放課後の体育館。入学生ペアVS.生徒会コンビの噂を聞きつけて多くの生徒が野次馬に来ている。そんな騒がしい体育館のフィールドに生徒会の四人が姿を現わし、反対からは入学生ペアの夜月 朧と九頭竜 誠が見えた。
「では、始めましょうか。」
生徒会長 神楽美紀と涼音沙織が体育館フィールドの中心で対面する九頭竜、夜月ペアへ呼びかける。二人は無言でうなずく。その覚悟の決まった様子に生徒会長はうなずき返し、ルールの説明を始めた。
「では、改めてルールは公式戦の時間にプラス5分の10分戦……ですが、40分も時間をとれないため、今回は二対二でまとめて行いましょう。いいですね。」
「はい、構いません…」
「では、お互い、位置について私たちのメンバーの書記が審判をします。」
二人は書記に目をやると丁寧にお辞儀をして二人も納得する。そして、ペア双方が位置につくと書記の秀才がマイクを持ち声を発すると会場が一気に静まり返る。
「では、これより、新校則の改正をかけた試合を始めます。ルールは公式戦の時間にプラス5分の10分、双方のギアの破損、時間切れ、ギブアップで試合は終了します。なお、ペア戦になりますので双方のすべてのギアの破損で勝敗にします。時間切れの場合は仕切り直し、もしくは、ペアのどちらかのギアの破損が確認で勝敗を左右します。では、位置について、試合、始め!」
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「グランツ製
双方、刀ペアと銃のペアになり、試合が開始した。開始と同時、朧はまず、殺気を全開に威嚇をする。そんな威嚇に生徒会ペアはひるむことなくすぐに行動に出る。九頭竜は朧に目で合図を送るとそのまま会長のほうへと向かって走り出した。その背中を見た朧はうなずき会長の援護で構えている副会長へ視線を向けるが、その目の鼻の先にはすでに射出された弾丸が来ていた。朧は身をひるがえしてすぐによける。
「……」
副会長はそれでも無言で朧から目を離さずに引き金を引き続けた。弾丸をよけ続ける朧に見ているものはあきれたり、疑問に思ったりするものがいた。
「あいつ、なんで刀ではじかないんだ?あんな無駄に動くと後半すぐにバテるんじゃないか?」
そんな疑問の声に生徒会会計の小野宮彼方が説明を始める。
「説明しよう!って、こんな柄じゃないんだけどね……さて、説明だ。ギアの性能差もあるけど、簡単に言えばリスク管理だね。映画で銃VS刀とかでよく弾丸を切ったりはじいたりするけど、あれは幻想も幻想だね。現実であんなことしたら弾丸が二つに割れてそのまま弾丸に撃ち抜かれる。だからこそ、刀VS銃は銃が圧倒的に有利なんだよ。」
関心する生徒に彼方は得意げに鼻を触る。副会長VS朧はこんな形で朧が防戦一方である。一方会長VS九頭竜は九頭竜が会長を捉えて攻撃を仕掛けていた。素早い切り込みに会長は引き金を引く暇もなく攻撃をよけることしかできなかった。
「……っ……できますね。」
「だてに不良を相手にしてないんでね!ほぉら、がら空き!」
そういって九頭竜は一撃を会長へ振り下ろすが、会長はその一撃を銃身で受け止める。そのままお互いに動きが止まると会長は九頭竜へ話しかける。
「この試合、なぜ引き受けてくださったんですか?」
「そりゃ、自分でけじめをつける意味で……」
「なるほど…姉の教えが浸透しているみたいですね。」
会長はそういうと銃身を動かす。刀が滑り落ち、九頭竜は前のめりになる。その顔面に会長の蹴りが迫る。そのままなすすべもなく九頭竜は会長の蹴りで吹き飛ばされる。それを見逃さなかった副会長は九頭竜のギアを狙い引き金を引こうとしたが、スコープの先に白い煙が立ち込める。スコープから目を離すと朧が口角を上げてスモークの中へと消えていった。
「……しまった。」
副会長はスモークの中から出ようとバックステップを踏むが、その先に朧がおり副会長の背中へ前蹴りを浴びせてスモークの中からは出さないという意思表示をする。この時点で、副会長は朧の手の内に転がされるかと思いきや、副会長はじっと身構えて観客の声を自分の耳から遮断する。そして、さらに集中し空気の音を遮断。さらに、自分の呼吸の音も遮断し、いよいよ、近くの音しか聞こえないようになる。かすかにだが、フィールドの床の音が聞こえる。靴がフィールドを滑る音、着地の音。
タンッ
タンッ
タンッ
そして、その靴の音が自分の死角のほうへ移動したのを聞き取り副会長はすぐさまその方向へ銃を向けて発砲する。その発砲は朧の足を確実に打ち抜き、朧は体勢を崩しながら再び動き始める。
「まいったな……視界を防いだのに…」
朧は動きながら、距離をとる。スモークが晴れると副会長は負傷している朧へ再び射撃を開始した。そんな光景を見ていた九頭竜は立ち上がり会長へ向き直るが、会長はすでに目の前まで来ておりその引き金が引かれる。シリンダーが回転すると弾丸は九頭竜に向かって勢いよく射出される。その弾丸を九頭竜は映画のように真っ二つに切ろうとするが、朧がそれに気づき、弾丸の嵐を引き連れて九頭竜のもとへと向かい、九頭竜の首根っこをつかみ会長の前から連れ去る。
「ってぇな!なにすんだよ!」
「弾丸を切ると君に弾丸が当たりやすくる。頭を狙っているのならそれは避ける行為につながるが、会長は明らかに胴体を狙っていた。的がでかい胴体の前でやると大惨事になる。」
「んだよ。そんなことはわかってんだよ。あそこから華麗なるカウンターを炸裂させようとな……」
「はぁ……いいだろう、オレが見本を見せる。見てて。」
「は?見本って…今、弾丸を切るなって…」
朧はそんなことをも聞かずに会長へ向かって突進を始める。会長はそんな朧に向かって発砲する。朧は常に弾丸が顔面になるように体を動かしてランク差のあるギアで会長の放つ弾丸をすべて二つに切る。会長はそんな朧を見て驚く。
「ランク差は明確なはずです。なぜ、EランクのギアでSランクのギアの弾丸を切ることが……」
「そうですね…ランクは二個以上離れてしまえば勢いよくぶつけるだけでランクが下のギアは壊れてしまう。ですが、オレは夜月家の人間です。誰よりもギアと刀を触ってきました。刀の扱いはこの学校で一番と自負してます。」
朧が行っているのは、「刀の角度の微調整」とシンプルな行為だがその調整具合が難関である。針の穴に糸を入れるように、注射器を血管に通すように、砂粒を菜箸でつかむような精密な作業である。まして、それを戦闘中、動きながらやるわけなのでかなりの集中力を有し、それなりの鍛錬も必要である。朧は弾丸を数回切ったり、はじいたりして九頭竜へ目線を送り合図をする。九頭竜はその合図を受け取り会長の死角になる朧の背後へ周り朧の背中を踏み台に会長へとびかかる。だが、その飛び上がった九頭竜へ副会長は狙いを定めて引き金を引く。その弾丸は九頭竜へ迫るが、着弾寸前に九頭竜の下のほうから何かが弾丸を防いだ。なにかは、副会長の目が届く距離で落ちてその姿をあらわにする。
「低ランクのナイフ型ギア……」
副会長は朧へ目を向けると、朧はにやりと口角を上げる。副会長は次は朧へ標的を映して会長の援護をしようと引き金を引く。朧はそれへも反応し会長と副会長の弾丸を防ぐ。会長は上空の九頭竜へ気づくと標的を九頭竜へ移し、また副会長も九頭竜を狙う。朧はそれに気づき、副会長の目の前で炸裂するようにスタングレネードを投げる。スコープを覗く副会長の前でスタングレネードが爆発すると、とうとう副会長は目を塞ぎ動きを止めた。会長はその副会長を気にしてしまい、一瞬九頭竜から目を離してしまった。
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試合前の朧と九頭竜の作戦会議。
「まかせろって言った矢先なんだけど、基本的なことは共有しておこうか。」
「基本的なことの共有って?」
「まず、君と会長、オレと副会長を主な対戦カードにしたい。そして、君がピンチの時は、オレが、オレがピンチの時は君が助ける。まぁ、オレは自分でピンチを切り抜けられるからオレの様子を見てから決めるといい……さて、ここまでいいとして、勝ち方だが、二パターン用意しよう。」
「二パターン?なんでわざわざそんなこと……」
「それは、会長のギアと副会長のギアのランクが分からないからさ。これはとりあえずどちらもAランク以上と考えておいて……まず、一パターンだが、破壊パターン。これは簡単、ランクがAランクだった場合はオレが会長をほんろうしながら隙を作る。そして、消耗したところを誠が破壊……そして、二パターン目Sランクだった場合は……」
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「やれ、誠!」
九頭竜は会長の目の前に来ると会長ではなく、会長のギアを狙って刀を突き刺す。会長は隙をつかれて銃をはじかれてしまう。九頭竜はそれを見逃さずにすぐに二撃目の突き刺しをはじかれた銃へ向けて放ち見事、引金の部分へ刀を通すことに成功し、そのまま刀を勢いよく地面へたたきつける。会長のギアは地面にたたきつけられてその銃身にヒビが入る。ヒビが確認できた九頭竜はもう一度素早く銃を地面にたたきつけて会長のギアを破損させた。それと同時に試合終了の合図が鳴り響く。
「おぉ~すごいね~会長に勝っちゃった。」
彼方の声に会場はうるさいくらいに沸き上がった。
漆之巻:VS. 生徒会コンビ