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2/40:いつかの

いつかの記憶だ。餓死寸前のボクの目の前に彼女は現れ天啓をもたらした。


『名もなき王よ。平等と公平のために立ち上がりなさい。あなたにならできます。』


銀の狼の髪飾りをつけた彼女はそういうとボクの前から姿を消した。天啓を得たボクはその日に母の亡骸を残して隙間だらけの家を出た。ただひたすらに歩き、困っている魔族を助けてやがて魔族の集団の教祖となった。名がなかったボクは銀狼の乙女の伝説からシルヴァスの名を借りて改めて銀色の使徒の教祖となった。魔族を助け、魔族の道しるべとなり、魔族が平等になる公平になる世界を目指していた…今考えれば、ボクは間違いと同時に正解への道を歩んでいたのかも知れない。


教祖の活動をする中である人間の科学者と出会った。名を大神 阿頼耶おおかみ あらやと言い、「魔族は以前人間だったのではないか」と疑問を持ち人間を魔族に変える研究をしていた。この研究を聞いてボクは間違いをひらめく。


人間を魔族に変えれば平等に公平に世界は回るのでは…と。


数ある実験に付き合い、そしてそこで霊石に選ばれた戦士に出会った。ボクと似たような顔立ちに魔力を感じない身体…だが、胸に輝いている霊石はひたすらボクの目に映ってくる。

少年を見て聞いて、そして、邪魔だと思った。こんなにも平等と公平を進めてきたのに、なぜ、「人間を守りたい」というエゴに邪魔されないといけないのか……ひどく怒りを覚えそして、邂逅した時に思った。


この戦士はなぜこんなにも純粋なのだろうと。


霊石に守れと言われたから守るというそれだけのことをなぜこんなに純粋に遂行することができるんだと。そう思った。


そして、今に至る。少年と契約を交わして血肉、骨までも融合した。あふれてくるのは純粋無垢な感情とその奥にある弱さ。記憶を見ても同じ人間にぞんざいな扱いをされてもそれでもなお、人間を助けたいという意思。同じ魔族に軽蔑されていたボクでさえ、力で魔族をねじ伏せて支配していた。というのに、この少年は力を手にしてもなお、陰に隠れて悪を打つという正義を行っていた…


そこでようやく、ボクは間違いに気づく。真の平等とは、真の公平とは力づくではなく、優しさと意思でできることを…


今日、答えを出す。答えを出して少年……否、戦士と共に歩めるのかどうかを確かめる。


───────────────────


「というか…ギンロ、お前声が治ってるな。復活か?」


『そうだね。一応、いつでも君と変わることはできる。しかし、今は答えを出さないことにはどうにもならない。』


「……どいつもこいつも俺の知らねぇところで何かを決断して勝手に盛り上がってやがる……そんなに何かに悩んでるなら相談しろよって話だ……まぁいいや。とりあえず今はこの山を上ってさっきのところのさらに奥に……」


優吾と玲央は息を切らしながら山を駆け上がっていく。林をかき分けて獣道を走る。優吾の足はだんだんと早くなっていき、玲央をかけはなして行く。それを見た玲央は息が上がりながら驚き優吾を呼び止めようと手を伸ばすが、優吾はすでに玲央の何メートルも先を走っておりもう追いつくことはなかった。その速さを見て取り残された玲央は静かに呟いた。


「魔族のような、脚力だ……」


優吾はそのまま魔装したような速さで一班と三班のいるところへ飛び出していった。


───────────────────


優吾が到着する約50分前。三班と一班は無事合流する。


「やけにボロボロだな。満上の任務は手間取ったようだな。」


「はは、まぁ色々ありまして……それより、この先ですか…」


「あぁ、もうすぐうるさいくらいに聞こえてくる。いつでも戦える準備はしとけ。」


「了解です。」


一班は各々、魔力ためたり戦闘の準備をする。一班と三班はやがてさらに奥まで進み、人間の耳でも聞こえるほどの羽音が耳孔へ響く。そしてだんだんとその集団が見え始める。


「アレが、例の……」


「おう。それで、俺の予想だが満上に現れたアイスフェザーの巣をこいつらは壊して役に立つ奴は連れ去って銀の魔族細胞を注入してここまで戦力を拡大したんだろう。」


羽音が大きくなっていくと一同はその大きなコロニーを見て驚く。無数にコロニーの素材を集めては飛び回る銀色の虫たちは大きな黒い繭を出たり入ったりと忙しそうにしている。そのうちの一番外側の虫が一同に気づき警戒の羽音を鳴らして仲間に侵入者がいることを知らせる。警戒の羽音はあたりに響き渡ってだんだんと伝播していく。やがて互いの声が聞こえない程の羽音になり、まるでコロニー事態が鳴いているようにうるさくなる。一同は一層気を引き締める。虫たちはまるで一匹の生物かのように動き一同に迫る。三班は抜刀から一閃を放ち虫たちを切り刻むがしかし、数百どころか、数千、数万と出てくる虫たちにその攻撃はまるで意味をなさない。一班も広範囲の魔法で一掃しようとするが、それも付け焼刃程度にしか効果を発揮しない。


「こりゃ、骨どころか、何もかも折れちまうなぁ……」


「のんきに言ってる場合ですか!一心さん。一人数百体単位で分けましょう。そうじゃないと袋小路になります。」



「阿呆が。一班はただでさえボロボロなのに、置いていけるかってんだ!ここは全員で太刀打ちするしかねぇ…あとは……晴山と獅子王にかける……あいつらならどうにかしてくれるはずだ……」


一心のまさかの言葉に琉聖は驚きと共に笑みがこぼれる。


「なんだぁ?敵が多すぎでおかしくなっちまったかい?」


「そんなわけないじゃないですか。ただ、一心さんも丸くなったなぁって」


琉聖の背後に来た虫を、一心は切り伏せながら照れ隠しをする。


「うるせ……あいつは今や魔族と人間のハーフだ。魔力量はギンロに付随するものだからな。俺よりも多いかもな……なんちゃって!」


一班と三班は紙一重の状態を保ちつつ虫たちを切り刻む。そんなコロニーから銀色の使徒教祖代理のサソリが姿を見せる。


「いやぁ、皆さんそろいもそろって死にに来てご苦労ですねぇ~」


「虫の親分か……しかし、なんだあの魔力は…以前の時とは比べ物にならねぇものになってやがる……」


「これは、ラストバトルかもしれませんね。」


二人の班長は優吾と玲央が来るまでできるだけ虫を減らそうと本気で攻撃を仕掛ける。魔力を全開放した琉聖は星の魔法で数百単位で虫を殺していく。純血の魔族である一心は熱の片翼を全開にして同じく虫を数百単位で燃やしていく。その様子を見ているサソリは悔しがるでもなく、怒るでもなく、ただ、笑みを作ってその様子を見ていた。


「あなた方が精一杯努力し、そして、絶望することで、私は再び王に会うことができる……せいぜい希望を持っていなさい。すぐに絶望の底にたたき落として上げますよ……」


サソリの後ろに控えていたのは、虫ではなく、銀色の使徒の信者たちだ。信者たちはユスリとシバを先頭に武器を構えて出撃の時をただ静かに待っていた。


2/40:いつかの

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