朝のルーチンを済ませた朧はいつも通りに登校していた。だが、いつもと雰囲気が違う。通学路にいる生徒が必ずどこかにけがを負っているのだ。足、腕、指先、頭に包帯を巻いているものもいた。ちょうど、同じクラスの生徒を見かけた朧は事情を聴こうと声をかける。
「
佐武と呼ばれた男子は朧に声をかけられると悲しそうに微笑んで答える。
「いや、はは…ドジ踏んじゃって……」
「というと?」
「昨日、下校していたら後ろから突然誰かに襲撃されて、ギアのコアも足も壊されちゃったんだ。」
コアの抜けたギアを見せてきた佐武に朧は茫然と見つめることしかできなかった。朧は昨日の記憶をたどり佐武はトーナメントで勝って、今日は次の試合のために控えになっているはずだった。そのことを悟った佐武はただ乾いた笑いを向けることしかできなかった。
「はは…明後日くらいには第二試合でも勝とうと意気込んでいた時だったのに、ほんと僕ってドジだよね。」
「いや、君は決してドジじゃない。悪いのは明らかに襲ってきたやつだ。」
朧は優しくギアを渡すと他の生徒にも聞き込みを開始した。同級生に限らず、先輩にも怪我を負っている人が見受けられる。それぞれに聞いていくと皆、口をそろえて「誰かに後ろから襲われた」と言ったのだ。
「同一犯……か?」
不意打ちと言われて朧は昨日の黒ずくめたちを思い出した。校門までつくと九頭竜も他の生徒に怪我の理由を聞いていた。九頭竜は朧と目が合うとすぐに朧のほうへ近づいてくる。
「おい、皆何者かに襲われてんぞ。」
「あぁ、オレも聞き込みをしながら登校してきた…これはひどい。しかも、うちの生徒だけだった。」
「どういうことだ?」
「被害者はうちの生徒だけだ。聞くに、他の高校の生徒には一切そんなことがなかったと言われた。」
「とことは、考えられるのは二パターンだな。」
「あぁ、六華に恨みを持つ部外者か、試験が始まったと同時に被害者が現れたことを考えると、学校内の誰かだな。」
「俺は前者であってほしいな。警察に突き出すだけで済むから。でも後者だと……」
「あぁ……事態が複雑化する。教師か生徒か、先輩か、同級生か……どちらにせよ、オレは後者だった場合、そいつが誰であろうと許さない。」
いつもより殺気が鋭い朧に九頭竜は背筋が伸びた。早速先生たちにも話をしに行ったが、先生たちは先生たちですでに調査をしているようだった。ちょうど担任の茂木が対応してくれたので朧と九頭竜は二人もしくは、二人と誰か複数人での調査の許可をもらおうとした。
「…我々も迅速に調査をしているが、監視カメラのない目撃者も今のところいないということで難航している。そんな中、生徒だけでの調査はあまり進めることはできない。」
「ですが、このままほおっておけば今日もまた被害者が出ます。」
「そうだぜ、このままだったらどんどんみんながやられちまう。こっちから仕掛けないと……」
「そうだな……だが、君たちだけでの調査は不安だ。生徒会のみんなにも手伝ってもらうといい。」
二人は顔を見合わせて生徒会長のほうへ足先を向けたが、九頭竜は何か思い出したように茂木へ向き直る。
「どうしたんだ?」
「そういえば、昨日、俺たちも襲われたんだ。黒ずくめの二人組に。」
茂木はその話を聞いて目を見開き、いつもは出さない声を出してしまう。
「それは本当か!?」
「えぇ、昨日試験が始まる前に襲われました。おそらくその黒ずくめを捕まえれば、何かわかるかもしれません。」
「なおさら、君らは生徒会の先輩たちとタッグを組んで調査をしたほうがいいな……よし、事件が終わるまでは生徒会室への出入りを許可しよう。会長たちも君たちなら安心して許可を出すだろう。」
二人は改めて生徒会長のもとへと向かった。生徒会は朝の集まりで丁度事件のことを議題に挙げていた。そこへ勢いよく朧と九頭竜は入っていくが、速攻で生徒会役員たちに制圧された。
「ちょ、俺たちですよ。夜月と九頭竜ですよ。」
生徒会長ははっと我に返り、すぐに拘束を解くように合図した。二人は拘束が解かれると生徒会長へ調査の件を話した。
「……なるほど、あなたたちは襲われたけど怪我やギアの完全は破損はなかったということですか……」
「はい、試験の前に黒ずくめの二人組に不意打ちをされそうになりました。」
「確かに、あなたたちならすぐにでも返り討ちにしそうね…で、調査についてだけれど……いいわよ。一緒に犯人を捕まえましょう。捕まえられなくても犯人の足取りだけでも掴みたいものね。」
生徒会長は快く二人が調査に加わることを許可した。
「では早速、あなたたちが襲われた場所へ行きましょうか。」
朧と九頭竜は早速生徒会役員たちと一緒に襲われた場所へ向かった。体育館が見える美術室がある棟のほうだった。同じ時間帯になる生徒や教師は全くいない。生徒会を含めた6名はその周辺に誰かいないか探し回る。
「人が隠れられるところはいっぱいあるな。監視カメラも設置されてない。確かにこりゃ絶好の狩場だね~」
「えぇ、それに、もう来ているみたいね。」
「かいちょー何言って……」
会計の彼方の頬を会長の弾丸がかすめる。その後ろで弾丸をはじく音がすると彼方は急いで会長のほうへ向かう。
「か、かいちょー……いるなら言ってくりゃせ……死ぬかと思た。」
「すみません、緊急事態でしたので……それよりも、二人どころではないようですよ?三人、四人……いえ、もっと多くの人数が……」
朧と九頭竜、副会長と書記は背中合わせで警戒する。その時、校舎の屋上から10体の黒ずくめが下りてくる。だが、どこか動きがおかしい。
「昨日のやつとは違う。」
「あぁ、もっと人間ぽい動きをしてたぞ。」
「そうですね。これはギアです。どのくらいの性能でどこの会社のものかわかりませんが、そうですね……呼ぶならば、
「皆!気をつけろ!ギアのコアは何か頑丈なパーツで守られている。攻撃が全然効かない。」
朧の持っている刀のギアはとうとう耐えられずに破損状態になってしまい、朧はナイフギアを取り出して先ほどよりも注意しながら戦う。九頭竜はその光景を見てAランクならいけるかと考えてコア部分を思い切り突き刺すがはじかれた。他のメンバーも試しにやってみるが、Sランクの弾丸でもそのパーツは壊れず人形たちはじりじりと迫ってくる。
「私のギアの弾丸でもダメなんですか……これは、違法改造のにおいがプンプンしますね……」
「かいちょーどうすんの?ここは一旦引く?」
「……この量でSランクも効かない防御力のギアはきついです。」
「……ッ!」
生徒会の面々も珍しく追い詰められ会長はどうするか悩むことを放置して、朧のほうへ向かった。生徒会の面々も会長の意図を察し朧のほうへ向かう。朧も意図を察し手にスモークグレネードとスタングレネードを持つ。
「誠!一時退却だ。」
「またかよ…わかった。」
九頭竜も朧のほうへ向かい、皆が朧のほうへ到着すると朧はすぐにスタングレネードとスモークグレネードの両方を投げて人形ギアへ向かって目くらましした。6人は煙と光に紛れてすぐに逃走した。それをギア越しに見ていた黒ずくめたちは舌打ちをした。
「くそ、また仕留め損ねた!」
「もう、あいつらは気にしないほうが……」
「何言ってる!あいつらもやらないと期末後の実技試験で天下が取れないだろ?!」
「……だが、どれだけマリオネットが機能的でもすぐに逃げられてはな……」
ギアを操っていた一人は怒りのあまり膝を叩く。
「くっそ……まて、ならばあそこがいいじゃないか……いいかお前ら……放課後にあそこに誘導するぞ。」
二人は手を叩き思い出す。
「……わかった。あそこだな!」
「確かにあそこならカメラも人も来ない。」
「あぁ、それでは、また放課後に……我らが」
「「天下を取る!」」
二人が合言葉のようにその言葉を叫ぶと三人は部屋から出て行った。部屋には「ギア研究会」という看板がかかっていた。
重之巻:妨害工作を働くのは誰か?