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第9話 モンスターの活性化

「ヤバイ。挟まれた」

 江波は舌打ちする。

 牧原と江波は、スキルやサブスキルの練習していた公園から、モンスターから逃げ回った。

 モンスターに二人より速く移動できる個体が存在しない。

 しかしながら、逃げる度に新たなモンスター五体~八体の集団が現れ、思った方向へ逃げることができなかった。その内、二人の家から遠ざかり、霧島の高校の近くに来る。

 二人の背後からは、五体のモンスターが迫って来ていた。そしてさらに、前方からも五体のモンスターが現れる。

 その状況を江波も認識した。

「あっちを強行突破して、豊島第十高校へ逃げ込みましょう」

 牧原が言う。豊島第十高校へ逃げ込めば、霧島やその仲間に助けてもらえると思ったからだ。

「その案。乗った」

 江波もあっさり賛成する。どっちにしろ、選択肢は他にない。

 牧原は、モンスターの魔法少女へ変身し、犬のようなモンスターを作り、先行させる。

 江波は、斬撃飛ばしで攻撃しながら、走る。

 犬モンスターは、野生モンスターをスピードで翻弄するが、攻撃力はあてに出来なかった。足止めにはなっているが、モンスターを倒せる訳ではない。その上、モンスターの方が多いので、江波、牧原もモンスターに行く手をブロックされる。二人は戦うしか無かった。

「もし、突破出来たら、一人でも高校へ先行ってください。そして助けを呼んでください」

 牧原が言った。

「できたら、そうするよ」

 江波は斬撃飛ばしで一体なんとか片付けたが、それでも二対四である。接敵したところで、江波が二体のモンスターを倒したが、牧原は一体目にダメージを与えているが一体も倒していない。そして犬モンスターも一体倒されてしまう。

 そこに後ろから追ってきていたモンスターが加わる。

 牧原も江波も背後からの攻撃で、大ダメージを受けてしまう。


 これヤバイ。全滅するパターンだ。


 豊島第十高校の方から突然、斬撃飛ばしや矢などが飛んできて、モンスターに命中する。

 霧島を含む数人の魔法少女が、モンスターを次々に倒していく。そして、あっという間に全滅させた。

 負傷している牧原と江波の元へ、霧島がやって来る。

「牧原さん、江波さん。モンスターが活性化しているときに何やっているんですか」

 牧原、江波、顔を見合わせると、「霧島さんと知り合いだったの」と二人同時に言った。

 魔法少女たち全員笑う。

「モンスターが活性化しているなんて知らなかったよ」

 牧原が言うと、「同じく」と江波が言った。

 霧島は、呆れ顔で溜息を吐く。

「二人とも歩けますか?」

「体中彼方此方痛いけど、大丈夫だ」

 牧原が言った。

 モンスターの攻撃を受けた場所が、血で赤く滲んでいた。

「二人の傷の手当をしましょう。一旦学校へ来てください」




 霧島の案内で、牧原と江波は保健室に来た。

 執務机に向かっている、背が低い魔法少女、白谷がいた。

 プラチナブロンドのショートカットで、白を基調とした和装のような服を着ている。紫の帯をつけており、黒い髪飾りをつけている。黒い高下駄風のサンダルを履いていた。高下駄風のサンダルを履いている。

 牧原には、小さい白衣の天使に思えた。治癒系のスキルが使える魔法少女なのかと予想した。

「どうしたんだ。その魔法少女二人は?」

 気配を感じた白谷が回転する椅子ごと向きを変えた白谷が、牧原と江波を見て霧島に聞く。

「校門の近くでモンスターにボコられていたのを助けたんだ。治療を頼むよ」

「保健室の先生がいない今、私がするしかないだろう」

 白谷が言うと、牧原と江波の二人に丸い椅子を準備する。

「こちらは、毒の魔法少女の白谷です」

 霧島が紹介する。

「毒の魔法少女って、どういう事?」

 牧原は怪訝な顔をして聞く。

「毒だけじゃなく、薬も作れるんですよ」と、霧島が答える。

「薬の原料は毒。毒から薬が作れるんですよ」

 白谷はそう言うと、牧原と江波は納得する。

「二人とも座ってください」

 二人が座ると、白谷は二人にまん丸の錠剤と水の入った湯呑を渡す。

「ゲロ不味なので、鼻をつまんで、一気に飲んでください」

 二人は嫌な顔をしながらも一気に飲む。

「に、臭いが鼻まで……」と、江波は咽る。

 牧原は顔色がみるみる赤くなり、突然フラッと倒れる。

「一体コイツに何を飲ませたんだ!」

 江波は驚き言った。

 しかし、白谷は落ち着き払って椅子に座っている。

「君が飲んだものと同じだよ」と白谷。

「それじゃあ、なんで俺は大丈夫で、牧原は倒れたんだよ」

 牧原は赤い顔で気を失っているので、江波は介抱する。

「これは魔力酔いだ」

 そう言うと白谷は、霧島に牧原をベッドに運ぶように指示する。

「魔力酔いってなんだよ」

「まだ、仮説なんだが、今使える魔力が弱く、魔力の潜在能力が強い魔法少女に、この薬を飲ませると起きる副作用だ」

「俺も、昔良くなった。昔と言っても三ヶ月ぐらい前の話だけどね」

 そう言うと霧島は、お姫様抱っこで牧原をベッドに運ぶ。

「心配ないのか?」

「自分の使える魔力と魔力の潜在能力のギャップのせいで、感覚が追いつかないのだろう。さっき飲んだ薬は、魔法少女の魔力を高めて、自然治癒力を高める薬だ。魔法少女を解除すると効果がなくなるので、注意してくれ」

「牧原さんは、聞いていないと思うけど」

 霧島がツッコむ。

「牧原さんには、目が覚めたら説明する」

 白谷は、今度は薬棚へ行くと、軟膏が入った入れ物を取り出す。そして、霧島に部屋から出て行くように指示する。

 白谷は、軟膏の薬の説明をすると、江波に服を脱ぐように指示する。薬を傷口に塗るためだ。

 白谷が薬を塗ると、江波は傷口に沁みて痛がる。

「しばらく我慢しろ。明日には痛みが引くどころか、傷跡も残らん」

 すべての傷口に軟膏を塗り終えると、「もう、家に帰っても良いぞ」と白谷は言った。

「家には帰りたいんだが、モンスターから逃げ回って、学校の近くまで来ちまったんだぜ。帰れないよ」

「だったら、霧島に家まで送ってもらうと良い。脳筋のアイツはそう言う時にしか使えん」

 白谷は、保健室の外まで聞こえるように大声で言った。

「誰が脳筋だって!」

 保健室の外から、霧島の声が聞こえた。


 江波は、霧島の他数名の魔法少女に自宅まで送ってもらう。

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