目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報
聖なる石
聖なる石
天主 光司
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年05月03日
公開日
2.5万字
連載中
資格ある者が入手すると魔法少女になり、資格ない者が入手するとモンスターになってしまう魔法石。 この物語は、魔法石を手に入れ、魔法少女になった者の物語。  8月の土曜日の東京。  ひょんなことから、魔法石を二つ手に入れた牧原。  一つは、五感が鋭くなる魔法石、もう一つは、小さいモンスターを生み出すことができる魔法石だった。  小さいモンスターを生み出す魔法石はハズレであり、五感が鋭くなる魔法石は無名であり、他の魔法少女に聞いたり、ネットで調べても情報がなかった。  二つとも、大した攻撃力のない魔法少女であり、異常大量発生するモンスターとの戦いには、役に立たないと思われた。  しかし、五感を鋭くする魔法石を使い、体の一部をモンスター化した人たちを助けたり、魔法で作った小さなモンスターを操って、異常大量発生したモンスターを手玉に取ったりしたり、新たな魔法石を手に入れたりと活躍する。  牧原を含め、多くの魔法少女たちが活躍し、退治しまくるが、異常大量発生するモンスターは、一向に減らない。  魔法少女たちは話し合い、近所に住んでいる一般人を連れて安全な場所まで逃げることにする。

第一章

第1話 キラキラ光る黒髪の魔法少女誕生

 突然、降ってきた虹色の魔法石をキャッチする。頭に当たった魔法石は、顔先の方へ軽く跳ね返った。それを反射的に右手で受け取る。そして、右手を開くと虹色にきらきら光る楕円形の石だった。

 和装のような服を着た魔法少女に変身する。金粉がついているかの様に所々がキラキラ光る黒髪。白を基調にした金色のラインが入った和装の様な服に変身した。背負っていたリュックさえ、どことなく和に変わる。

 突然、見える世界が大きく変わった。視界が三百六十度全部見えるようになる。前方のみカラーだが、それ以外は白黒で見えた。足元のアスファルト。背後いる先ほど挨拶を交わし、別れた近所の中村さんと焼肉屋のおばちゃん。そして空には目視できない鳥のようなモノ。見えていないのに鳥のようなモノがいるのがわかる。

 両腕の袖や胸元の襟が変わっているので、姿が変わったことに気づく。自分自身の姿は見えないが、白ベースで金色のラインが入った袖や襟に変わっていた。家を出た時は、白い格子柄のポロシャツを着ていたはずなのに。


 牧原は、中年男で、身長は高めでやや痩せ型で、ポロシャツにジーンズを履いていたはずだった。しかし、金粉がついているかの様に所々がキラキラ光る長い黒髪と、白を基調にした金色のラインが入った和装の様な服の魔法少女に変身した。


 目視できない鳥は、中村さんと焼肉屋のおばちゃんの方へ飛んでいき、そこで石を二つ落とす。一つは中村さんのおばちゃんの頭に当たり、もう一つは焼肉屋のおばちゃんの頭に当たる。

 中村のおばちゃんは石に反応できずに、石を地面に落としてしまう。

 焼肉屋のおばちゃんは頭に当たった石を反射的に右手でキャッチした。キャッチした石を見ようとする。掌に痛みが走り「いたっ」と、小声で言った。そして、石は焼肉屋のおばちゃんの手の中に減り込んでいき、手の中に入って行く。激痛のあまり悲鳴を上げる。中村のおばちゃんの目の前で姿かたちが変わり、両手が鎌の形のモンスターになった。額には掌の中に減り込んだはずの石が浮き上がる。そして、驚きのあまり固まっている中村のおばちゃんを右手の鎌で斬り裂く。

 中村のおばちゃんは倒れ、地面に血の海を作る。


 牧原にとっては背後で起きたことだが、前方以外は白黒だが三百六十度全部見えるので、そこで起きていたことを牧原は目撃していた。本来なら、自分の身に何が起きたのかすぐにでも確認したいところだが、それどころじゃなかった。予定していた通り、道なりに走り出す。


 焼肉屋のおばちゃんはモンスターになり、仲の良かった中村のおばちゃんを殺した。そして、今、牧原の方へ向く。両手が鎌のような形をした手を持つ特撮の怪人のような姿になり、牧原の方へ走り出す。

 移動している牧原の方へ進行方向を調整しているので、新たなターゲットは牧原なのは明らかである。


 牧原は走りながら、道路の端へ寄る。進行方向から黒い大きな乗用車が爆走してくるのが見えたからだ。

 道は住宅街を走る一車線で狭くカーブになっている。行先は建物の壁や塀しか肉眼では見えないのに、牧原には爆走する車が、なぜか見えた。

 元焼肉屋のおばちゃんのモンスターは、牧原を追って、道路の中央をちょこちょこ走る。


 ドスンッ!


 黒い乗用車が、制限速度三十キロの狭い道路を八十キロを超えるスピードで爆走して来て、元焼肉屋のおばちゃんのモンスターに激突した。

 モンスターは三メートル程飛ばされ、地面にドシャッと激突し、少し転がり止まる。血の海を作り、動かなくなった。

 牧原は道の端を走っていたので、難を逃れたのだ。道の真ん中を走っていたら、被害に遭ったのは牧原だったろう。


 車から男が二人、右側と左側と一人ずつ出てきた。日本語ではない言葉で二人の男は話している。

 牧原は、知らない言葉なのに、二人の会話が理解できた。

『おい。なんか轢いちまったぞ』

 運転席から出てきた男が言った。

『だから、スピードの出し過ぎだと言ったんだよ』

 助手席から出てきた男が言った。

 二人は元焼肉屋のおばちゃんの傍へ行く。

『これは、人間じゃない。モンスターだよ』

 助手席から出てきた男が言った。

『良かった。人間じゃないなら殺人罪にならないよな』

 運転席から出てきた男がホッとして言った。

『物損事故だから、殺人ではないが、事故は事故だぞ』

『殺したのはモンスターであって、ペットや動物じゃない。感謝されこそされ、怒られるいわれはない。死体を道路のわきに退けるぞ』

 二人の外国人は、元焼肉屋のおばちゃんの遺体を転がし、道路の脇に移動させる。二人は、事故が原因で前面が凹んだ車に乗り込むとまた走り出す。

 二人は牧原が様子を伺っていたことに気付かず、走り去った。


 牧原は、しばらく呆然としながら、道なりに歩き続け、豊島第十高校の校門の近くまでくる。すると、新たなトラブルに巻き込まれた。


 見知らぬ男子高校生が、モンスターに襲われ目の前で無残に殺された。素早い鎌による攻撃に成す術もなく斬られ、地面に崩れ倒れる。そして、地面に血溜まりを作った。

 本日二回目、モンスターになった焼肉屋のおばちゃんも含めると三回目の殺人シーンに立ち会った。

「ま、マジか」

 頭の中が真っ白になる。

「いったい何が起きているんだ」

 高校生を殺したモンスターは、今度は牧原に標的を変える。


 天気の良い八月の暑い土曜日の朝に、近所のスーパーへ買い物に出かけただけなのに、なぜこんなことになったんだ⁉

 牧原の額から冷や汗が流れた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?