目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第110話

 §





 ――雑談を交わしながら、四人の若い男達がとある建物に入っていく。


 場所は大石川植物園近くのネットカフェ。

 しかし今やそこは只のネットカフェではない。建物の周りには棘状に大地が隆起し、堅牢なバリケードを造っている。


 入口は一か所のみ。下手なモンスターでは建物まで辿り着くことも出来ない。


 彼等はそこで、しぶとく生き残っている者達だ。


 ……ただ、


「ちゃんと食料取ってきた?」


 一人の強者のご機嫌を取りながら。



 そう聞く男の外見はいたって普通。特徴のない顔に、特徴のない体形。人ごみに紛れてしまえば途端に消える、大勢の中の一人。


「あ、あぁ。これで三日は持つんじゃないか?」


 四人が肩から降ろした戦利品を、男は不満気に物色していく。


「少ないな。……今は、あそこのコンビニだっけか。食料どれくらい残ってた?」


「っ、も、もう殆ど無かったぜ。なぁお前ら?」


「「あぁ」」「うん」


 顎に手を置き一考する男は、後ろを向きそこに立つ四人の男女に冷めた視線を送る。


 見ればその更に後ろには、二十人程度の老若男女が恐る恐る九人を見つめていた。彼等は九人と比べ、見るからに気力が無く、痩せてしまっている。


「調達場所を変える。次はβ隊にもう少し先に行ってもらう」


 男の言葉に息を呑む四人。その中の一人、中年の男性が慌てて口を開いた。


「わ、私達よりも彼等の方が戦闘に秀でています。初めて行く場所なら彼等の方が適任ではないでしょうか?」


「んだとクソジジイ!」


「恐えぇからってなすりつけてんじゃねぇよ!」


 それに異を唱えるのは、今しがた帰ってきたばかりのα隊の四人。行きたくもない未知の場所に送り込まれるなど、堪ったものではない。


 それに、今まで偵察と称して送り込まれた人間がどうなってきたかを、彼等はその目で見ているのだ。必死に抵抗するのも必然。


 男はそんな光景に苛立たし気に床を鳴らし、中年を睨みつける。


「変更はない。それに君達の方が弱いからって、だからに決まってるじゃないか。僕はここを守らなきゃいけないし、最大戦力の彼等を失うわけにもいかない」


 お前達は死んでも構わない。そうとしか取れない言葉に、四人は歯嚙みする。


「なんの為に強化魔法まで教えてあげたと思ってるの?……まぁ、君達は最低限魔法使えるし、役にはたってくれてるからいいよ。

 ここの九人以外は碌に魔法も使えない。食料を強請るだけのどうしようもない人達ばかりだからね」


 自分達に男の目が向き、黙って見ていた者達は怯え縮こまってしまう。


「守ってあげてるのに、その視線はないでしょ」


 苛立ちに拍車がかかる男に、場の空気が張り詰めた、直後、


「ちょっとちょとぉ、うちがトイレ行ってる間に何起こったの?てか九人以外どうしようもないって聞こえたんだけど、快人はうちのことそんな風に思ってたの?」


 派手派手しい化粧を身に纏ったギャルが、猫撫で声で男に詰め寄った。彼女は流れる様にその腕をとり、自分の胸に押し付ける。


「き、きらら。ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ちょっと熱くなってしまって」


「分かってるよ快人。快人はうちのこと大好きだもんね?うちも快人が大好きだよ」


 人目も憚らず抱き着いてくる彼女に、先ほどとは打って変わって狼狽える男。


 場違いな空気を放つきららを一度引き剥がし、快人は赤く染まる頬を隠すように中年含む四人を睨みつけた。


「とりあえず君達には、明日新しい調達場所に行ってもらう。わかったね」


「「「「……はい」」」」


「……チっ。いつも通り適当に配っといて」


 どうにも彼等の態度が気に食わない快人は、きららを侍らせ奥の部屋へと戻ってしまう。


 後に残された者達を包む空気は、一様にして重苦しいものであった。





 §


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?