エキシビションマッチ当日。山の中にて銀色の使徒の信者の一人。教祖代理であるサソリを連れて山の奥へ来た。手には銀色の液体が入った小瓶を持ち、その小瓶を開けると足元にあった汚れた池へとすべてこぼす。その池の中には蚊の幼虫であるボウフラが無数に泳ぎ回っていた。
「教祖代理、これで即戦力は簡単に増えるかと…」
「ふむ…蚊ですか…信者に一人いましたが、増えるのは悪くないですねぇ」
「でしょう?でしょう?これで信者を増やし、さらにそこからまた信者を増やす……これで我々の戦力も拡大されていくでしょう……」
信者は喜びのあまり足場の悪い池のふちを歩き回ってサソリへ作戦を熱弁する。そんな時、雷雲の中で雷が光ると近くで雷が落ちる。その音に驚いた信者は足を滑らせて池の中へと落水した。サソリは慌てて信者を助け出そうと手を伸ばしたが、すぐにその手を引っ込めてしまう。水中でもがく信者はなぜ手を引っ込めたのかと藻掻いたが、体にボウフラがまとわりついてきて気づく。
『これは、私も助けるのを躊躇してしまうな…』
信者は銀色の魔族細胞を取り込んだボウフラに血も魔力も吸われてしまい、骨が水底へと沈んでいった。ボウフラ達はその魔力と血を栄養にして急成長して数ミリの体が成人男性サイズへ巨大化する。サソリはそれを見てうまくいったことを喜ばしく思いその場を後にした。
その後、ボウフラはさなぎになり、羽化して蚊の魔族へ変態した。
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晴山 優吾、獅子王 玲央をサポーターに迎えた魔法術対策機関 第三班の二人はとある森へと向かっている。最近になって近くの集落で畑が被害を受けているそうでその問題を解決するために近くの森へ向かっていた。
「はんちょー!この辺に何やら怪しいキノコが!」
「あぁ~…それはただの怪しいキノコだ。食べるんじゃねぇぞ~」
「はんちょー!こんなところに何かの足跡が!」
「…それは、鹿の足跡だな…この辺獣道になってるからな~」
「はんちょー!」
「はぁ、覇々滝。お前、高校になったんだからちったぁ落ち着け。」
一心にたしなめられた覇々滝は少し縮こまりながら歩く速度を落とした。覇々滝は優吾と玲央の方へ振り向くと、二人は汗だくで息が上がっており今にも死にそうな顔をしている。
「この山、結構な傾斜なんだけど…なんであの二人はいつものコントしながら上がれてるの?」
「ど、同感だ。オレたちの体力じゃここは厳しい…」
覇々滝はそんな死にそうな二人を見て一心に休憩しようと相談する。
「あほか。この任務は今日中だ。この時間に休むと帰りが夜遅くになっちまう…つうか、そこの男どもは体力なさすぎだ。これを気に体力づくりをしろ。ほら、行くぞ。」
一心はそういいながら優吾と玲央を置いていくように歩みを早めた。
その結果…
「迷った。」
「みたいだな。」
優吾と玲央の二人は見事に遭難した。数分前まではまだ三班の後姿は見えていたのだが、しかし、そこから二人はまたバテてしまい、やがて背中すら見失い、今に至る。
「どうするか…」
「とりあえず、この道をまっすぐ行けばいつかは追いつくだろう。」
「だなぁ…とりあえず、行くか。」
二人はとりあえずまっすぐに進み、登りから下りに差し掛かったときに問題が発生する。道が二手に分かれているように見える。まっすぐは獣道すら消えており林が生い茂っている。
「右か左、どっちかだ。玲央さんどっちがいい?」
「優吾が決めてくれ。オレはどうにも昔から二択を外しやすい質のようでな。」
優吾はうなると長考してたどり着いた答えが右の道だった。玲央はその選択に首を縦に振って優吾とともに歩み始めた。右の道を歩き始めて数分。だんだんと木々が高くなってきて日の光が遮られて来る。
「間違ったか?」
「まぁ、原因を突き止められれば遭難しても問題はないだろう…それよりも、この先、なんだか違和感がする…」
「違和感…?」
「銀色の魔族と一時的に一緒にいたときこんな感じだったんだ。」
警戒している玲央に続き、優吾も警戒心をもって歩く。やがて優吾もその異様な感覚を肌で感じ始めてその耳に無数の羽音も入る。やがてうるさい羽音とともに二人の眼前に銀色のソレが現れる。長い口に四枚の羽に壊れそうな細い体。不快な羽音が耳に入る旅に夏の夜を思い出す。
「蚊だな…農作物もこいつらだろ。あいつら血以外だと植物の蜜を吸ってたりするし。」
「しかし、何でこんな数が…」
二人が大群を見ていると一匹の蚊が二人に気づきそれを仲間に知らせるため先ほどよりも羽を激しくこすり警告音を響かせる。それに気づいた仲間は二人へ視線を向けて警戒の羽音を出して二人を取り囲んだ。
「これは…」
「まずいな…」
二人は背中合わせで拳を構え、優吾は石を握る。
「魔装!!」
鉄の塊は二人を守りながらあたりを飛び回る。優吾へ突き刺さり鎧の形を形成していく。
「
優吾は拳を前に突き出して魔族の壁に穴を開ける。そして、玲央の腕をつかみ思いっきり投げ飛ばす。
「な!?優吾!」
「玲央さんは三班を呼んできてくれ!」
慣性に抗えずに玲央はそのまま来た道をまっすぐに飛んで行った。
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