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第13話 釣られクマー

「――どうも」


「ありがとうございましたー」


 カレンさんを送り届けた後、そのままベランダから帰宅。觔斗雲の觔ちゃんを空の彼方に消えていくのを見届けると、掃除洗濯して家事をこなして時間経過。そして俺はその足で近くのコンビニへと向かい、惣菜弁当とお菓子を買ってコンビニを出た。


 いつも通うコンビニだから店員さんや店長とは顔見知り。仙人に生って白髪になったから最初はギョッとした顔をされたけど、なんだあいつか~と言わんばかりの視線を受けた。

 特に何かを話す間柄じゃないけど、イメチェンしたんだなと店長さんは目で訴えている。


「……ふぅ」


 借りてるアパートから徒歩で一分ほど。たった一分の距離でも、空気の汚さを感じずにはいられない……。


 仙人に生り、空気の清潔さや生命の波動を感じれる様になったのは良い事だ。魔力や仙気、他にも呪力や法力、生命の波動がわかると、空気の純度や揺らぎ、波動の波で物の気配がわかる。

 つまりはダンジョンで探索や索敵に一役買ってくれるって話だけど、仙人に生りたての俺はまだまだ修行不足でそれらを全て把握しきれない。


 というか、それらを含めるあらゆる術を習得して地盤を作り、天仙へと至る。ハズだけど、俺はそれらをすっ飛ばして仙人に生ったから結構イレギュラーな存在だったり……。まぁ仙人自体、たぶん俺しかいないしイレギュラーもクソもないけど。


「よっと」


 帰宅して狭いキッチンに袋を乗せる。夕食にはまだ時間があるからお弁当は冷蔵庫へ。机にお菓子が入った袋をそのまま置いてベッドへごろん。スマホを出してZX(ゼクス)を開いてしまうのは現代人の性。


(お。カレンさんからだ)


 実はコンビニからスマホからメッセージを受信したバイブレーションを感じていた。友達追加の要請で名前は『しぶりん』だ。どうやらカレンさんで間違いない。


 さっそくトーク画面へと入ると……。


》ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!!!!!!!

》サトルさんよろしくお願いします!!!!!

》ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!!!!!!!


「……」


 うん。なんか知らないけどヤバいのは凄く伝わる。


 開口一番ヤバいの連呼。そして正気を取り戻したかのように挨拶。からのヤバい連呼。カレンさんの情緒が不安定過ぎて、様子を見に言うという選択肢が脳内で出てくるほど心配になってくる。


(……まぁとりあえず)


《カレンさん。よろしくお願いします


 普通に挨拶。いったい何がヤバいのか。それを打っていると。


》ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!! 私とサトルさんが同い年なのヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!


(え? そうなの?)


 テンションがバグっているメッセージ。その真意を確かめるべくしぶりんのアイコンをタッチして詳細を見る。


「……マジだ。生まれた年が同じじゃん」


 接していると確かに歳は近いかなぁとは思ったけど、まさかカレンさんと同い年だったとは……。


「……」


 ……なんだろう。方やその日暮らしの日雇いランカー。方やブイブイ言わせている売れてるダンジョン配信者。しかもおっぱいがデカい配信者だ。


 同い年だというのにその時の運と努力の差でこうも違いが出てくるとは……。活躍している同い年と言うだけで、どうしても劣等感を感じずにはいられない……。こればかりは普通に生きて来た俺の性格の問題だな。


 と、自己嫌悪になっている間にも。


》ヤバイのはそれだけじゃないんです!! いつの間にかチャンネル登録者数が100万人突破してるし、緊急生配信の動画が1000万再生されてるんです!! って言うかぁ!! 今も増え続けてるぅ!!??


「100万人!?」


 10万人登録者が一晩で十倍の100万人。転移事故動画がここまでバズるなんて世の中何が当たるか本当にわからない。俺でも少なからず驚いてるけど、当事者のカレンさんの驚きはそれこそヤバイだろう。


 まぁとりあえず。


《100万人登録者おめでとうございます! 金盾ゲットですね!!


 賛辞を贈る。俺が愛してやまない動画投稿者である『ラブの戦士』ですら50万人弱だというのに……。素直にカレンさんは凄い……。


》ありがとうございます!! ってな訳で、私の部屋に来てください今すぐ!!


「どんな訳だよ……」


《さっき送り届けたばっかりですけど

》事情がっ!! 事情があるんですっ!!

《後で夕ご飯なんで……

》飯くらい私がご馳走します!! 焼き魚のお礼です!!

《さっきコンビニでお弁当買ったので……

》私の手作りご飯ですよ? 視聴者ならお金出してでも食べたい手作りご飯ですよ!?


「いや俺視聴者じゃねーし」


 配信オンリーなのか、それとも録画編集して動画に出してもいるのか。しぶりんの動画がどんなものか知らない都合上、視聴者をダシに使われてもいまいちピンとこない。というか、視聴者がお金を出してでも食べたいと意見があるのなら、もしかしたら料理系の動画とか投稿しているのかも知れない。


《明日じゃダメなんですか?

》ダメです!! 既に生存競争が始まっているからです!!

《生存競争?

》とにかく来てください!!


「……まったく行く気が湧かない」


 カレンさんを送り届けるという一仕事と部屋の掃除を終え、ベッドに寝転がる。過度なリラックス状態。もうこの状態だと俺は梃でも動かない。動きたくない。部屋から一歩も出たくない。コンビニ弁当食って好きな動画見て寝たい。


 とう思っていると。


》今の私部屋着なんですよ?


 カレンさんから画像付きメッセージが送られてきた。その画像は。


 ――ポン!


 深くて長い谷間を作る胸元を強調し着崩した部屋着のカレンさんだった。


「……。……。……」


 そんな見え透いたエッチな画像に俺が釣られるなんてこと――


 ――ピンポーン♪


》はいはい!


「天道です……」


》どうぞ~


 ――ガチャリ!


 釣られました。

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