破壊されたドアを抜けると、一陣の寒風が彼の髪を撫でた。
雪は止んでいる。
開けた場所まで木々を抜けていくと、そこからは白い絨毯が敷き詰められている。
足部分を顕現させ、中央の巨木まで向かった。
「……」
幹に身体を預け、ある番号を押していく。
最後に一瞬躊躇い、発信のボタンを押した。
プルルルル、プルルルル――
『はい』
「……よぉ」
『――っ……何か言うことないの?』
「わりぃ」
『何日ぶり?』
「2週間、くらい」
『………………どれだけ、心配したかっ……』
「……」
聞こえてくる震える声につられ、こちらの涙腺も緩くなる。
『……何で?』
「色々大変だった」
『仲間の人達とは上手くやれてる?』
「…………死んだよ、皆」
通話相手というよりも、自分自身に言い聞かせる様に、東条はその言葉を口にした。
『……そう』
「……あぁ」
沈黙が流れる中、ゆっくりと母が切り出す。
『……今から、とても酷いことを言うかもしれないけど、これだけは聞いておいて。
……私は、あんたが生きていてくれて良かった。……桐が生きていてくれて、本当に良かったっ』
「……っ」
決壊しそうなダムを歯を食いしばって踏み止める。
『これからは、メールでも何でもいい。お願いだから、連絡して』
「……あぁ」
『お父さんまた飛び出して行っちゃったんだから』
「っ」
「自衛隊の人に捕まって帰って来たけど」
「……」
『……あんたの事だから、冒険とか旅とか、止めても行くんでしょ』
「……あぁ。見とかなきゃいけねぇ奴ができた」
『……そう』
今まで以上に覚悟の籠った声に、母は一度考える。
『……私達家族は、これからもずっと反対し続ける。でも、それに従うか従わないかは、あんたが決めなさい。そして決めた以上は、必ず後悔のない生き様にしなさい』
「あぁ」
『私から言うことはもうないわ。ちゃんと連絡寄こしなさいよ』
「あぁ」
『じゃあね』
「……母さん」
『ん?』
「……ありがとうな」
『――っ――――
返事を待たずに切った東条は、一息吐き、空を見上げた。
前より星が美しく見えるのは、気のせいではないだろう。
「まさー」
「あ?」
彼を探しに来たノエルが、キャンプ用具一式を持って走って来た。
「まさ?また泣いてる」
「泣いてねぇよぶっ殺すぞ」
過去最速で全身漆黒を顕現させる。
「……それより何で来た?」
勝手にテントを広げるノエルに疑問を飛ばす。
「夢の話をしよう、ぜ」
ピースをするノエルに、驚き、そして……笑う。
「……いいね。乗った」
「よしゃ」
その夜の屋上には、真っ暗の中にたった一つ、小さい、されど強い明かりが灯っていたとさ。