拘束していた林が消えたことを確認して、俺は立ち上がり、体に付いた埃を払う。
その時、静寂を破るように、空間全体に澄んだシステム音声が響いた。
『林 徹様のリタイアにより、山田 はじめ様の勝利が確定しました──ただいまから、能力を生成します。』
上空に淡い光の球体が現れ、俺の前にふわりと降りてくる。
球体は目の前で弾け、閃光が広がった。
その後、システムが続けて告げる。
『山田はじめ様の能力は“託された者”──勝利した相手の能力を借り受けることができます。』
空中に浮かぶ文字が、俺の目に飛び込んでくる。
そうか、俺には“能力”があるのか。
力がなかったわけじゃない。
それは、ただ“受け継ぐ”力。誰かの意志を、そのまま背負う力。
──誰かの想いを背負って、前に進む。
それが、俺の力だ。
「これで、“能力がないから負けた”って言い訳もできなくなったな…」
俺は小さく笑う。
自嘲と、ほんの少しの決意が滲んだその言葉には、確かな変化があった。
これは、ただの一つの勝利に過ぎない。
けれど──それでも、確かな一歩を踏み出した気がする。
何者でもなかった自分が、“誰か”になるための、最初の一歩。
──そして、この物語は、さらに前へと動き出す。
*
山田と林の戦いが終わったころと同時刻──
無数のモニターが浮かぶ、まるで空中のコントロールルームのような空間。
その中央で、主催者はソファに寝転がり、片手でグラスをくるくる回していた。
氷が静かに揺れ、画面に映る少年を、じっと興味深げに見つめる。
「ふーん……あれが“白紙”か。意外とやるじゃん」
その口調は気だるげだが、目の奥には一切の笑みが見えない。
ただ、淡々と少年を見守りながら、思索を巡らせるように呟く。
「“託された者”…ね。面白いカードだ。こういう手も考えてたか。ふふっ、だんだん面白くなってきたじゃん」
指をひとつ鳴らすと、空中のモニターが切り替わり、映し出されたのは複数の空間。
その中にいるのは、次の試練に挑む参加者たち──準備は着々と進んでいるようだ。
「さて……白紙くんの次の相手は…っと」
表示された名前を見た主催者は、上半身を起こし、目を見開いてもう一度モニターを見直すと、声を上げて笑い出した。
「なるほどね! 次は“氷使い”くんか。相性、真逆じゃん!」
グラスの中の氷をひとつ口に含み、そのままバリリと音を立てて噛み砕く。
「白紙くん、ここからが本当の試練だよ。君が“強い”かどうか、ようやく試される──運命ってやつかな」
悪戯めいた笑みが、その口元からしばらく消えることはなかった。