現在、世界には二種類の人間が存在している。
能力を持つ者と、持たざる者だ。
俺は能力という資質を持って生まれて来た。周りの人間の大半は持たざる者であり、その事で力を持つ俺を羨んだ。
だが、本当にそうだろうか?
例えばそう、触れる相手の毛が伸びる能力。これは只ひたすら、相手の毛を伸ばすだけの能力だ。しかも伸ばせるのは既存の毛だけときている。毛根から逝ってしまている相手の毛を伸ばす事は出来ず。残念ながら、男性諸氏の夢見る頭髪問題を解決する力はない。
一応理容師などならば、この能力を生かす事も出来るだろう。だが俺はその道に興味がない。
――つまり、俺にとってそれはゴミに等しい能力という訳だ。
そんな俺の元に、
「はぁ……行きたくねぇ」
それを見て、俺はため息を吐いた。能力者は本人の意思に関わらず、その能力の育成とコントロールを身に着けるため、力に目覚めた時点で学院に強制入学させられる事になっている。そう、能力がどんなゴミであろうとも、だ。
周囲は特殊な能力を持ち合わすエリートだらけ。そんな中、髪を伸ばすだけの能力しか持たない俺が入るとか嫌すぎである。落ちこぼれが確定するんなら、将来に展望のない能力なんか無かった方がましだっての。
だがそんな俺の思いは通じない。国からの強制である以上、どうあろうと、俺はギフテッド学院の生徒になるしかないのだ。
「はぁ……」
気分を落ち着かせるため、散歩がてら外にコーラを買いに行く。コーラは俺の大好物だ。
近所の自動販売機の前に立ち、小銭を投入しようとすると――
突然、「ギギーーッ」という大きな音が背後から響く。
驚いて振り返ると、横転したトラックが此方に滑って来るのが見えた。
「ふぁっ!?」
――この日俺は死に。
――そして転生する。
――異世界へ。