命からがら逃げてきた落雷はそのまま銀色の使徒を巻いたことを確認して近くのジムへと逃げ込んだ。息を整えてジムでサンドバッグを突いて落ち着こうと中へと入っていく。そこにはいつもジムを使用している利用者がいたりするが、その中に今夜の対戦相手の
「……アカネ、いいパンチだ!このパンチなら相手にも勝てる!」
「ありがとうございます。」
茜は汗を拭きながら落雷を発見する。落雷は茜と目が合うと勘で悟る。
『こいつ、人間じゃなくなっている……!?』
茜は落雷の考えていることを察したのかにやりと口角を上げる。そして、茜は落雷へボクシンググローブを投げつける。
「光。軽く一戦やってみようよ。」
「……本気で言ってるのか?」
リングに上がれと言わんばかりに顎を動かす茜に促された落雷は、グローブを拾い上げて嵌めて準備ができている茜へ視線を送る。茜は専属のトレーナーへ審判をするように目線を送る。
「しかし、試合が……」
「軽くやるだけさ。光もいいだろ?」
「……もちろんだ。確かめたいこともあるしな。」
茜は口角を緩やかに上げてステップを踏んだり肩を回したりする。落雷も同じように戦闘モードへ切り替えてトレーナーの開始の合図で二人は互いに近づきエキシビションマッチ前のエキシビションが始まる。周りも有名選手の試合に盛り上がって視線が集まる。落雷が右フックを繰り出すが、茜はガードも回避もせずそのフックをボディに受ける。周りは決まったと茜のひるみを予想したが、落雷は全く手ごたえを感じずにバックステップで逃げようとしたが、茜は目にも止まらぬ左ストレートを顔の目の前に突き出して鼻先で止める。
「はい、僕の勝ち。」
「まだまだ……」
落雷はそのまま茜のボディへ同じように左のストレートを打ち込むが茜はまたガードも回避もせずにストレートが決まる。しかし、全く手ごたえがない。落雷はそこで確信した。こいつは完全に魔族になっていると。落雷は左腕を引き、グローブを投げ捨てた。
「どうしたの?光。まだまだやれるんじゃないの?」
「いや、俺の負けでいい。あとはエキシビションに取っておく。」
周りは落雷が負け惜しみを言っているように聞こえたようで今日は百道 茜が勝つという空気が流れていた。茜はそのまま落雷を追って入口で呼び止める。
「なんだ?まだ自慢したいのか?もらった力を。」
「なんだ気づいていたのか。それなら君にもこれを……」
小瓶を差し出した茜の手から小瓶をはたき落とす茜は首をかしげて落雷はそんな茜へ怒りのまなざしを向ける。
「何をそんなに怒っているんだい?」
「お前のそれはお前の一番嫌悪するドーピングと一緒じゃないのか?」
「細胞を入れ替えているんだ。これはドーピングと似て非なるものだ。それに、」
「……こうでもしないと俺に勝てないか?なぁ、そんなに勝利が大事か?」
「当たり前だ。君もその拳で世界を取るためにこの世界に入ったんだろう?」
「そうだが、俺は人間性を捨ててまでの勝利はいらない。お前も以前そうだったはずだ。」
茜は無言でにこやかにジムの中へ戻っていった。
「俺は、お前に絶対に負けない。」
落雷はホテルへ戻って汗を流そうとジムの外へ完全に出ると高校生たちが待っていましたと言わんばかりに立っていた。通り過ぎようとしたが、その一人に肩を掴まれる。ファンか何かだと思い少し苛立ちながら立ち止まる。
「なんだい?サインなら今ちょっと急いでるからまた今度……」
「いえ、我々は魔法術対策機関です。落雷 光さん。あなたを保護しに来ました。」
落雷はその場で困惑の表情を浮かべて首を傾げた。
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時は昼まで戻る。学校の中庭にまるでピクニックのような雰囲気が漂う男女がいた。彩虹寺を含めた魔法術対策機関の面々が昼食兼作戦会議をしていた。彩虹寺はスマートフォンでテレビ電話をつなげて一班 班長 星々 琉聖の顔を映し出して、優吾の見た映像を聞く。
『ふむふむ、確かに今日は落雷 光と百道 茜のエキシビションだからね……』
「とりあえず、保護って形で迫るのはありですか?」
『それはそれでありだね。ただ、いつ襲われるかだね。』
優吾はそういわれて映像を思い出して辺りの明るさや時間帯を思い出す。うなって唸って数分後、口を開く。
「……わかんないです。でも、なんか辺りが異様に明るかったから夜だとは思うんすけど……」
『それだけでも十分だね……と言うことを踏まえると、学校終わりにアリーナ近くにいる落雷選手や百道選手を保護するのを目的にした方がいいだろうね。それじゃ、皆、落雷選手を保護して、魔族の鎮圧だね。二班と三班の皆は僕から班長に伝えておくからさ。』
一班と優吾以外の面々は昼ご飯を食べながらうなずき、作戦に同意した。面々は昼食をすませ、再度作戦の確認をして午後の授業へ向かった。
2/23:晴天