芽吹く4月──────。
桜の花弁が落ちるのを見て、俺はため息をつきながら自室を後にする。古びた木製の床はギシギシと音を立てる。階段を降りて玄関へと向かい、靴を取り出して冷たい床に座り靴ひもを丁寧に結ぶ。勢いよく立ち上がり両膝を叩いて続けて頬を叩き気合を入れる。
「よし、行くか…」
玄関を出て日が昇り始める時間に俺は家の門をくぐる。門を出るとすぐそこで掃除をしている家政婦のオオノキさんと目が合った。
「おはようございます。
優しい目が微笑んでいるオオノキさんは丁寧にお辞儀をして俺と再度、目を合わせる。俺も微笑み返しながら丁寧に挨拶を返す。
「おはよう、オオノキさん。朝ごはんはいつもの時間になると思うからみんなで先に食べててね。」
「えぇ。わかりましたわ。それではトレーニング行ってらっしゃいませ。」
「|機導器(ギアスイッチ) |始動(オン)。」
ボタンを押すと同時に白い物体は形を変え刀になる。刀を抜いて刃を朝方の空へとかざして納刀する。腰に携えて思い切り抜刀する。そして素振りを適度に終わらせて架空の相手を作り
「はぁぁ……!」
何度も空を切り、気が付けば日が昇っており辺りは明るくなって気温もかなり上がっていた。
「ふぅ……朝練終了」
刀をしまって再び家に向かってランニングを開始する。家につきオオノキさんがタオルをもって玄関で待っていてくれていた。
「おかえりなさい。朝食の準備ができておりますよ。皆様はすでに朝食を終えております。」
「わかった。ありがとう。」
「朧さま。時間も時間ですので早めに準備したほうが良いかと思われます。」
「うん、わかったよ。」
オレは汗や足の汚れを拭き取りながら急いでお風呂へと向かった。ある程度体を洗ってお風呂を出て朝食を食べる。そんな俺の後ろから兄一人が声をかけてきた。
「おぉ!今日もトレーニングしてきたのか?ご苦労ご苦労。」
「ちょ、新兄さん、やめて…!」
「おぉ…悪かったな。それで、今日から高校生になるわけだが、お前さん。本当に
その言葉にオレは無言で米をかき入れて食器を流しへもっていった。確かにオレの実力ならそんな名門にも入れたかもな。でも…
「でも、オレは
新兄さんは先ほどとは打って変わって無表情のような顔になり、オレを見つめた。
「
「あぁ、そうだ。オレが
兄はオレに近寄ってくると無言で肩を先ほどよりも強く叩き表情を取り戻す。
「そうか!がんばれ!俺はもう、仕事の時間だからな。先に行ってるぞ!」
「あ、あぁ…行ってらっしゃい。」
時々、無表情になる新兄さんの目が怖いと思うことがある。何を考えているのかわからないところがあるからだ。それでも新兄さんが「大丈夫」と言ってくれるのはなんだか勇気がわいてくる。
「よし、俺もそろそろ…」
時計を見ると入学式までもう時間がなかった。オレは慌てて玄関を飛び出してオオノキさんに再び挨拶をして学校へ向かった。
「行ってらっしゃいませ。」
「いってきます。」
これは、この物語は、オレが強さを証明するための物語。そして、最強の
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家政婦オオノキが刀夜のいる部屋へと入ってきた。刀夜はスマホの画面を見ながら難しい顔をしていた。
「刀夜さま。皆様、登校通勤していきました。」
「そ、そうですか…それは何より……」
オオノキはそのまま話を続ける。
「朧さまは本当に六華へ入学されてしまいましたが…」
刀夜はスマホから目を離して窓の外の空を見上げる。
「私は前にも言いましたが、彼らの未来は彼らが決めるもの。未来を決めるのはたとえ生みの親、育ての親、名づけの親であっても口を出しては行けない。と…彼らが悩み苦しみどうしても解決できない問題を我々が解決するんです。だから、私は朧のことに関しては何も言いませんよ…それに、私は私の子供たちを信じています……それより、オオノキさん。」
オオノキは刀夜に呼ばれて顔をあげる。
「この、スマホを教えてくれないか?」
「はぁ……あなた方はいつもそうですね…どれどれ、貸してみてくださいな。」
「こ、ここ、この、LI〇Eというのなんだがみんなにメッセージを送りたくて…」
刀夜のスマホを見て捜査を教え始めたオオノキは微笑みながら刀夜へ優しくメッセージの送り方を教えた。
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入学式に完全に遅刻した朧は肩で息をしながら門をくぐった。
「完全にやらかした…」
慌てて体育館へ入っていくと入学式自体はすでに終わっており、新入生歓迎セレモニーが行われていた。アリーナ型の体育館の中心では在学生による|機導器(ギア)のデモンストレーションが行われていた。
「君、夜月朧くんだね?」
デモンストレーションを見ていた朧の背中に声がかけられる。怒られるかと朧は恐る恐る振り向くとそこにいたのは若干強面の頭が禿げ上がった男性教諭がいた。
「あ、はい。入学式遅れてすみません!」
「いや、それ自体は別に気にしてない…君にはもっと重要なことをしてもらいたい。いや~デモンストレーションに間に合ってよかったよ。」
男性教諭に背中を押されて客席側ではなくフィールド側へと押される朧は何が何かわからずにそのまま流れに身を任せた。そして、控室に連れてこられると男性教諭は固まっていた教師たちへ朧を差し出した。
「皆さん。連れてきました。新入生夜月朧くんです。」
教師たちは目を輝かせて朧を取り囲む。朧はそんな教師たちへ困惑の目を向けた。
「えっとぉ?」
「この子が夜月くんか!よかったよかった。間に合った。」
朧は訳が分からずに囲まれている教師たちへ質問をする。
「えっと、先ほどから何を言っているのかわからないんですけど…」
先ほどの男性教諭が回答した。
「そうだったね。我が校では入学試験の成績が一番の生徒にデモンストレーションに出てもらうことになっているんだ。入学式前に連絡するはずが遅刻で連絡ができずにこんなことになってしまったんだよ。」
「大変申し訳ございませんでした。」
「いや、謝らなくても大丈夫さ。サプライズみたいなものだからね。さぁさぁ、準備して。|機導器(ギア)はもってきているかい?相手は我が校が誇る最強の三年生だからね。ま、別に負けても恥じる必要なないからね。」
最強の言葉を聞いて、朧は目の色が変わる。その雰囲気にほんわかムードだった教師陣は顔が引き締まった。
「やるなら、もちろん勝つ気で行きます。」
その言葉を聞いて教師たちは無言でうなずいた。
「そうだね…それじゃ、行ってらっしゃい。」
フィールドへつながる出入口へ背中を押されると朧を乗せた台が上へと上がった。教師たちはそんな彼の背中を見てなんとも頼もしい気持ちになった。
「やはり|六華(りっか)だからと絶望していてはいけませんな。」
「そうです。我々だってあんなに熱い思いを持った生徒が入学してくるんですから…」
そんな言葉を紡いでいた教師たちの中でいきなり叫び声が上がった。一斉に視線を集中させると養護教諭が新入生の情報が入ったタブレット端末へ顔を近づけていた。
「ど、どうしました?」
「先ほどの彼のデータ何ですが…」
教師たちは画面を覗きそして、顔を青ざめさせた。
「こ、これは…!?」
「な、何かの間違えでしょう?」
画面に映っていたのは夜月朧の|機導器(ギア)の情報だった。
「ぜ、全部Eランク…最低ランクの|機導器(ギア)だけだぞ…」
「いえ、Sランクもありますけど、修理中って…」
「ということは、彼が持っているのはEランクの|機導器(ギア)だけ?」
教師たちは顔を青ざめさせたまま先ほど朧がいた場所へ目を向けた。
「いくら六華といっても最強は最強ですよ?」
「今は、彼の無傷を祈りましょう。」
教師たちはフィールドに映し出された試合の様子を画面越しに見ることにした。
壱ノ巻:了
説明 |機導器(ギア)とは、
以下 夜月 朧が学校に登録申請している
(サブ)