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第12話



 漆黒が彼についていこうとした反動で一緒に飛んでった鼻折れが、片目の横についたところで、


 ボスが低く唸り、二匹が同時に駆けた。


 さっきの攻撃が来る。そう身構えた東条の横腹に、


「ぐッ!?」


 横腹を背中に食らったものと同じ衝撃が走る。

 右に飛ばされながらも、見逃すまいと自分を飛ばした犯人に目をやり、

 しっかりと見た。


 空気が揺らぎ散っていく瞬間を。


(風魔法‼)


 彼が見たものは動画のそれと同じ現象。

 恐らく使っているのはボス。自分は全体を見れる位置に立ち、サポートに回る。危険な雑務は手下にやらせる。合理的な戦い方だ。


 彼は横に転がりすぐに二体に目を向けるも、既に回り込まれている。

 飛びかかってきたところで全力で後ろに飛び、二匹を無理やり視界に入れた。


 鼻折れに狙いを定め突進。

 飛びかかってきたところを下顎から蹴り抜く。すぐさま襲いかかり脇腹を引き裂いた。

 急いで振り返るも、そこまで牙が迫っている。


「くッ」


 やむを得ず左腕でガードしようとしたところに、




 ――漆黒が現れる。




 漆黒が片目の顔を遮り、勢いを『完全に』止めたところで、東条は正体不明の感触を感じながらその場を離脱する。


 それも束の間、真横から違和感を感じ振り向くが、ボスの攻撃の方が速い。

 空気の揺らぎと共に風の塊が直撃


……するところで、又もや漆黒が間に割って入った。


 漆黒の範囲外から残風が顔を叩く。

 しかし来るはずの衝撃は訪れない。代わりにあの感触が東条の中に溜まっていく。


 彼はここで、ようやく自分の能力の秘密の一端に気付いた。



 一つ、視界に入っている場所なら反射並の速さでガードが可能。


 二つ、『衝撃の吸収』。ガードを可能にしているであろう能力。


 そして三つ、――



 東条は獰猛な笑みを浮かべ、二度の攻撃を防がれ様子を見ていた二匹に向かって地を蹴る。


(吸収が可能で、あの感触の正体が今まで溜めた『衝撃』なら)


 片目が先陣を切って正面から飛びかかってくる。


 彼は漆黒を片目の眼前に出し、衝撃を『吸収』。瞬間、お返しとばかりに今までため込んだ全てを『放出』する。


「ぶッ飛べやァッ‼」


 動きを止められ、落下途中だった片目が、刹那、面白いくらい簡単に後方へぶっ飛んだ。

 錐揉みしながら空中を散歩した後、激しい音を立て商品棚に突っ込んでいく。


 片目は血混じりの泡を吹いて起き上がらない。脳震盪でも起こしたのだろう。


 あとで始末すると決めた東条が、依然と動かないボスを睨みつける。



「……よぉ、やっと二人っきりになれたなぁ?」



 怒涛の追い上げと能力の覚醒から、全身を駆け巡る快楽物質が彼に痛みと疲労を忘れさせる。


 その笑みが、初めてボスに牙を剥かせた。



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