「じゃあ、今日の昼ごはんは鏡っちの奢りね!」
昼休み早々、空条が人差し指と中指でピースを作り俺に突き付けて来た。これぞまさに勝利のVサインである。
「おう!1000円以下ならどんとこいだ!」
「ケチ臭!男なんだから好きなの選べぐらい景気良く言ってよね!」
言う訳ねぇ。学校併設の学食は基本かなり安いのだが、中にはとんでもない値段の物も紛れ込んでいる。1万するフォアグラ丼とか、まじで頭がおかしいのまであるからな。だから口が裂けてもそんな言葉はだせん。
「ゴチになります」
「いや、お前には奢らないから」
「えぇー」
「えぇー、じゃねぇよ!当たり前だろうが!」
泰三が便乗しようとするので、冷たく切って捨てた。奴に奢る義理などない。
「原田君残念!そこは女子チームの特権だよ!」
奢りは理沙・宇佐田・空条・委員長へのお礼だった。彼女達の働きかけのお陰で、金剛と揉めたと言う誤解はもう解けている。周囲の女子達のきつい視線も無くなり、正に感謝感謝だ。
でも1000円迄しか出さないけどな。
仕送りの一切ない貧しい身では、4人分――4000円が限界なのだ。許せ。
「あ、あたしは大して役に立ってないと思うんだけど。いいのか?」
理沙が気まずそうに聞いて来る。彼女は元々ボッチだったので、他の女子連中とはそれ程親しい訳ではなかった。だがそれでも、空条達と一緒に頑張ってくれた事には変わりない。
「当たり前だろ。俺の為に頑張ってくれたんだから、感謝してるよ。遠慮すんな」
軽くデコピンする。
「そ、そうか?だったら遠慮なく、御馳走になるとするよ――っと」
すると理沙にデコピンし返された。
「おう!どんとこい!但し1000円までな!」
大事な事なのでそこは念押ししておく。本当に本当に大事な事だから。
「んじゃあ、今日はカフェでランチって事で!レッツゴー!」
学食の横には大きなカフェが建てられている。カフェは生徒からの強い要望で結構最近出来たらしく、新築の綺麗な白い外装をした建物だ。店内に入ると、白と黒を基調とした落ち着いた雰囲気の空間が広がっていた。
「んじゃ!あそこにしよっか!」
空条が奥のガラス壁に面した席を指さし、荷物を置きに行く。席に着いて店内を見渡すと、お昼時だというのに空席が目立っていた。だいたい4割と言ったところだろうか。感じのいい店ではあるが、人気はそれ程でもない様だ。
まあ学食に比べると全体的に値段が高く、社会人ならともかく、学生にとっては少々ハードルが高いので仕方のない事なのだろう。実際俺は入学してから既に1月近く経っているが、ここに入るのは初めての事だった。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい」
席に着くと、直ぐにウェイターさんが注文を取りに来る。女子連中は最初っから決めていたらしく、直ぐに注文を通す。岡部は宇佐田と同じメニューを頼み、俺はサンドイッチとコーヒーのセット。
泰三はカレーを頼んだ。
「空条達は良くこの店に来るのか?」
何となく手慣れた雰囲気だったので尋ねてみた。泰三と岡部に関しては、初見丸出しだったので尋ねるまでもない。
「週に一度の女子会で来てるからね」
委員長が眼鏡の端を摘まんでクイッと上げる。その顔は何故か自慢げだ。女子会部分に何かマウントでもあったのだろうか?
「委員長が女子会?似合わねーなー」
「ふん。アイドルオタクの原田君には、私の女子力の高さは永遠に分からないでしょうね」
「べべべ!別にアイドルオタクじゃねーし!」
泰三よ、その反応は白状しているに等しいぞ。まあこいつは氷部限定だから、正確にはアイドルオタクには入らないのだろうが。
「あたしはこういう場所、少し苦手なんだけどな。なんていうか、場から浮いてるってる感じがして」
「大丈夫大丈夫!理沙っち美人だし!4人で女子会を盛り上げていこう!」
どうやら理沙も女子会に参加している様だ。
空条に美人と言われた理沙は、照れ臭そうに前髪を弄っていた。メイクで若干損をしてはいるが、確かに彼女の顔立ちは整っている。普通の格好をしたら、きっとそうとうモテるだろうな。
「お待たせしました」
暫くして、頼んだ品物がテーブルに次々と運ばれてくる。女子連中は全員パンケーキとドリンクのセットだった。但し生地とクリームの色がそれぞれ違うので、味までは統一されていない様だ。
「じゃ、切り分けよっか!」
そう言うと、空条は自分のパンケーキを十字に切り分ける。それに続いて、他の3人も同じように皿の上にナイフとフォークを走らせた。どうやら、4等分にして全員でシェアする様だ。
「こうすると色んな味が楽しめるのよね。少し前までは3種類だったけど、理沙ちゃんの加入で今は4種楽しめて最高よ!」
「成程な。泰三、折角だし俺のサンドイッチ半切れと、お前のカレーのルー交換するか?」
「するか!何が悲しくて白米とサンドイッチの組み合わせで飯を喰わにゃならんのだ!」
断られてしまった。まあカレーのルーだけ貰っても俺も困るから、別にいいけど。
「このプリンシェイク美味しいな。宇佐田はこれが好きなのか?」
「うん、ここのプリンシェイクは本当に美味しいんだよ」
岡部は回りくどいやり方で、宇佐田にアプローチをかけていた。まあ宇佐田の大人しい性格を考えるとグイグイいくのは逆効果になりそうだし、これぐらいが丁度いいのかもしれん。
まあ知らんけど。
何せ年齢が、イコール彼女いない歴だからな。そんな俺に恋愛のイロハなどあろう筈もない。まあ微笑ましい感じの2人なので、友人として上手く行く事を祈るばかりだ。
あー、俺も彼女ほっしぃーなー。