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2/37:氷獄

氷の翼を広げると体の熱が一気に上がる。その翼を見た白い彼女は自然を一歩後ずさる。夢希は氷に反射した自分の姿を見て顔を歪める。そして、理性が消えていくのを感じつつすぐに白い彼女の制圧を始める。


「行きます。私の理性が残っているうちに…」


一気に距離を詰めた夢希は白い彼女へ迫り背後へ回って羽交い絞めにしながら建造物から一緒に落ちる。地上数十メートルの建造物からの落下、白い彼女は背中の翼を広げようと躍起になるが、夢希はそれを許さずそのまま流れに身を任せる。だんだん白い地面が迫る中、夢希はその手をより一層固く固定する。そして、二人は白い土煙を巻き上げながら地面に突っ込む。互いに立ち上がるのを見るとにらみ合い互いの出方を見る。夢希は視界のぐらつきがさっきよりもひどくなっているのを覚え肩で息をする。


「まずいですね…あと五分程度でしょうか……」


何振りかまっていられないと夢希は動き出す。白い彼女も夢希が動いたのを見て一緒に動き出す。氷魔法を使った白い彼女は巣の中にいた小さな白い彼らを顕現させて夢希へ向かわせる。夢希はその彼らを冷静に捌き白い彼女へ距離を詰める。氷の翼を思い切り振ると羽一枚一枚が彼女へ突き刺さる。しかし、その攻撃もあまり効いている様子はなく白い彼女は彼らへ指示を出して夢希の翼に噛みつかせる。夢希の翼からは血が滲み、赤く染まっていく。痛みと共に夢希の視界のぐらつきがまた一層ひどくなる。


「ぐっ…まだ、まだ…」


しかし、彼女は容赦なく次の攻撃を夢希へぶつけて完全に夢希を制圧してしまう。彼らにむさぼられる夢希、体から血が滲み全身が真っ赤に染まる。


「あぁ、これは…」


言葉を続ける前に夢希は理性とともに意識が途切れた。


───────────────────


膨大な魔力量に琉聖は慌てて体を起こす。あたりを見回すと凪が彩虹寺と一緒にかまくらを作って身の安全を確保していた。


「夢希ちゃんは!?」


「おそらく、あの建造物に向かったと思われます…この異常な魔力量も多分……」


琉聖は嫌な予感が頭をよぎり、すぐにかまくらから出ようとするが吹雪が強く吹き躊躇させる。


「まずいな…夢希ちゃんは完全にあれを使っているね。」



琉聖の言葉に凪も首を縦に振り不安そうな表情を浮かべている。彩虹寺は二人のいつもと違う雰囲気に質問する。


「あの、雪白は何を使ったんですか…?まさか、禁忌の魔法とかの類じゃ……」


「いや、そこまでのことはしていない……でもこのままだとおそらくこの地域一帯が絶対零度の地獄と化す…」


「地獄……?」


あまりピンときていない彩虹寺に凪は説明を始める。


「ボクら半ぱ者には最終手段があるの…僕らは限界突破リミットブレイクと呼んでる…体中の魔力を減らす代わりに魔族と同等の力を得るけど反動で理性のタガが外れる技法…一度発動させてしまったら最後あたりを破壊しつくすまで止まらない……」


「暴走ってことか…?それなら今すぐにでも……」


身を乗り出した彩虹寺に、琉聖は肩を掴んで止める。


「班長…?」


「僕が行く…綾那ちゃんと凪ちゃんはここで待ってて。」


一人で吹雪の中へ飛び込もうとした琉聖の肩を二人がつかんで止める。


「」


「二人とも………」


「一人では行かせません。」


「家族でしょ?おにぃ一人で背負いすぎ。」


三人は力強く首を縦に振って吹雪の中を歩き始める。炎の魔法で三人は前を照らしながら建造物へ向かって歩く。時折新雪に足を取られながらやがて建造物が見え始めてその頂上に夢希の姿が見えた。あたりには誰もいない。夢希は三人を見下すように斜に構えている。その殺気から琉聖は夢希がすでに暴走状態になっていることを悟った。


「まずいね。完全に暴走状態になってる。」


「ゆきねぇ…ごめんね。」


三人はそれぞれ魔法の準備をしながら向かってくる夢希を迎え撃つ。彩虹寺は炎の魔力を最大限に出力して吹雪をもみ消しあたり一帯を明るく照らす。その炎の下に入った夢希に向けて凪は魔法を使って夢希の動きを止める。



影縛りシャドーチェーン!」


しかし、夢希は翼をはためかせてあたりの吹雪を強くする。炎の光はもみ消され、影も薄くなっていく。そのまま凪と彩虹寺は夢希に吹き飛ばされ、琉聖と一対一になる。


「夢希ちゃん………行くぞ…」


琉聖は深く息を吐き、「安心して死んでも生き返す」とつぶやくと手を振り上げる。


「久しぶりに本気を出そうか…多重属性魔法レイン・エフェクト開始オン!」


手を思い切り振り下ろしてあたりの吹雪と雪を一気に蒸発させる。


七光スペクトル熱波オーラ!」


一帯の地面がむき出しになり、夢希がはっきりと見えると琉聖は次の魔法の準備をするため地面に手をつく。


八光オクタトル重力グラビティ


夢希の頭上から重力が降りかかると夢希は地面に倒れこみそのまま動かなくなる。


「ぐ、あああああ!!!」


しかしながら夢希はその重力を無理やり振り払うように立ち上がろうと手に力を込める。夢希の筋繊維はその動きについていけずに音を立てながらちぎれ始める。琉聖はその痛々しい音を聞いてすぐに魔法を解除する。ゆっくりと立ち上がった夢希に、琉聖はしまったと言わんばかりに目を見開く。瞬きをした瞬間、夢希はすでに目の前に来ており目の前に手をかざして琉聖の顔へ向けて氷の羽を飛ばす。琉聖の右目に羽が突き刺さると激痛に耐えながらかざされた夢希の手を掴み抱き寄せる。


「がああああ!」


「落ち着け!夢希ちゃん!僕だ!お兄ちゃんだ!」


夢希にはそんな言葉も届かず琉聖の体へ羽を突き刺す。やがて、熱魔法も解けてあたりは再び銀世界へと変わり始める。


「夢希ちゃん!起きろ!そろそろ!起きる時間だ!!」


それを見た凪と彩虹寺も体を引きずりながら夢希と琉聖へ近づき、夢希へ呼びかける。



2/37:氷獄

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