激戦が続く中、地球防衛部の面々は咲梨の守りについていた。彼女は頭上に開いたゲートの一つに干渉して、それを自分の支配下に置こうとしている。
円卓の騎士達は勇戦を続けているが、飛行能力を持つセラフのすべてを抑えきれるはずもなく、彼らの頭上を飛び越えたものたちが、シェルターへと押し寄せていた。
それを真夏が空中で次々に斬り刻んでいく。
赤い光を纏っていようが関係ない。見えない足場を蹴るようにして空中を高速で移動すると、間合いに入った悉くを塵に変えていた。
だが、それでさえ、すべてをカバーすることはできない。
反対方向からの攻撃を防ぐべく、火惟、希枝、華実の三人が連携でセラフにしかける。北斗は魔術を使い仲間の援護に徹していた。
それでもそれらすべてをすり抜けてシェルターに肉薄するセラフも存在する。
光り輝く黄金の騎士が、鉛色の壁を貫こうとした瞬間、そいつの身体は凄まじい一撃によって粉砕された。
かつてセレナイトと同じ世界で生まれ、この世界に流れ着いた人造人間――秋塚千里の拳によって。
実のところ彼女が本気で戦ったことは、これまで数度しかない。しかも、この世界を守るためにロゼと戦った時以外は、ほんの短い時間しか全力は出していなかった。
セラフを叩き潰した左拳を引っ込めると、千里は背中に背負っていた金色の武器を取り出した。小さく折り畳まれていたそれは、どこ音楽的な音を立てながら変形し、獰猛さを感じさせる大鎌へと変わる。
赤い光を纏って迫り来るセラフを金色の瞳で見据えると、千里は軽く大地を蹴って跳躍した。それはちょっとした段差を跳び越えるかのような動きだったが、次の瞬間、千里は数十メートル離れていたセラフに肉薄し、その身体を両断していた。
さらに、そのセラフの身体を軽く蹴ると、同じように移動して別のセラフを斬り刻む。
故郷の世界において最新の人造人間でさえ苦戦するはずのセラフの力を、この少女の力は完全に凌駕していた。
かつて彼女を生みだした科学者が言ったことがある。
『あなたには、この世で最強の力を与えてある』
それは完全な事実だった。
だからこそ彼女は後悔し、自分を責めた。
一年前のあの日、自分が人造人間をすべて倒していれば、真夏はなにひとつ失わずにすんだのだ。
しかし千里は祖国を切り捨てた罪の意識から、彼らとの戦いを避けて逃げに徹した挙げ句、重傷を負って真夏に助けられた。それが破滅に繋がったのだ。
どんなに悔やんでも過去は変えられない。物理法則を半ば無視し、事象さえ歪める最強の力を与えられていても、こればかりはどうすることもできない。
取り返しのつかない過ちだったが、だからこそ未来のために為すべきことがあった。
(真夏の未来に影を落とすものは赦さない)
次なる敵を求めて大地を蹴る。彼女の心は今、その冷たい眼差しとは逆にマグマのように熱く燃えたぎっていた。
月の無い夜空に金色の鎌が三日月の軌跡を描き、次なるセラフが両断される。
熱く、かつ冷静に最強の人造人間は戦場を駆け抜けていく。