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第41話  【最終話】  ただいま


 事件によってナツメ・マナトは世界安全保障違反で、シンソラ社の代表を解任。中央AIの保守点検を任されていた社は、そのグループの一員から外されるという顛末だった。

 機知室は、社会崩壊の危機を救ったという事で、中央付きのマスコミから大々的に報道され、一躍、機知室は時の人になった。

 その果たす役割の大きさから、使えるポイント数は上昇。権限的にも、警察を越えて、公安に匹敵するまでになった。

 来年度から、人員も多く回してくるって話。それって、またAIが独断で、就職させてくるってことでもあり‥‥私的には複雑な気分。

 それに普通に学生生活を終えて就職してくる人たちは、私より年上だし。

 先輩って言葉は重い。

 後でクジョウ先輩にその心得を聞いてみよう。

 対外的にはそんな所。

 で、機知室の内部的にはどうかというと‥‥。

 カシワギさんは全身打撲と打ち身、捻挫で入院。

 普通なら、大丈夫かな?‥‥って、思う所なんだけど、あの人は絶対に大丈夫。

 またドリアンでも持って病院に差し入れに行こうと思う。

 そのカシワギさんの活躍もあって、クジョウ先輩と、アイザワさんのとこには、敵(らしき者?)‥‥は誰も近づいていかなかったらしくて、被害なし。

 クジョウ先輩は頬に小さな絆創膏を張ってたけど、そんな姿でもスタイリッシュに見える。つくづく爽やかな人は特だと思う。

 アイザワさんは新国連本部と、機知室を往復してて忙しそう。やっぱり姿をほとんど見てないので、レアキャラ感は健在だ。

 室長は相変わらず、モニターを睨んでる。

 機知室の人員のほとんどが機能不全の状態なので、緊急性のある案件以外は、室長が端末で警察に押し付けてる。先日の件もあって、何も出来なかった警察への風当たりは大きいようで、室長はそれに付け込んでどんどん仕事を回してるみたい。やり手というか、何というか‥‥。

「‥‥‥‥」

 私は包帯でぐるぐる巻きにされた左手を見る。

 名誉の負傷‥‥という事で、こんな有様になってる。

 慣れない事はするもんじゃないって事。グーでパンチは自分にもダメージがある。

『私もケジメをつけた!』

って、意気揚々とカシワギさんに言ったら、

『ったく、素人が拳なんて使うなよ。痛いのは拳のほうだ』

 なんて事を、さもバカにしたような顔で言ってきた。そんでもって、ずっと笑ってるし。

 ドリアン+ニンニクの何かを持っていく事にしよう。



 そんでもって、私は今、病院にお見舞いに向かってる途中。

 カシワギさんにではない。

一応、お見舞いの品は、プリンとかカットフルーツとか‥‥よさげな物をチョイス。あと花とかも一応。

花屋さんに行って自分で探したんだけど、なかなかいいの見つからない。店員さんに聞いてみたんだけど‥‥。

『どういう方に贈られるのですか?』

 って、聞かれたから、色々と話した。

『あー‥‥なるほど、だったら、これ以外にありません』

 選んでくれたのは赤いトゲトゲのある花。細かったんだけど一杯入れてくれて、何と本数は108本! さすがに多いと思ったけど、

『サービスです!』

『‥‥むう』

 無理矢理車の後ろの席に巨大な花束を乗せて、病院に到着。

 大きな花束を抱えて入っていくと、ロビーにいた人達は、ぎょっとした顔で見てくる。

 病室の前まできて、入口のところに映ってる私と花束の影に、私自身もドン引きしてる。

 ノックして中に入る。間違えて左手で叩いてしまったら、廊下中にドンドン!という音が鳴り響いてしまった。

“何だ? 開いてるよ”

「‥‥‥‥」

 許可が下りたので、私は中へと入る。

「‥‥何だユメじゃねえか‥‥ん?‥‥何だそりゃ?」

「‥‥病室に飾る花」

 ぼそっとそれだけ言う。

 見渡して花瓶を探したけど、とうてい入りきるものじゃない。あとで言って追加で花瓶をもらおう。

 ミナセさんはあちこち包帯だらけ、右手、左足はギブスで、頭にも包帯撒いてる。今、火事とか起こったら、確実に逃げられない‥‥そんな感じ。

 全治三か月‥‥思ってたより重症だった。

 でも、無事で何より‥‥無事じゃないけど。

「俺が担当してた、あの案件‥‥どうなった?」

「ああ、あれは、警察に回されました」

「ほんとか⁈ 駄目だろ‥‥くそ‥‥あと少しでホシをあげられる所だったんだが」

 こんな感じで仕事の進捗の報告。

 帰り際に持ってきた紙袋からコートを出した。

「‥‥えっと‥‥一応、破れてる所を縫おうとはしたんだけど‥‥」

 ミナセさんがいつも着てるボロボロのコート。穴だらけになってしまって、しかも出血の跡もすごくて‥‥。何回も洗ってはみたけど、全く落ちなくて、しかもそうしてるうちに裂けてきた。縫ってみたけど、背中とくっついたりして、まあ、悲惨な状態(利き手が使えないから仕方なし)。

「‥‥それで、これ‥‥私から‥‥」

 似た様なコートを探して買ってきた。デザインが古臭くて、なかなかなかったけど、零網区近くの古着屋で何とか見つけてきた。

「わざわざすまんな‥‥しかし何だ、やけに丁寧だな。どうしたんだ?」

「‥‥何となく」

 それ以上、何も言えなくなって私は立ち上がった。

 帰る途中、ドアの取手を掴みながら、私は小さな声で呟いた。

「‥‥ありがとう」

「ん?‥‥何だって?」

「‥‥また来るから」

 ゆっくり後ろ手にドアをしめる。

 これからはもっと素直になれるように努力していこうと思う。

 その時は‥‥ちゃんと言えるようになれたらいいなって。




 私は十七歳になった。

 とは言っても何も変わった事はない。

 手続き上、十六が十七に変わっただけ。ただそれだけなのに、凄く大人になった気がする。

「えっと‥‥どっちだったかな」

 迷ってる私にはお構いなく、自動運転の車は、迷う事なく目的地に向けて走っていく。

 ビル街を抜けて、途中の荒野を越えて‥‥いつしか住宅街に入っていく。

 同じような家が並んで、同じ様な区画がどこまでも続いていて‥‥。

「‥‥‥‥」

 目に飛び込んできたその光景に、私はまた泣きそうになる。

 もう少しで、私の生まれ育った家につく。

 本来ならばこの行為は禁止されてる。AI的には、いつまでも親元から離れずにいる事は自主性をなくし、ひきこもりをつくる元というのが理由。

 でも、私はダメ元で申請を出してみた。

 結果は予想外にOKで、もしかしたら、機知室での事が、戻る許可の判断になったのかもしれない。‥‥分からないけど。

 連絡はとれないので、いきなりになるけど、今はもう仕事はしてないはずなので、多分、家にいるはず。

 本当はミワナちゃんにも会いたかったけど‥‥それはまた今度の楽しみ。

「‥‥‥‥!」

 同じ家なのに、あきらかにここだ!っていう一軒の家を見つけた。

 車はその家の前で止まる。

「‥‥‥‥」

 車から降りて深呼吸してインターフォンを押す。

“はい、ツキシロです”

「‥‥!」

 お父さんの声!

 何て‥‥どう言えばいいだろうか。

 何も言葉が浮かんでこない。

「えっと‥‥」

 出て来た言葉はそれだけだったけど‥‥。

 ドアが勢いよく開いた。

「ユメ! やっぱりユメじゃないか!」

「‥‥‥‥」

 お父さんが出てきた。

 一年ぶり‥‥少し‥‥痩せた? 

 だめだよ、ちゃんと食べないと。

 いや、そんな事を言いにきたんじゃなくて‥‥。

「元気にしてたか?」

「‥‥うん」

 お父さんに抱き着く。昔‥‥かなりちっちゃかった時と同じ。

 やっぱり安心する。

“ユメ?”

 お母さんの声がして、私は顔をあげる。

「‥‥‥ユメ‥‥」

 心配そうな顔で私を見てる。

 やっぱり、お母さんは、お母さんだ。

「‥‥‥‥」

 今度はお母さんに抱き着く。

「どうしたの? 子供みたいに」

「‥‥うん」

 今はもう子供じゃないけど、子供みたいに泣いてる。

「‥‥ただいま」


 これからもいろんな事があるだろうけど、この世界の中で、私は生きていく。

 その時の私が何を思って、何をするかなんて分からないけど‥‥今はただ、この幸せをかみしめていたいと思う。


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