漆黒が彼についていこうとした反動で一緒に飛んでった鼻折れが、片目の横についたところで、
ボスが低く唸り、二匹が同時に駆けた。
さっきの攻撃が来る。そう身構えた東条の横腹に、
「ぐッ!?」
横腹を背中に食らったものと同じ衝撃が走る。
右に飛ばされながらも、見逃すまいと自分を飛ばした犯人に目をやり、
しっかりと見た。
空気が揺らぎ散っていく瞬間を。
(風魔法‼)
彼が見たものは動画のそれと同じ現象。
恐らく使っているのはボス。自分は全体を見れる位置に立ち、サポートに回る。危険な雑務は手下にやらせる。合理的な戦い方だ。
彼は横に転がりすぐに二体に目を向けるも、既に回り込まれている。
飛びかかってきたところで全力で後ろに飛び、二匹を無理やり視界に入れた。
鼻折れに狙いを定め突進。
飛びかかってきたところを下顎から蹴り抜く。すぐさま襲いかかり脇腹を引き裂いた。
急いで振り返るも、そこまで牙が迫っている。
「くッ」
やむを得ず左腕でガードしようとしたところに、
――漆黒が現れる。
漆黒が片目の顔を遮り、勢いを『完全に』止めたところで、東条は正体不明の感触を感じながらその場を離脱する。
それも束の間、真横から違和感を感じ振り向くが、ボスの攻撃の方が速い。
空気の揺らぎと共に風の塊が直撃
……するところで、又もや漆黒が間に割って入った。
漆黒の範囲外から残風が顔を叩く。
しかし来るはずの衝撃は訪れない。代わりにあの感触が東条の中に溜まっていく。
彼はここで、ようやく自分の能力の秘密の一端に気付いた。
一つ、視界に入っている場所なら反射並の速さでガードが可能。
二つ、『衝撃の吸収』。ガードを可能にしているであろう能力。
そして三つ、――
東条は獰猛な笑みを浮かべ、二度の攻撃を防がれ様子を見ていた二匹に向かって地を蹴る。
(吸収が可能で、あの感触の正体が今まで溜めた『衝撃』なら)
片目が先陣を切って正面から飛びかかってくる。
彼は漆黒を片目の眼前に出し、衝撃を『吸収』。瞬間、お返しとばかりに今までため込んだ全てを『放出』する。
「ぶッ飛べやァッ‼」
動きを止められ、落下途中だった片目が、刹那、面白いくらい簡単に後方へぶっ飛んだ。
錐揉みしながら空中を散歩した後、激しい音を立て商品棚に突っ込んでいく。
片目は血混じりの泡を吹いて起き上がらない。脳震盪でも起こしたのだろう。
あとで始末すると決めた東条が、依然と動かないボスを睨みつける。
「……よぉ、やっと二人っきりになれたなぁ?」
怒涛の追い上げと能力の覚醒から、全身を駆け巡る快楽物質が彼に痛みと疲労を忘れさせる。
その笑みが、初めてボスに牙を剥かせた。