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第6話

「例えば〜、現世で法律を完璧に守った人がいます〜。一切の違反行為をしなかったその人ですら、地獄行きはほぼ確定です〜」

「そ、そんな、まさか……」

「地獄行きの基準、それは、魂が守るべき五つの戒律、五戒を現世で破ったか否かなのです〜」

「そ、その五戒と言うのは?」

不殺生ふせっしょう不妄語ふもうご不倫盗ふちゅうとう不邪婬ふじゃいん不飲酒ふおんじゅです〜」

「ふ……何?」


 耳馴染みのない単語を一気に浴びせられた僕は、眼を白黒とさせる。そんな僕を呆れたように見上げながら、小鬼は言葉を続ける。


「五戒は、どれか一つを破っただけでアウト。地獄行きです〜」

「ええっ!?」


 五戒を理解し切れていないのに、「アウト」と言う単語に妙に焦る僕に向かって、小鬼はまるで問診でもするかのように、淡々と質問を始めた。


「え〜、では、古森さんに質問です〜。まずは、不飲酒。これまでにお酒を飲んだことはありますか? はいか、いいえでお答えください〜」

「い、いいえ」

「そうですね〜。まだ、十九歳。法律で許されていませんね〜」

「う、うん」

「では、次〜。不邪婬。夫婦以外の人と肉体関係を持ったことはありますか〜?」

「いいえっ!!」

「ですよね〜。何せまだ、チェリーボーイですもんね〜」


 チェリーボーイらしく、肉体関係と言う単語に顔を赤くしながら力強く発した僕の回答を、小鬼はしれっと流す。


「おいっ!!」

「あれ〜? 違いました〜?」

「い、いや……違わ……ないけど……」

「では、次に行きましょう〜。次は、ええと?あ、不倫盗ですね。盗みをしたことはありますか〜?」

「いいえ」

「捕まっちゃいますもんね〜。では、次。不妄語。嘘をついたことはありますか〜?」

「……ッはぃ……」


 僕は小さく答えた。なるほど、そう言うことか。僕は五戒とやらを破っていたようだ。小さなウソ。些細なウソ。どうしようもないウソなら、これまでにいくらでもついてきた。項垂れる僕に向かって、小鬼はタブレットらしき端末を見ながら補足説明をしてくる。


「そうですね〜。古森さんのはじめての嘘は、五歳の時です〜。冷蔵庫にあったシュークリームを勝手に食べておきながら、お母上に食べていないと言いました〜」

「ハハッ、何だそれ。ガキだな」


 渇いた笑いが口から溢れる。しかし、顔は強張り上手く笑えなかった。小鬼は、慰めにならない言葉を軽くかけてくれる。


「ほとんどの人はこの不妄語をクリアされませんので、お気になさることはありませんよ〜」

「……そう、なんだ……」

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