瘴気の森の中にて、草木をかき分けて銀色の体には木漏れ日が反射する。
「反応が消えてしまいましたねぇ……」
戦闘からいち早く逃げていた銀色の使徒幹部サソリは晴山優吾とギンロの融合体である少年を探していた。一時は遭遇したものの、あまりの魔力の高さと戦闘力に即座に戦力を削られてしまい、サソリ側が逃げてしまう程の強さである。
「さて、結局そこらの雑魚どもでは、戦力になりませんねぇ……それにしても、あの強さは異常でしたねぇ……ん?」
ふと見下ろすと融合体が車に乗って山を降りていくのを見た。
「結局、
サソリは魔法術対策機関を追って山を下りた。
「必ず、あなたをこちら側へと戻す。」
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優吾と思われる少年は先ほどからずっと窓の外を少しソワソワとしながら見ている。
「優吾ちんどうしたん?」
「……俺は優吾ではないが、いや、なんでもない。もう少しスピードは出ないのか?」
「何か心配ごとか?」
「いや、なんでもない……」
優吾と思われる少年はソワソワとしながらも落ち着くように胸をなでおろす。それを見ていた彩虹寺へ旋風寺が話しかける。
「……心配ですか?」
「な、なにがだ?」
「いえ、先ほどから随分とあの少年を見つめているものでしたから。」
「わ、私は別になにも、たまたま視界に入るだけだ。」
その会話に覇々滝も入る。
「ほほ~ん?優吾先輩に似てて、でも話しかけられないもどかしを感じるっスね~」
「そ、そそ、そんなことは……」
数時間後、一同は無事本部へ到着して、早速、子供二名と少年の身体検査を始める。子供二名はあの瘴気の森にいたのにも関わらず健康に異常なし。ともに年齢は10歳で親族関係はなし。名前はジュンとチハヤといいともに親族に捨てられたそうだ。そして、気になる少年の検査結果であるが、衝撃の結果が告げられる。
「いやぁ、参ったね。こればかりは」
「何か異常でも?」
「いや。異常は……まぁあるっちゃあるんだけど……」
「もどかしいな。さっさと言え。」
「……驚かないで聞いてね?彼は晴山優吾であり、ギンロ=シルヴァスでもある。」
「ど~ゆこと~?」
「ん~多分ね、肉体が互いに吹き飛んだ二人がさ。何らかの魔術を使って肉体を融合させてんだと思うんだ。魔力の質の事態はギンロ=シルヴァスで、体の本質を作り上げているのは晴山優吾ってところかな。とにかく、二人は混ざり合っていてそして二人の意識が回復するまでの間の人格が彼ってところかな。今わかるのはこれくらいだね。」
「どちらでもある……」
「面白いことになってんな。」
「魔族でもあるってことなんだね~んじゃ、拘束しとくのが得策かな~?」
四人がうなっていると融合体がやってくる。星々は融合体へ近づきどうしたのかを尋ねる。
「どうしたんだい?」
「あいつら二人はどうだった?俺は俺の覚えている範囲で料理をしていたからちょこっと心配なんだ。」
「……あの二人は大丈夫だ。むしろ瘴気の森が近い土地でよくあそこまで健康を保てたことに感心するよ。」
「そうか、あと、あいつら親に捨てられたみたいなんだ……ここは、俺が正しければ孤児院もやっていると記憶しているんだが……」
「あぁ、やっているよ。大丈夫だ。あとは僕らが面倒を見る。君は今、自分のことを心配した方がいい。」
「……わかった。」
融合体はそのままジュンとチハヤの元へと向かって歩いていった。その後姿を見て三人の班長は安心とともに少し心配になる。
「優吾の部分が大きく表に出ているが、いつ、ギンロの部分が暴れるか、時間の問題かもな。」
「まぁ、その時はその時でしょ。」
「今は見守るのが基地です。」
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キッズルームにて、ジュンは児童文庫を読み、チハヤはドリンクバーでドリンクを混ぜて飲んでいる。そこへ融合体が入ってくると二人はすぐに融合体へ近づく。
「お兄ちゃんどうだった?」
「大丈夫だってさ。」
「そうなんだ。で、いつ帰れるの?」
「……前から言ってたが、あの場所はお前らや俺がいるべき場所じゃない。お前たちはここで子供らしいことをしてろ。」
「お兄ちゃんは?どうするの?」
「俺は……まぁいいだろそんなの。とりあえずお前ら二人は今日からここで暮らすんだ。」
二人は少し悲しそうな顔をしながらもそれぞれの場所へ戻って読書などを再開する。
「そうだよ。人間は人間らしく暮らしていけ。俺は……」
融合体は部屋から出て廊下へと出る。ドア越しに彩虹寺とばったり出会う。彩虹寺は融合体へ目が合うと少し動揺している。
「や、やぁ……」
「おう。ありがとな。」
融合体は彩虹寺と話しても何も思わずすれ違う。その淡白な反応に彩虹寺は少ししょんぼりしながらも子供たちへ近寄り紙を一枚渡す。
「ジュンくん、チハヤちゃん。二人には学習テストを受けてもらうからそこの机にすわってくれるかな?」
二人はうなずくと近くの机に座って配られた紙と鉛筆を受け取り、合図とともに筆を走らせた。融合体は廊下を進んでいき、背後に悪寒とともとれる魔力を感じる。
「追ってきやがったか……」
融合体は周りの誰もいないことを確認して本部からこっそりと出て行った。本部を出て、驚異的な瞬発力でビルの谷を翔る。そして、人気のない高架下まで来ると動きを止めて追手の方へ体を向ける。そこにはサソリが優雅にたたずんでいる。
「しつこいぞ。虫男。」
「酷い言い方ですねぇ。かつての仲間へ向ける言葉ではないでしょう。ギンロ」
「何度も言うが、俺はギンロではない。」
「それでは、お名前は?」
「……さぁな。記憶にある名前だとハルヤマ ユウゴと言う名前が大半を占めているが、俺自身は俺がハルヤマユウゴだとは思っていない……だからと言ってギンロ=シルヴァスだとも思っていない。」
サソリは身体を魔族体へと変えて尻尾で拘束しようと融合体へ素早く伸ばす。融合体はそれをよけてサソリへ距離を詰めて拳を振るう。サソリは口角を上げて伸ばし切っていた尻尾を再度融合体へ伸ばして拘束する。
「……しまったな。」
「いや、違いますね。わざとですねぇ。」
融合体は尻尾を力一杯引きちぎると綺麗に着地してサソリへ拳を当てる。
「やはり気持ち悪いですねぇ…」
「その言葉そっくりそのまま返してやる。」
融合体は首元から霊石を取り出すとサソリに見せつけるように前に出して握る。
「お前は今日ここで倒す……魔装!」
霊石が輝くと周りに銀色の鉄塊が現れてる。ゆっくりと歩みを進めていくとその塊たちは融合体の体へ突き刺さり鎧の形を作っていく。サソリは尻尾を再生させてすぐに伸ばす。融合体はそれをかき分けて魔装を完了させる。
「
銀色の餓狼は拳を固めて魔力を放出した。その魔力に魔法術対策機関の班長たちが反応しないわけはなく、三人はすぐにあふれ出る魔力の位置へと向かった。
2/2:銀鎧