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第11話 変化と総帥の怒りの矛先

「で?あのスライムだか、ゼリーだかよく判らない怪人をあのコンビニに向かわせたのは誰だい?とっても騒ぎになってしまったね?」

 会議室で僕は怒りに満ちた声で幹部共を招集した。


「お、恐れながら総帥!今回の件はスライム怪人が勝手に行動したのかと!今日は奴の出番ではなかったのですが、休憩時間に先輩怪人のプリン怪人にコンビニで酒を買ってこいと言われたらしく…」

 と幹部の一人サラリ軍曹が喋る。

 こいつも変な仮面を目につけ、服は黒のレオタードに長いブーツ、飾り花のついたシルクハットに肩から留めれる取り外しつきのマントを羽織っている。

 そして妙にサラサラな長髪の変態男だった。


 休憩時間に部下の前で帽子だけ外して


「てぃ●てー♪」

 とか自分の自慢のサラサラ髪で後ろを向いてシャンプーのCMの真似でドヤ顔してたのを見かけて僕は無言で通り過ぎたことがある。

 もちろんその時は戦闘員Eの格好だったから僕が総帥だってバレてなかったけどね。


「サラリ軍曹…スライムゼリー怪人はお前の部下なのか?」


「はっ…はい!知らぬ事とは言え申し訳ありません!しかもヒーローではない一般人に殺されるとは思ってませんでした!怪人の不始末は私の責任!」

 と焦ったように頭を下げる。


「うるせーよてぃ●て野郎!」


「へあっ!?」

 ビクリと震えるサラリ軍曹。


 僕の雪見さんを怪我させた罪は重い。

 減給だけじゃ足りないな。

 本人はぶっ殺したけど、グリーンに僕の素顔を見られたしマスゴミにも騒がれている。


「今回のことで弱い怪人は一般人でも倒せるとバカな国民が行動を起こす可能性は高い。今まで怪人は全てヒーローが潰してきたからだ!

 お前らはとんでもないミスを犯したんだよ!

 ていうか昼間から酒を飲むな!プリン怪人は独房に3ヶ月監禁しておけ!食事はゼリーしか与えんな!」

 と僕は3ヶ月ゼリー生活の刑を言い渡した。


「ははっ!」


「それから弱い怪人の強化を始めろ!一般人に舐められない程度には強くなっておけ!」


「はいっ!今すぐ強化プログラムを作ります!!」


「そ、総帥!それであの、スライムゼリー怪人を殺したこのイケメン高校生の処分はどうします?」

 とスクリーンに僕の顔が映る。


「ほっとけ!こいつにも話題の店員にも関わるな!いいな!これは命令だ!破ったものは殺す!」

 と凄み幹部はガタガタ震えだした。


「では解散前に一つだけ…マルシェ!バリカンを!」


「はい、ラキュラス様」

 とこれまた愉快な仮面をつけ、魔法使いみたいなマントをつけた老人が銀のお盆にバリカンを乗せてやってきた。

 まぁ鳴島だけど。一応僕の側近だ。


 僕はバリカンを持ち


「サラリ軍曹…落とし前をつけさせてもらうぞ?」

 サラリ軍曹は頭を抑え


「そんなっ!お許しをラキュラス総帥!どうか!どうかこの髪だけは!毎日洗って手入れして育てたのです!」


「あっそう…でも仕方ないよ?諦めて丸刈りになれ!もうてぃ●て~♪は一生できんがな!」

 と僕はバリカンで奴の髪を刈っていった。


「ふがああああん!私の髪が!!」


 刈った髪をマルシェが箒で集めゴミ袋に入れていたら丸刈りになったサラリ軍曹は


「それ…いただけませんか?せめてカツラにしたいのです!」

 と必死で懇願した。

 自分の髪で自分のカツラを作ろうというのか!

 チラリと僕を見たマルシェは僕がうなづくのを確認し壁のボタンをポチッと押してダストシュートにそれを投げた。

 地下のゴミ置場に直結している。


「サラリ軍曹…明日が燃えるゴミの日だ…検討を祈る…では解散!」

 と手を叩くとサラリ軍曹はダッシュで会議室を出ていった。


 僕は同胞の怪人まで殺してしまった。

 あの時雪見さんがスライムゼリーに殺されそうなのを見て咄嗟に身体が動いてしまった。

 殺すとこんな騒ぎになることは判ってはいたのに。何故だ。怒りが抑えられなかった。


「僕らしくないね、マルシェ…」

 髑髏の装飾の椅子に座りながら言うと


「ラキュラス総帥…やはりあなたは彼女を真剣に思っているのです。恋ですな」


「こっ…これが恋…ヒーロー共が「愛とか恋の前ではあんた達なんか一掃よ!」とか叫んでる…アホみたいな…」


「明日もお見舞いに行かれるのでしょう?早くお休みください」


「グリーンのことだけどな…とりあえずあいつの住んでるアパート、今度グリーンが活動してる隙に燃やしとけ」


「畏まりました。ラキュラス様、住人は避難させておきましょう」


「うむ!頼んだわ」

 直接殺せないのは残念だけど…。



 次の日の学校帰りに僕は雪見さんの病院に行った。

 花束と果物を持ち歩いていると、パシャリと勝手に撮影される。

 報道規制しといたのに命知らずのマスゴミはまだしつこいのがいるらしい。


「栗生院くんだね?君が怪人をやっつけたんだよね?特集させてくれないかな?怪人を倒した一般人!話題になるよ!これからはテレビにも出て発信すれば正義の組織からも声かかるだろうし!」


「…興味ないです…。僕や彼女にもう近づかないでください…。静かにしてくれませんか?」

 そしてマスゴミの男の後ろから鳴島が瞬間眠りガスを噴射してグニャリと男は眠った。

 僕はカメラからデーターを抜き取りカメラを壁に投げ叩き壊しておいた。


「片付けておきます」

 鳴島は男を車椅子に乗せて立ち去る。



 コンコンと病室をノックして僕は雪見さんに会う。

 彼女はほんとに来た!という顔で恥ずかしそうに


「あっ…どうもっ!」

 と頭を下げた。どうしたんだろう?何という胸の熱さ!心音がおかしい。


「まだ痛いよね?」


「痛み留めがあるから大丈夫ですよ」


「そう…でも腫れて水泡が…」

 と言うと


「いえいえ!確かにまあ!そうですけど醜いので足を凝視しないでくださいね!」

 と毛布で隠す。元からパジャマなので足は隠れてるけどね。


「雪見さん、もう少ししたら散歩に行こうね?まだマスゴミがウロウロしてるから出歩けはしないけど…」


「は…はあ、ほんとは別に入院しなくてもいいのに…」


「でも自宅療養だと雪見さんの実家やアパートにもマスゴミが殺到するだろうからね」


「あ…そ、そうなんだ…。それは確かに嫌かも」


「いっそマスゴミの家を爆破してしまおうか…」


「それはやめたげて!!」

 と彼女が慌てる。

 ああ、何だろうかこの幸せな時間は…。

 怒りはまだあれど彼女といるこの空間が澄んで見える!

 明らかに何かが変化を起こしていた。


 僕が雪見さんの細い手を両手で包むと雪見さんは俯いて赤くなる。

 しかし、首をすぐにブンブン振って正気に戻ろうとしている。


「雪見さん………。いや、時奈さん…。僕は君が好きだよ…。君がいれば何もいらないかも…。すぐにでもヒーロー達をぶっ殺して正義の組織を壊滅させ子供達の未来を奪い、人々の希望を奪い、地獄と化した世の中になったら、学校も社会も機能しなくなるからずっと僕といられるね」

 と言うと思い切り引かれた。

 ああ、僕の渾身の告白が…。

 そりゃそうだ。サイコから治してかないといけないよね…。


「栗生院くんは…まだ何か私に秘密にしてることあるの?」


「えっ?」

 どきりとする。彼女はいつもどこか勘がいいところがある。


「どうしたの?そんなことないけど」

 あるけど…。流石にここにいるのは悪の組織の総帥だとかは言えないけど。


「ふぅーん…」

 ちょっと不満そうな顔を向けるので僕は手を伸ばして時奈さんの額にキスを落とした。


「ひぎゃっ!!」

 と言う声が漏れ彼女は何度目かの石化をしたのを見て嬉しくなり僕は


「じゃあ、またね?これから戦闘員のバイトの時間だ!」

 と微笑んで病室を出て行く。

 うーん、後12日のお見舞いも楽しみだ。

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