目を開ければ一面の青が広がっていた。
どこまでもどこまでも澄み渡り、澱みを感じさせない紺碧の世界。
人はそれを「空」と呼んだ。
「見て」
隣から聞こえてきた妹の声に視線を下へと移すと、綿毛の絨毯のように広がる白い雲の切れ間に、青い海が見える。
空の青と海の青。それぞれに異なる青だが、そのどちらもが心を強く惹きつける。
それは、かつては故郷にも存在したものらしいが、あまりに昔の話なので、この目にしたことはない。
一度も見たことのないものに、それでも郷愁を覚えるのはなぜだろう。
あるいは人の手が造り出した、こんな命にも、失われた誰かの想いが宿っているのだろうか。
仮にそうだとするならば自分たちが生きつづけることが、滅び去った人類にとって、わずかばかりでも救いになるかもしれない。
空の青から遠ざかり、海の青に向かって、ゆっくり降りていくと、海の向こうに浮かぶ陸地に、広がる街並みの姿が見て取れるようになってくる。
「80年代ってところかな?」
「そうね。よくあるタイプの文明だわ」
これまで、いくつかの世界を旅してきたが、不思議と似たような歴史を辿る文明が多かった。ここもその一つで極めてオーソドックスなタイプに見える。
「今度はどんな人が暮らしてるのかなぁ」
つぶやく妹の声には期待よりも不安の色のほうが強い。
これまでの経験を思えば、それも無理のないことだと思える。
「大丈夫です。ここならきっと、今度こそは」
気休めに過ぎないと思いつつ口にした言葉だったが、不思議と自分自身が、その言葉に励まされるのを感じた。
時におぼろげな未来を夢に見ることはあっても、運命を予見する力はない。
それでも、不思議とこの世界からは、遠い時間と空間を超えて、自分たちに繋がる縁のようなものを感じていた。