「今日も行くのか?」
「あぁ、ここのラブコメ主人公は毎日モンスターを殺さないと気が済まないんだ」
「一話打ち切りですね」
東条は立ち上がり、身体を伸ばしストレッチを始める。
「俺なら買うぞ?」
「貴方達くらい血に飢えてないとファンは付きませんよ」
「じゃあミリオンセラー待ったなしだ」
「一冊で人間の欲を全て満たせるしな」
「……三大欲求って知ってます?」
「戦闘欲、勝利欲、性欲」
「人間が滅びましたよ」
葵獅論に人間の輪廻が破綻する。
彼は自分達とは違う進化を遂げた人類なのかもしれない、そう佐藤は思った。
――いつも通り二人で中に行き、物資を補充し、十一階で鍛錬をする。
しかし彼等のそれは到底手合わせと呼べるものではなく、炎と漆黒以外なら何でもありのガチの戦闘である。
真っ先に身体強化を習得し、レベルも高い二人の本気の殴り合いは、周りの物を破壊しながら行われる。
屋上ではできない理由だ。
今日も今日とて内装をベコベコにし、一休みと腰を下ろす。
――「ふぅ、……やっぱ強化した同士じゃ力負けするな」
「速さはお前の方が上だ。別に格闘センスがあるというわけじゃないが、戦闘の才はある」
「……俺センス無いのか、」
格闘術を学んでいる上で言われた言葉に、地味にショックを受ける東条を葵獅は笑う。
「世の中には天賦の才を持つ者が多くいる。プロと呼ばれる中のトップにいる奴は大体そうだ。
格闘でも、東条が幾ら努力しようがそんな奴らには届かないだろう」
「めっちゃ言うじゃん……」
「だがこの世界、人間の限界が外れた中、圧倒的力の前では天賦の才に意味はない。
もしCellを使ったら、俺はお前に手も足も出なくなるだろうしな」
「そう考えたら、俺も天賦の力を受け取った才有る者じゃね?」
「ハハハっ、それもそうだな。お前は考えて戦うより本能で我武者羅に戦った方が強いタイプの奴だ。
殴り方や蹴り方、受け身は教えたが、そっからはお前次第だ」
「分かった。要するにハルクだな」
「そうだ」
マーベルの怪物を想起する。彼の前では神ですら対等となる。
ペットボトルを傾け、乾いた喉を潤した。
「そろそろ戻るか」
「おけ」
ズガァァァンッッ‼
立ち上がる彼等の耳を、突如破砕音が貫いた。