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第59話 カウントダウン

(鰻重:いよいよ明日だよ牛丼さん…)


(牛丼:私…ただ祈ることしかできないよ…)


(鰻重:うん、世界がどうなろうと僕はやっぱり君の所に戻るからね)


(牛丼:うん…信じて待ってるよ…)


(鰻重:本当は一緒に年を越したかった…)


(牛丼:私も!)


(鰻重:終わったら会いに行く…またあの場所で会おう)


(牛丼:絶対に来てね!)


(鰻重:約束するよ…会いに行く!それじゃ…またね)


 ライメでやり取りを終え私は文章を消すのをためらった…。


「ふっ…ううっ…吉城くん…」

 私には祈ることしかできない。

 とうとう明日年が明ける。そしてそれは同時に新しい悪の組織が誕生し世界は劇的に変わるだろう…。


 同時に失敗したら栗生院くんは戻ってこないかもしれない。


 あのクリスマスの日に彼が私に話してくれた内容は衝撃的なものだった。


 年明けと同時に新しい悪の組織が誕生する。そしてヒーローライブをしている小高さん達はヒーローを辞める発表をする。栗生院蔵馬の悪事を全世界に中継し、正義の組織を壊滅させる。そのことにより正義と悪の闘いが本当の意味で始まる。


 栗生院くんは叔父である栗生院蔵馬のいる超鬼セキュリティのビルに潜入し叔父を捕らえ自らの悪事をその場で自白させる所まで別カメラでネット中継される。視聴者は新年の催しか何かと思うかもしれないけど。


「時奈!年越し蕎麦食おうぜ!」


「雪姉!彼氏とライメ終わった?」


「ちょっと誠也!もうちょっと詰めてよ!」


「は?詩織が端行けよ!何で俺がお前とこたつ入ってんの?」


「喧嘩すんじゃねっての!」

 私は舞川家で年越しをすることにした。だって…私のアパート…

 テレビがないからあああ!それに一人でひっそり年越しも寂しいからあああ!

 実家は遠いし。詩織ちゃんも来ていて一緒に年越しするみたいだ。


「あ!始まってんよ!紅白!」

 とチャンネルを弄ると司会者がイケメンレッドさんに質問している。


「いやー、レッドさん!今年はお疲れ様でした!悪の組織壊滅にちょっと暇になっちゃったかな?」


「いえ、そんなことないですよ…だって僕にはまだやることがありますから…。まだ会えてない運命の人探しとかね?」

 と画面の中で思いっきりウインクをかまして黄色い声援が来る。


「きゃーーーっ!!!レッド様あああ!!」

 もはやアイドルだわ。CDは飛ぶように売れてバイト先でもかかってるし。


「ちなみにピンクちゃんとブラックくんは今日もラブラブだね!」


「「二人の愛は永遠ですから!」」


「いいぞーー!お幸せにー!」

 とこちらも応援されている。


「ブルーさんは最近どう?彼女できたって週刊誌に出てなかった?」


「ふ…何のことやら?あれはどこかの都市伝説だろう?そんな不確かなものに踊らされるとは世間とはなんとも…」


「イエローさんは…あ、カレーまだ食べてるんですか?…もう曲はじまりますよ?ではスタンバイお願いします!」

 と司会者が引っ込もうとして。


「え?俺は?ねぇ…」

 と小声でグリーンさんが口籠ったが画面は無情にも切り替わった。


 そしてカウントダウンのライブが始まった。歌い終わると新年だ。

 高志くんは蕎麦をすすりながら


「女性ヒーローとか誕生しないかな?」


「女性なら大体魔法少女だろ?いやあ、魔法は無理だな」


「レッド様…素敵♡」

 詩織ちゃんが目をハートにしながらテレビに食いついてる。中身がアレなことを知ってる私と枝利香さんは複雑だ。


「歌はブルーのが上手いと思うぜ」

 と誠也くんが言うとまた喧嘩が始まった。


 とうとう曲が終わりレッドさんが挨拶した。


「皆!今年はもう終わるね!ありがとう!僕たちのことを今まで応援してくれて!世界の女性たちに感謝するよ!」


「女性だけかよ!」

 とグリーンさんが突っ込み、笑い声が起きた。

 時刻はカウントダウンが始まる少し前。


「もうすぐカウントダウンだけどその前にお伝えしたいことがあります」

 会場がザワザワし出す。リハにはないことなのだろう。


「僕たちヒーローを辞めます!!正義の組織セントユニバースは新年と共に壊滅されます!そして!新しい悪の組織、【ケルベロス】が立ち上がりまーす!!」


 ザワザワ ザワザワ ザワザワ

 もはや会場がカ●ジ化している!


「どういうこと?何?ヒーロー辞める?セントユニバース壊滅?」


「ケルベロスってなんだよ?意味わかんねえ…?ヒーローが悪に寝返ったのか?」


 そこで会場設置のモニターに映像が映し出された。


「はぁーい、皆さーん?新年のカウントダウンですよー?そして年が明けるとこちらのモニターやネットを中継してセントユニバースをぶっ潰そうと思いまーす!!実は彼等は裏では相当悪どいことをしておりまーす!僕等ヒーローも家族を人質に取られ今までヒーローとして戦わされていたわけです…ぐすん…」

 そこでマイクはブルーさんに渡った。


「そう、俺たちは仮初のヒーロー…。本当の悪は内にいたのだ!時は来た!今こそ真実を語ろうではないか!!」

 とそこでマイクが奪われてグリーンさんがため息をついた。


「あ、すみません、説明します。つまりセントユニバースは正義とは名ばかりの組織であり、俺たちヒーローは家族を人質に取られ働かされています。それも本当の親ではなく育ての親たちですが…。少なくともここにいるレッドは本当の母親をセントユニバースを裏で牛耳ってる男にあっさり殺されました。」


 それにまたザワザワと観客が騒ぎ、ネットでもかなりの話題になった。

 レッドにマイクを戻すと


「そう、僕の実の母親は実の父親…つまりこのセントユニバースの支援者である栗生院蔵馬に殺されちゃったのです…他にもたくさんの人がこの男に利用され殺されました。甥である栗生院吉城も両親を事故死に見せかけて殺されました。彼は前の悪の組織の総帥でした。全ての悪事の記録やデータはお正月が開けたらマスコミに開示します!楽しみにしててね?」

 とニコリとレッドは微笑む。

 そしてカウントダウンが始まった。


「さあ!準備はいいかな?皆!!」


 バッとそれぞれのカラフルな色の服を脱ぎ捨てるメンバーたち。その下からは真っ黒な衣装に変わっていた。


「世界は今!変わる!5!」


「4!」


「3!」


「2!」


「1!」


 ドォオオオオオオン


 盛大な花火が夜空に打ち上がると共に新年が幕を開け、モニターに映し出されたセントユニバースの前に武装ゴリラ女や怪人たちに真摯なマスクをつけたタキシードの老人。そしてその真ん中にEのマスクをつけた黒い新しい戦闘員服を着た男が映った。


「……吉城くん…」

 そして私はテレビに齧り付いた。

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