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第53話 寒い部屋のクリスマス

「あっ、あのごめん!今更だけどほんとにボロくて狭くて寒くてあんまり綺麗じゃない!」

 と部屋に入れてから言ってももう遅いよね!!

 ほんとにボロいもん!寒いし電気ストーブにこたつしか無いけど。急いで暖を入れる。


 栗生院くんは部屋を見て何かに気付く。は!まさか!ロバのぬいぐるみ?そう!ずっと持ってたの!!と嬉しくなるけど


「ネギを栽培してるんだね?あ、もやしもある」

 ひっ!ひいいいいい!思わぬ貧乏臭いものを見られたああ!もうだめだ!!死のう!


「な、何か食べた?」

 と聞くとフルフル首を振ったので


「じゃあご飯を作るからシャワー浴びて来て?寒かったでしょ?」

 と聞くとなんか真っ赤になったので


「いやあの!そういう意味じゃなくてっ!冷えてあの12月だし!!」


「うん、わかってるよありがとう、ちょっと借りるね?」

 と洗面所に消える。

 はあっ!ダメだ!もう久しぶりにイケメンと会話しておかしいわ。しかもご飯って言ってもそんなに材料ないぞ!なんてこったい!クリスマスなのに!チキンもありゃしないよ!

 豚肉の炒飯にちょっとしたトマトスープしか作れないけど作ってると


「いい匂い!」

 とイケメンサンタが湿った髪であがってくる。

 ぎゃ!このアパートに似つかないイケメンが!!


「うぐっ!」

 と思わず変な声が出て胸が痛い。


「大丈夫?時奈さん?」


「うん、平気…できたよ…口に合わないかもしれないけどこんなの…」


「そんなことないよ!とっても嬉しいよ?嬉しくて死にそう!」


「ええ?死んだらダメだよ…」

 と言うと赤く照れるサンタ。


 それから二人でご飯を食べる。


「うん!やっぱり美味しい!!」


「うう、無理しないでね?栗生院くんは普段から良いもの食べてるんだから」


「時奈さんの料理以外に美味しいものなんてこの世にあるの?」

 との言葉に久々に脳内で血管がプチプチ切れていく音がする。

 とんでもない破壊力を持った新兵器なの?


「こんなことをこんな日に話すのはあれだけど…もう時奈さんには全部隠さず言うよ…それで僕のことを嫌いになっても構わない…そのつもりで来たから」

 そして栗生院くんは食べながら今までのことを話し始めた。

 彼が本当は悪の組織の総帥だったことやレッドさんのことや叔父さんのこともそして新しい組織を作ってる所も今、監禁されてて明日には帰らないと鳴島さんの命がないことも…。


 全部話を聞いて私は…


「大変だったんだね…でも…嫌いじゃないよ?前にも言ったよ?悪でもいいって…」


「…時奈さん…」


「話してくれてありがとう……ずっと不安だったけど判って良かった!デザートを食べよう!…ってケーキ一人分しかないから食べて!どうぞ!激戦の末に勝ち取った割に全然ちっさいショートケーキだけど!」


「何それ?そっちのが聞きたいよ?」

 とちょっと話しながら泣きそうな顔だったけどやっと彼は笑った。


 結局小さなケーキをさらに小さく割って食べた。


「あのね…僕は今お金もないし計画が成功するまでまた少しだけ会えないけど必ずまた迎えに行くからね?」


「うん…待ってるね…」

 全て納得して私はうなづくと手を握られそっと電話を渡される。


「メリークリスマス!」


「これ何?」


「新しい電話…と言ってもライメだけになるね…レッドがくれたんだ。僕と時奈さんが連絡取れるように。今まで通り本名では使えないし、やり取りの後は文章も消さないといけない…叔父さんに嗅ぎ付けられたら嫌だし…」


「そっか…でも古いのも持っておくよ…だって待ち受けは変えないから…後ね、写真も印刷したいの…ずっと教えてほしくて吉城くんに…」


「そうか……全部終わったら一緒に写真屋に行こうか?」


「うん!約束だよ?」

 彼は私を抱きしめた。そして少し恥ずかしそうに言った。


「久しぶりだからさ、再会した時からずっとドキドキしてるんだ、ほんとは…」


「ええ?」


「だってもう…何年も会ってないみたいな感覚?凄く会いたくてさ、毎日時奈さんを思わない日なんてなかったよ?」


「うぐっ!わ…わたし…も」


「そう…おんなじだね?」

 額を合わせられてどきりとする。

 久しぶりに髪や頰にキスされ


「時奈さん…愛してるよ…」

 と口付けされる。

 ドキドキが止まらずにいると


「ねぇ…時奈さんもシャワーを浴びて温まっておいで?外寒かったでしょ?」

 いや今結構血管が沸騰するくらい熱いけど!


「うん、そ、そうだね…」

 と支度すると手を握られ


「今日は泊まってもいい?」

 と言われて赤くなる。


「え…うん…だって外寒いし…あ、この家も寒いか…」


「時奈さんがいれば平気…」


「ひぐっ!!」

 とまた石になりかけると


「あはは!ほら早く入っておいで?」

 と背中を押された。


 シャワーしながら気付いた。そう言えば布団が一つしかない!!どどど…どうしよ!!!


 結局シャワーが終わり事情を話すと彼も赤くなり


「まぁ…そうだろうね…」

 いやそうだろうねって!あんた!


「嫌なら触らないけどね…」

 と言われてちょっとズキリとする。もしも計画が失敗して二度と会えなくなったらどうすりゃいいんだろう?もし彼が死んだりしたら…。私一生一人だし、後悔ばかりになる!


「く…吉城くん…不束ですけど…私のこと…もらってくれる?こんなので満足しないかも…だけど」

 と頭を下げた。

 彼は真っ赤になり慌てた。

 何か自分をつねったり叩いたりして


「夢じゃないね?」


「私いつも貰ってばかりだからね…」


「僕も貰ってばかりだよ?」

 と二人で笑う。


「…おいで?」

 と彼は両手を広げてくれたのでそこに飛び込んだ。



 *


 朝になり目が覚めると彼はもう起きていて身支度を整え出て行こうとしてたから慌てて起きた!


「吉城くん!!」


「あっ!起こしちゃった!というか服!」


「ぎゃっ!ご、ごめん!」

 と二人して恥ずかしがり、素早く服を着て飛びついた。だってもう…次に会えるのいつなんだろう?


「あのさ、絶対に成功させるから!」


「吉城くんならきっとできるよ!」

 ボロボロ涙が溢れる。涙を指で拭いて優しくキスされる。


「ごめんね…きっと迎えに行くよ…違う名使うけどライメもできるし…本当に愛してるよ…」

 もう何百回も聞いたよ…


「わたひも…ひぐっ!信じてるよ…好き…」


「もう何百回も聞いたよ…」

 ともう一度だけ長くキスして


「じゃあね?」

 と笑って彼は振り返らず去っていく。

 カッコいい…

 ドラマか…

 ヒロインがこんなダサいけど…

 主演女優賞はもらえないけど…


 行かないでとかは言えなかった。

 そんなの言ったらダサい女がさらにダサくなるし。可愛くて美人な女の子なら言えたのに。


 生きて帰ってきてくださいね!

 と戦地に赴く兵士に敬礼する気持ちで私は無事を祈った。

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