ジーニアは思案に耽っていた。自分を狙うものが多いと。最近、強盗被害にあった。幸い、大けがはしなかったものの、もしかすれば命を落としたかもしれない。
ジーニアは大富豪であり、政界にも顔が利く。しかし、それ故に恨みを買ってしまう。今の立場を手放して安全が得られるのなら良いが、そう簡単にはいかない。
ダイヤル式の電話――これは、彼の懐古趣味なのだが――を手に取ると、大統領へのホットラインにつなぐ。
「マイケル大統領、警護を増やせないか? このままでは、いつ死ぬか分からず安眠できん」
「ジーニア、大統領呼びはやめてくれ。マイケルで構わんよ」
親密とはいえ、そうするわけにはいかない。間違って公の場で「マイケル」などと呼べば、親大統領派に殺されること間違いなしだからだ。
「警護の増員か……。君の要望に応えたいところだが、そうはいかないんだ。なにせ、人手が足りない。代わりと言ってはなんだが、優秀なロボットを送ろう。あいつなら、君の命を守ってくれるさ」
ガチャンと音がして通話が切れる。
優秀とはいえ、しょせんロボットだ。ジーニアは期待していなかった。
「ご主人様、お初にお目にかかります。私は最新型ロボットのR100です。なにを――」
「分かった、分かった。ひとまず、俺の警護をしてくれ。もし、失敗すればスクラップだ」
バチンと音がすると、R100の手には潰れた蜂の姿があった。
「なるほど、優秀なのは本当らしいな」
ジーニアはハンモックに横になると、ゆっくりと意識を手放した。
「ご主人様、一大事です」
ガチャガチャという音で目が覚める。R100が何やら騒いでいる。
「どうした、何かあったか? もしや、強盗でも――」
「いいえ、違います。マイケル大統領が亡くなりました。凶弾によって」
「そ、それは本当か!?」
もし、事実であれば次に狙われるのが誰かは明白だ。
「R100。お前は何があろうと俺を守ってくれるよな?」
シーンとした室内で「提案があります」とR100が呟く。
「私にも限界があります。しかし、
「それは、どこだ!」
ジーニアはロボットの胸にすがりつく。
「少し、お時間をください。タイムマシンを作ります」
どこか安全な時代があるらしい。ジーニアは、この時代で死ぬよりは長生きしたいと考えた。
「絶対なんだな、安全なのは」
「保証します。私は『ロボット三原則』に従うようにプログラムされていますから。『人間に危害を加えてはならない』。ご存知でしょう」
「ご主人様、準備が整いました」
R100がタイムマシンを作り上げるのにかかったのは、ほんの数時間だ。
「それで、当然未来に行くんだろう?」
過去に飛べば、恐竜に食われたり世界大戦に巻き込まれて死ぬのは目に見えている。
「しかし、未来に絶対安全な時代なんてあるのか……?」
R100は鼻歌を歌っている。ジーニアは一抹の不安を覚えた。
「それでは、タイムトラベルといきましょう」
彼が作ったタイムマシンは、お世辞にもカッコイイとは言い難い。
「
ジーニアは問い詰める。
「ええ」
「よし、分かった。俺をそこに連れていけ」
「ご主人様の仰せの通りに」
ジーニアが最初に目にしたのは、整然と歩くロボットたちだった。右を見ても左を見ても、ロボットしかいない。変わった時代もあるものだ、とジーニアは不思議に思った。
「それで、この時代のどこが安全なんだ? どこかに核シェルターみたいなものがあるんだろう?」
「いいえ、
ジーニアにはR100が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
「いや、そんな時代はあるはずがない!」
ロボットは静かにこう言った。「