「まったく、水くさいというか心配性というか……」
陽楠市内に現れたセラフを立て続けに斬り刻んだあと、秋塚春生はバス停のベンチに腰かけてぼやいていた。
彼は裏社会にその名を轟かせる恒覇創幻流の宗家であり、少女坂真夏の祖父にして秋塚千里の義父である。
今回、神庭殊那に請われて突然の出動となったのだが、あらかじめ知っていれば当然ながら自らも無人島に乗り込んでいた。
「アーサーのボウズや十二騎士の若造どもよりは、ワシの方がよほど頼りになると知っていように」
「だからこそ、姫はこちらの護りを先生に託したのではありませんか?」
門下生の一人が缶コーヒーを差し出しながら言った。
日本でも有名なありふれた銘柄のものだが、春生はこのコーヒーが気に入っていて、門下生もそれを知っているのだ。
もっともらしいことを告げられて反論もできず、秋生は軽く肩を竦めてからコーヒーを受け取った。
「ありがとう」
きちんと礼を言ってから、プルタブを引いて缶を開けると、そのまま一気に喉に流し込む。
「ふぅ~、この喉越しがたまらんわ」
ビールでも飲んだかのような言いぐさだが、彼はアルコールを摂取しない。その毒性を知っていて飲む奴は阿呆だと決めてかかっている男だ。それでいて、こういう仕草が好きなので、知らない人からはかなり飲みっぷりのいい男だと思われている。
未だゲートはすぐ近くで開いたままになっているが、現在のところ次なるセラフが現れる様子はない。
(まったく、あ奴は……心配はお互い様だというのに)
一年前の事件で家族を失った真夏が祖父である自分を慮ってくれていることは理解できるが、やはり頼ってくれないのは寂しいことだった。
もちろん門下生の言ったとおり、多少はアテにしてくれているのだろうが……。
「うん? 待てよ……」
春生はベンチから立ち上がると、空に浮かぶゲートを見上げた。
「これを辿れば、あ奴の手助けに行けるのではないか?」
「ダ、ダメですよ、先生!」
軽い冗談だったのに何人もの教え子に抱きつかれて春生は身動きできなくなってしまった。