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第16話

 寸断されて離れ離れになっていたマオとミツキと合流した俺たちは、最上階にたどり着いた。

 そこには白衣の男が、狂気的な笑みを浮かべながら、椅子に腰掛けていたのだ。


「ようやく会えたな、ベグ」

「そのようだねぇ。ようこそ、我が異界へ」


 狂気的な笑みを崩さずに俺たちを見ているベグ。


「その様子だと、私の作った悪意縫合体を倒してきたようだね」


 ベグがそのセリフを吐いた直後に、マオが藍色の蛮刀をベグに向かって投げ込んだ。

 何事もなかったかのように、ベグはその蛮刀を受け止め、その場で砕いてみせたのだ。


「やれやれ……。全く、乱暴なことをする少年だ」

「やかましい!」


 マオが怒る。


「貴様、よくも俺の大好きな作品を穢したな! 許さねえぞ!」

「おっと。それは心外だなあ」


 ベグがヘラヘラ笑いながら言う。


「そういう『くだらないもの』にすがるから、悪意がはびこる土壌を作ってしまうのさ」

「……あぁそうかい」

「マサムネ?」


 俺の怒気のこもった声に驚くマオ。


姫騎士プリンセス・ナイトリリカ……。いいアニメだよな。俺も見たよ。

 最初はこんな女児向けアニメのどこがいいんだか、なんて思ってたんだけどよ。

 大人が真面目に作った作品であること。少年アニメのような熱さを持った作品だってことに気がついたらもう馬鹿にできなくなったよ」


 俺の右腕から青白い炎がゴウゴウと燃え上がり、それが剣の形を取り始め、俺の右手に収まった。

 柄の部分は三鈷杵さんこしょと呼ばれるもので、刀身は黒く青白い炎をまとっている。


「マオ。お前の怒り、俺がしかと受け止めた。同じ作品を愛する者同士、あのクソ野郎を共に葬ろうではないか」

「あぁ、頼むぜ、マサムネ!」

「そうか……。ならば、やってみせるがいいさ。私に対して立ち向かえるのならばな」


 ベグはまとっていた白衣を脱ぎ捨て、周囲の闇をかき集め、自分にまとわせたのだ。

 左腕には、ジャッジメント=アストレアの光の剣を元にしたような刃、右腕には、ビーム刃発振器をつけているのだ。

 ベグはそれを振るいながら、俺とマオに攻撃を仕掛けてくる。


「ケッ……。光波ブレードを出してくるってか!」


 マオの言うその通りであり、ベグは両腕で光刃を投げつけてきたのだ。

 俺は前まで握っていた炎の剣とは違った三鈷剣さんこけんで切り落とし、マオは想念武装から生み出された藍色の刀で切り落とした。


「そうだろうと思ったよ。……ならば、これならどうだい?」


 ベグは背中から二本の腕を生成し、その両腕には柄がついたビーム刃発振器をつけている!


「そりゃあっ」


 ブンブンと四本の腕を振るうベグの猛攻。


「攻防一体のせいでこっちから手出しできねえ!」

「そのようだな」


 やけに冷静な声音が出る。どうしたんだ俺?


「マオ。お前の想念武装イデアブレイドをこっちに合わせろ」

「マサムネのって……。その剣か?」

「そうだ。……お前のイメージでいい」


 わかったとマオが言う。

 藍色の刀が光を伴いながら消え、彼の右手に光とともに、俺の手にする三鈷剣と同じような剣が生成された。

 マオのイメージした三鈷剣にも、同じ青白い炎が刀身にまとわっている。


「……なんだ、この感覚は……」

「行くぞ、マオ。二人でベグを焼き払うんだ」

「お、おう!」


 俺とマオは三鈷剣の刀身がまとっている青白い炎を、ベグの放つ光刃のように投げつけた。

 ベグはその炎刃を受け止めたが、その炎は消えることはなく、彼の身体にまとわりつき始めたのだ!


「なん……だと?」


 前から俺がベグに向かって疾走し、後ろからマオがベグに向かって疾走する!

 そして、ベグをX字に斬り裂く!


「GAAAAAA! クソガキどもがァァァ!!」


 彼の斬り裂かれたところから、黒い霧が血液のように吹き出し始めたのだ。


「お……おのれ……。だがな……オレは貴様らのような分別のないクソガキどもにやられるものか……!」


 脱ぎ捨てた白衣をまとい、俺たちの前から姿を消すベグ。

 ベグが去った後、異界となっていたビルは元の廃墟のような雑居ビルに戻ったのだ。


 ▲▽▲▽▲▽


「くそ……あのクソガキども……」


 雑居ビルから少し離れた路地裏に、ベグは座り込んでいた。


「チィッ……傷口が塞がらん……このままでは……」

「――ならば、楽にしてやろうか、ベグよ」


 ゆらりと影のように姿を表すロイグ。


「ろ……ロイグ!?」

「そのままでは立て直すこともできないだろう。それに……お前は失敗した。

 それが何を意味するか、頭の切れるお前が理解できないはずもあるまい?」


 ベグの顔がより一層青ざめる。


「やめ、やめてくれ、ロイグ! お、オレはまだ……!」

「ダメだ。お前に二度目はない」


 ロイグはベグの頭を掴み、そのまま黒い炎で彼の肉体を包み始めたのだ。


「GYAAAAAAAAA!!!」


 獣のような、バケモノの悲鳴のような声を上げながら、ベグは燃やされていく。


「……フンッ」


 ロイグは黒い炎で燃やされた自身の腕を見て、不満げに息を漏らしたのだった。



 ――こうして一つの戦いが終わった。

 闇は未だ深く。

 境界の傷は、癒えることなく広がり続けている。


 少年は知る。

 自らが踏み込んだこの戦いがまだ序章に過ぎないことを。


 それでも、彼らは歩みを止めることはないだろう。

 仲間たちと共に、禍影……そして狂戦鬼たちを再び封じるために。


『境界ノ守護者 ― Code:Guardian ―』 第一章 ―完―

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