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第81話


 §



 ――闇夜を照らす月をバックに、無数の鉄の塊が空を翔る。


 旋回音に目を醒ました彼等は、騒々しい天を仰ぎ見た。


 己の眠りを妨げる異物。


 己の領空を犯す邪魔者。


 辺りのビルを根城としていた彼等は、雄叫びを上げ、その四枚の翼を広げた。





 §





「押し合わないで‼次のヘリを待ってください‼」


「この子だけでもっ‼」「おい抜かすんじゃねぇ‼」「押すなよ‼」「私が先だったでしょ‼」


 ライトアップされた皇居広場には五台のヘリが着陸し、避難民が我先にと押し寄せる。


 上空には待機中の大型輸送ヘリ十五台と、それ等を囲むように護衛する二十五台の戦闘ヘリが周りを警戒していた。


「陛下、こちらへ」


「ありがとうね、我道さん」 


 国の重要人物達が、続々とヘリに乗りこんでいく。

 それを見た民間人は、野次を飛ばし、暴言を吐き、口汚く罵った。


 自分の身がそんなに可愛いか、と。


 しかし彼等は口を噤み、浴びせられる罵詈雑言を一身に受け止める。


 怒る気持ちも、不平不満もよく分かる。


 日夜モンスターの声と銃声を聞き、明日が来るのかも不安な状況で閉じ込められていたのだ。

 全員の精神が限界のはずだ。


 だが悲しいことに、命とは平等ではない。


 誰が生き残り、誰が何を成すか。


 命の重さを一番理解しているのは、他でもない彼等なのである。


 最初の五台が浮かび上がり、遂に脱出作戦が始まった。


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