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第46話 王者降臨


クランメンバーに退避を促した豪羅は、己だけは怯むことなく巨影めがけ突っ込んだ。

それは反応の遅れた者を助ける僅かな間を稼ぐため。

付き出された角を避け、分厚いエラを受け止めるように身体を突っ張ろうとした。

しかし……。


「ぬぅあああああああああ!!?」


雄叫びも虚しく、僅かな拮抗すら許さず巨体が豪羅ごと木々を押し分け密林の奥へ奥へと連れ去ってしまう。

凄まじい圧に豪羅は身動きが出来ずそのままクランメンバーと引き離された。

豪羅が受け止めようとしたのは、最も知名度の高い角竜類、トリケラトプスだ。

その突進はスパイク付きタワーシールドを構えたブルドーザーによるシールドバッシュとも言うべき重量と破壊力を備えていた。


レベルとかそういうのの前の当たり前の話、たかだか体重100kg前後しかない豪羅が、30tを超えるモンスタートリケラトプスのケラちゃんを止められるわけがなかった。

なお我らがポチは除く。

彼女はイレギュラーなのだ。


群れは途切れない。

ケラちゃんの後続を紹介していこう。


ケラちゃんの次に目立つのは肩の辺りから巨大な刺を飛び出させたギガントスピノサウルス達。本来体重1tにも満たないのだがそこはダンジョンモンスター。

GGスピノとして体重20tの巨体を獲得した。

当然飛び出した刺もでかい。

大きく幅を取る一対のスパイクが回避を難しくさせ何人も逃げ遅れた者をはね飛ばす。


恐竜界の重戦車といえばアンキロサウルスだが、モンスター化した彼らはさらに凶悪な外見をしていた。

近似種のエドモントニアのスパイクを獲得したモンスターアンキロサウルスは最大の武器である尾骨のこん棒にも刺を生やし、尾はより柔軟性を得てよくしなる。

それはまさに刺付きフレイル……モーニングスターの如し。

振り回された凶器はたやすく鎧を、盾を砕く。

さらにら「畜生があああ」と背中に叩きつけられたクランメンバーのメイスは逆にあっさり弾れ、逆襲のテイルスイングが炸裂する。

アンクスター達の威容、ここにありという感じだ。


破城鎚を人間にぶち当てたらどうなるか?

そんな妄想を叶えてくれるのがパキケファロサウルスだ。

モンスター化した彼らは、特殊な身体構造によりガスを身体の脇から噴出可能になり推進力を得、それは大地を離れ宙に飛び上がることすら可能にした。

ターゲットを見定めると分厚い頭蓋骨を向けてロケットのようにすっ飛んでいき、木に登って難を逃れようとしていたクランメンバーの身体をくの字に折り曲げ太い枝を突き破り上空にかちあげる。

ロケキファロサウルス……言いにくいので命名ロケちゃん達だ。


どコンどコンばきんばきんと衝突事故のように人が宙を舞う。

特に身のこなしの良い数名を除いて誰も彼もはね飛ばされるか殴り飛ばされたかして腹を抑えて呻いている。

だが幸いなことに死者はいない。

否、幸いでもなんでもなくそうなるように指示が出されていただけなのだ。手加減しろと。


黒幕の目的は2つ。ひとつは分断。

彼らの精神的支柱であるクランマスター豪羅を遠ざけること。

豪羅がケラちゃんに向かっていき、うまい具合に事が運んだが別にそうでなくてもポチが念動力でなんとでもしただろう。


もうひとつは、心を折ること。

所詮、井の中の蛙だったと突きつけること。

最恐の王者の前にひれ伏すように。


よく考えて欲しい。

草食恐竜のキルシーンは地味では無いだろうか?

呆気なく、大群に押し潰されて全滅では絵面が悪くないだろうか?

いや、まぁ魅せ方にもよりけりだとは思うがここはやっぱり肉食恐竜にご登場願いたいと思うのが人情だろう。


と、いうわけで。

草食恐竜達はひとしきり暴れまわると悠々と密林を切り開いて歩み去っていった。


「助かったのか?」そんな安堵混じりの吐息が漏れたのも束の間。

ズン、と大地が再び揺れる。

群れが立てるような地響きとは違う、一歩一歩踏みしめるような歩み。

密林の奥より満を持して姿を見せたるは王者の風格。

ティラノサウルス。T-REX。

彼こそが恐竜達の頂点、異論は認めない。


モンスター化したことによりその体格はさらにパンプアップされ、継承したマスター能力により、オリハルコンを纏うその姿は最早美しすらある。


全長30m、体高13m、体表面の金属化による重量増加で体重は500t近い。

圧倒的存在感に豪放磊落の面々の目は釘つけに、呼吸は止まる。

ひれ伏すように這いつくばる彼らを睥睨し、王者はついに口を開く。


咆哮は、爆撃と暴風だった。

運悪く、近場で口の直線上にいた者はF1カーにでも跳ねられたように吹き飛んだ。

咄嗟に耳を抑えた者すら距離によっては鼓膜を破壊された。

激烈な振動が、金属質の体皮と共鳴し、衝撃波を放ち周囲の木々や枝がバリバリと弾けとんだ。

それはブレス攻撃ですらない、王者はただ吠えただけだ。己の存在を誇示する為に。


もう無理だった。

誰が上げたものかわからない悲鳴を皮切りに、クラン豪放磊落は瓦解した。

我先にと王者に背を向けて、逃走に移る。

たまたま、そうたまたま、3方向に、草食恐竜達が開いていった道のようなモノがついており、手近な所へ飛び込んでいく。


王者はゆっくりと、右側のルートに行き先を決めると逃げ惑う獲物を追いたて始めた。












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