――少々の仮眠を取った東条は、現在リュック片手に本売り場を回っていた。
夜通し白蛇と一緒にテレビを見ていた彼は、既に彼女の学習能力の高さに興味を掻き立てられている。
手取り足取り色々と教えた結果、最後の方には、X tube内でお気に入りの動画をチャンネル登録するまでに至ったのだ。
間違いなく、他のモンスターと比べ頭の出来が頭抜けている。
「……あとは、文房具か」
低学年レベルの問題集を片っ端から詰めた東条は、筆記用具を適当に掴み帰路に就いた。
因みに彼女のお気に入り動画は、グルメ系のものが大半であった。
――「またそれ見てんのか」
「……シュルル」
Tubereが美味そうに啜るラーメンを、恨めしそうにチロチロと舐める彼女。
そこに味は無いだろうに……。
「そうだ、お前も食うかこれ?」
見ていて可哀想になるその光景に、東条は別のリュックを漁りカレー味のカップ麺を取り出す。
「?」
「作ったる。ちゃんと見てろよ」
寄ってきた彼女の目の前で、複雑な工程を一つ一つ見せていった。
――ピピピっ、ピピピっ。
「この音がなったら、完成。ほい」
差し出されるラーメンから立ち昇る湯気をチロチロと舐め、ゆっくりと口をつける。
「ファシュっ」
「なはは、熱ちぃか」
先に食べ進める東条を、ジッと見つめる彼女。
「何だ、……ちょい待ち」
箸は無理か、とフォークに持ち替え、実践して見せる。
「やってみ」
「……シュルル」
彼女は尻尾の先端を巻き付け、器用に麺を持ち上げた。
「ファフシュ、シュルル」
「うめぇか、そりゃよかった」
共にラーメンを啜る、化物と化物の異種族コンビ。
この日から、彼等の不思議な勉強生活が始まった。
――平仮名。
「これが、あ」
「シュルル」
「い」
「シュルル」
「う」
「シュルル」
「……しゅ、る、る」
「シュルル」
「そう、良くできました」
――算数。
「んじゃ昨日の応用から。『二+四-三=?』」
「『三』」
「おけ。『五+十一+二-九=?』」
「『九』」
「おし、んじゃ次掛け算いくか」
――理科。
「なになに……生き物の特徴や、太陽の光と影の関係性。は~、そんなことやんのか」
――「とりあえず、これが動物、っぽいモンスター」
「(ンゴっ)」
「虫、っぽいモンスター」
「(ンゴっ)」
「植物、っぽいモンスター」
「(ンゴっ)」
「……違い分かった?」
「シュルル」
「うし。じゃあ次」
――「あれ太陽、これ影、おけ?」
「シュルル」
「相手の影を、こう、踏んだら、俺の勝ち。おけ?」
「シュルル」
「よっしゃスタートォ――っな⁉はやッ」
「シュルルル」
「――っ踏むとこ少ねぇしっ、こりゃマズいっ」
「シュルァッ」
「ハハハハっ」
――社会。
「ここが『ほっかいどう』」
「シュル」
「飯は……こーゆう海鮮系が美味い」
「シュルアァ」
「ここが『おきなわ』」
「シュル」
「チャンプルー、ソーキそば」
「シュルアァ」
「ここが『とうきょう』」
「シュル」
「えー……東京バナナ」
「……」
「……」
白蛇の学習能力は凄まじく、教えたことは全て吸収していった。
途中からは自分で問題集を開き、解き出す始末。
そこらへんの子供よりよっぽど勤勉、且つ賢い。世の母親が嫉妬する程良くできた子だ。
床を埋める捨てられた缶やゴミの中に、日が経つごとに、用済みとなった図鑑や参考書が何十冊も仲間入りを果たしていった。