風の感触、地面を踏みしめる感覚。これが私の戦闘スタイル。「火力バカ剣士・ユウキ」、ここに再起動。


 戦場は草原エリア。前回と同じ場所だ。けれど、今回は決着をつけるために来た。


 YASUはすでにそこにいた。新たなキル対象と向き合っている。


「やめなさい、YASU!」


 私の声が響くと同時に、地面に大剣の先を突き刺して停止。


 彼は、ゆっくりと振り返った。うさぎ姿ではなく、剣士のアバター──つまり、本気の私を見て、YASUの目が細まる。


「やっぱり、お前だったか」


「火力バカうさぎじゃない。ユウキだよ。そして今から、探偵じゃなく、戦士としてあんたを止める」


「こっちは遊びじゃない。だったら、正面から来いよ」


 YASUが剣を抜いた。


 一瞬の静寂ののち──激突。


 地面を抉る一撃。だが私の大剣は、それを弾いた。


 彼の動きは速い。正確だ。しかも、読みが鋭い。だが、私は火力だけにすべてを捧げたステータス。


 一撃のダメージが違う。


「っ……お前、化け物かよ……」


「うさぎでぴょんぴょんしてた分、脚力も強化済みよ!」


 跳躍からの振り下ろし。彼のHPゲージが大きく削れる。


 彼は、歯を食いしばりながら叫ぶ。


「それでも俺は、正しいと思ってる! 不正に対して何もしないなんて──それこそ、ゲームを殺すことだ!」


「でも、その方法で人を斬るたび、誰かの遊び場が壊れていく」


 最後の一撃。火力全振りのスキル《イクリプス・エンド》を発動。


 YASUの身体が、光に包まれ崩れる。


 ログにキルの文字が表示される。けれど、どこか虚しい。


 戦いが終わり、ログアウト間際のYASUがぽつりと言った。


「運営は、変わらねえよ。俺みたいなのがいなきゃ、誰も戦わない」


「戦い方を間違えなければ、あなたの正義だって……きっと、誰かに届いた」


 ログアウト音と共に、彼の姿は消えた。


 私は空を見上げる。


 ──秩序は守られた。でも、何かが残った。


 ギルチャには、ミサキやアユミたちの他愛のないやり取りが戻っていた。


「おい、ユウキ。次のドラゴン、また行くでしょ?」


 私は少し笑って、返した。


「もちろん。次は、火力で焼き尽くすだけ」


 火力バカ剣士・ユウキ、ここに帰還。


 うさぎと剣士、探偵と戦士。いくつもの顔を使い分けながら、私は“この世界”を守っていく。

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