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第9話



「さて」


 東条はハンモックの上に座り、それっぽいポーズをとる。

 魔法が発現したと聞かされて、黙っている事など出来るものか。


 彼は書き込みに書かれている先人達のアドバイスに従い、存在も分からない漠然とした何かを感じ取ろうとする。


「………………お?ぅおお?」


 今まで何度も同じことをやってきた。そしてその度に、何をやっているんだ俺は……、という虚しさが残るだけだった。


 しかし今回は違う。


 身体の中にハッキリと、微量ながらも不思議な流体を知覚できる。

 興奮に自然と口角が上がってしまう。


「ふぅ…………っ」


 呼吸を整え、流れを意識し、掌に収束させ、【火】へと変換する。


 主の意思を受けた透明な力は、色を付けこの世に現界しようとし、



 ……霧散した。



「……ん?」


 東条は疑問に思い一抹の不安を感じるが、そこで魔法にはそれぞれ適性があることを思い出す。

 気を取り直し、力に意識を向ける。【水】、【土】、【風】、【光】、【電気】、


 全てが霧散した。


「ぁっれぇー……」


 いよいよ焦りが雫となって肌を伝い、嫌な現実が鎌首をもたげる。


 それから三回ずつ各属性で試すも、全て結果は同じ。


 魔法を使える人間は、時間の差はあれどもれなく一発で成功している。


 どれだけやっても使えなかったのは、スレに集まった一割の人間だけだった。と書かれていたのを読んだ。


「うそやん……」


 絶望に目頭が熱くなる。


「別にいいし……(ボソッ)俺皆が使えない力使えるし……(ボソッ)別にいいし……(ボソッ)」


 東条は再び寝っ転がり不貞寝の体勢に入る。

 嫌なことなど寝れば大体忘れてしまうものだ。


 久方ぶりのまともな寝床は、夢破れた男の涙をそっと受け止めてくれた。



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