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国立超能力研究センターにて 4

 1年目特級クラス。試験で成績優秀者や特殊な超能力者が所属するクラスである。成績優秀者のトップ5人は確実に入り、その他の特殊超能力者、既存とは別系統に発展したり、新発見の能力者を纏めて教育する場所だ。


「広いなぁ」

「席の数が少ないからな」


 ぼそっと呟くクナトにカヅチは冷静に返す。入学者は200人前後になる。もちろん、パラスフィア以外の出身者もいる。別に国立超能力センターのみが超能力者の育成機関というわけではない。しかし、超能力者としての登竜門ではある。故に多くの超能力者がここに集う。

 もちろん、ほぼ全てに合格を出すが、それ以上に中退者ももちろん多い。


「俺たちが一番乗りだな」


 クルクルと教室を見渡しながら、カヅチは言う。

 7つある席はこのクラスの人数を示しているだろう。

 どこに座ろうか、と二人して顔を合わせていると後ろのドアが開く。邪魔になるだろうと、クナトは慌てて、横に移動するがカヅチは我構わずだ。


「あら、カヅチ」


 そこに現れたは少女。紺色の髪はどこか土交じりの色をしている。全体はグレーなジャージを着ている。先ほどまでの入学式でも同じ格好で参加したのだろう。カヅチともども勇敢と言うべきか、無頓着な人間だとクナトは考える。

 カヅチは苦虫を嚙み潰したような表情で彼女を見ている。


「泥んこ、おめぇも来たのかよ」

「泥んこじゃなくて、ドロシーね」


 呆れた声でドロシーは返す。


「そちらは?」

「あ、僕は」

「クナトだ。俺のライバルだ」


 強引じゃない?とクナトは驚いた顔をする。ドロシーは呆れた顔でカヅチを睨む。カヅチはうっと罪悪感を持ち、少しだけたじろぐ。


「改めまして、うちは芙蓉ふようドロシーよ」

「あ、廣瀬クナトです」

「あ?」

「え?」


 クナトの発言にカヅチは怪訝な、ドロシーは驚きの声を漏らす。

 廣瀬の名は有名であった。


「英雄様の息子?!」

「え、あ…一応…」

「マジか。まさかとは思っていたが、やべぇな」


 カヅチの獰猛な笑みにクナトは一歩下がる。怖がってるじゃないと、ドロシーは注意をし、カヅチは適当に謝る。まるで慣れた二人の関わりに疎外感を受ける。


「うちも水操作者ネロキネシスなのよ。良かったら教えてくれない?」

「ずりぃーぞ、泥んこ。そもそもおめぇのは水操作じゃねーだろ」

「良いの!根本は一緒だし」

「あ、僕は…その…」


 ガン!とドアが荒々しく開き、話が中断される。高身長の少年が一人。ドアとほぼ同じ大きさのそれは三人が見上げるほどである。髪は刈り上げた坊主。上から下までピンと黒で統一した姿はどこか聖職者を思わせる風貌であり、実際にそうだろうか、胸元にぶら下るは魚を模した菱形である。スタロス教だと示していた。 


「建付けがよろしいですねぇ、このドア」


 ねっとりとした声が響く。あまりにも不気味な雰囲気に静寂が保つ。


「失礼しました。こちらはパラミと申します。姓は教会に預けていますゆえ、ただのパラミです」


 スンと一礼して、パラミは自己紹介を行う。


「く、クナトです」


 代表の様にクナトが挨拶を返す。

 それで満足したのか、のそのそとパラミは席へと向かう。 前に四つ後ろに三つ並べた独特な席の中で後ろの右端をパラミは選ぶ。


「あ、ここだー」


 5人目が来た、とクナトはドアを見る。先ほどとは真逆だ。ちんまりとした身長はクナトよりも少し低い。白を主に置いた服はジャージに見えるが、下は明らかなミニスカートであり動きやすいとは言えるか怪しい格好でもあった。

 緑を明るくした様な髪色は派手であり、目を隠している程に伸ばす。

 手引きの規定に合わないその姿は一瞬迷子だと思えるほどだ。


「やあやあ、おはよう!」


 パタパタと袖余りを両手で振って挨拶する姿は妙に幼く感じた。


「おう、俺はカヅチだ」

「ボクはマチ!百目鬼とどめきマチ!16歳!」

「奇遇だな、俺も16だ」

「そりゃそうでしょう」


 ぴょいぴょいと跳ねながら自己紹介する姿を見て、和やかな雰囲気を出す。

 自己紹介に出遅れたクナトは静かになる。


「こんにちわー」


 続けて入るは気だるげな少年。黒髪と黒い瞳。上から下まで茶のジャージを着た無個性な少年だ。


「どうも」


 無個性のそれにクナトだけは反応できた。クナトの挨拶に反応してか、カヅチたちもようやく誰かが来たのかに反応できた。

 しかし、少年は何も言わずに自分の席を選びに向かった。無言で真っすぐと背を伸ばし、座るパラミの隣の席に座る。


 なんだ、あいつ。とカヅチは呆れながら声をかけようと口を開いた瞬間だった。


「お待たせしました」


 最後の一人が現れた。大人しく冷たい声が響く。リュースが入口に立っていた。

 カヅチは顔を顰めている。嫌な奴にあった様な表情であり、対してドロシーは目を輝かせていた。

 玉屑。氷を操る美しくも冷酷な一族。異形が人類に対して侵略を開始してから第一線を常に支えてきた英雄の一族。彼らに憧れを向ける人は多い。そして、リュースは次の英雄と呼ばれるほどの実力を既に有していた。

 足りないのは経験ぐらいだろうと。


「あら、クナトくん。貴方もこちらにいらしたのですね」

「え、まぁ…」

「…珍しい能力枠ですか」


 クナトを一瞥し、淡々とリュースは告げる。校門の前で妙な気配を醸し出していたのは気のせいだったかもしれない、とリュースは改めた。

 気弱な人間。校門で見た際の堂々とした雰囲気はジャケットの古びたさ故だろうと、推測しリュースの感心はカヅチへと移っていた。


 次席。自分に付けられたのはその称号であった。では首席は誰なのか。

 目の前にいる男だ。リュースとしては納得できなかった。ほぼ全てにおいて満点を叩き出したのにどうして彼の方が上だったのか。

 何かの不正でもしたのか?と疑問を抱いていたが、そんなことはなかった。ただ一点だけ、たった一点だけ違っていた。

 集中力の項目。ただそれだけだった。


 その事をカヅチは既に把握していた。寧ろその一点だけの差、それが埋もれ場、自分は勝てないだろうと。

 しかしライバルとしては不合格である。


「とりあえず、席に着いて先生待とうか」


 空気を察したのか、ドロシーが話題を変え、席に着くように促した。

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