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2章 その頃一方

第14話



 §



 避難警報が鳴り、非常口から屋上への非難を試みるも、大型の鳥の様な生物の群れにより階段が全壊。


 室内に戻るも、下の階から訳のわからない生物が押し寄せてくる。



 店内では今、外と同じく人間が逃げ惑う構図ができていた。



「皆さんっ、こちらですッ‼」


 八階にいた客を直通の階段で屋上に避難させた後、防火扉を半分閉めて声を張り上げる店員がいた。


 彼の人一倍強い優しさは、ギリギリまで逃げてくる人を救おうとしている。

 下階の人を何十人も迎え入れ、次の一団に目を向けた時、人に混じって何十匹もの獣が見えた。


「――ッ、っ!?」


 彼が迷わずもう半分の扉に手をかけ、勢いよく閉めようとしたところに人の手が挟まった。


「頼むっ‼入れてくれっ‼頼むっ‼――」


 こじ開けようとする手が二本、三本と増え、彼が冷汗を滲ませた直後、


 叫び声と共に腕がズルズルと引き抜かれ、代わりに狼が頭を捻じ込んだ。


 突然のことに腰が引け、あわやという所で、


「引けッ‼」


 後ろで見てくれていた客が狼の鼻っ面を蹴り飛ばし、店員に合図を送る。


 彼は力いっぱいドアを引き、二匹目が飛びかかってくる寸前でドアを閉め鍵をかけた。



「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます、」


「あぁ……」


 店員はズレた眼鏡をくいっと上げ、落ち着きを取り戻す。


 しかし、直前まで助けを求めていた腕が脳裏をちらつく。

 仕方なかったとはいえ、自分が切り捨てた事に変わりはない。


「おい」


「は、はい?」


 自分を睨みつける男に一瞬たじろぐ。

 確かに、自分のせいで避難した人まで危険にさらした。怒るのも無理はない。


「……あんたはよくやったよ」


「へ?」


 思いがけない称賛に虚を突かれ、店員の喉から変な声が出た。


「……俺も上の奴らもあんたに救われた。感謝している」


 自分が救った人も大勢いる。自分のしたことは間違っていない。この人はそう言ってくれている。


「有難うございますっ」


「……あぁ」


 勢いよく頭を下げる店員に、客の男は照れ臭そうにそっぽを向き屋上への道を歩いていく。


 よく見ると男の左上腕、はち切れそうな筋肉も凄いが、服が破れ血が見えていた。


「あのっ、怪我してますけど大丈夫ですか?」


 追いかけ横に並ぶが、返ってくるのは気にもしていないという不愛想な返事だけ。


「……あぁ、噛まれただけだ」


「噛まれ…それは、大丈夫なのでしょうか?」


「……あぁ」


 強がっているわけではなさそうだ。何より、二mはありそうな体格に、全身がバキバキの筋肉で覆われている男だ。


 自分が心配するのも烏滸おこがましいというもの。


 気を取り直して、


「私、佐藤 優と申します。よろしくお願いします」


「……筒香 葵獅つつごう あおしだ。よろしく頼む」


 片や素直で責任感の強いヒョロガリ眼鏡、片や寡黙で実直なガチムチゴリマッチョ。


 共通していることが心優しいことしかない彼らの並んだ姿は、自然としっくり見えた。



 ――二人は屋上のドアを閉め、鍵をかけた。


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