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――雑談を交わしながら、四人の若い男達がとある建物に入っていく。
場所は大石川植物園近くのネットカフェ。
しかし今やそこは只のネットカフェではない。建物の周りには棘状に大地が隆起し、堅牢なバリケードを造っている。
入口は一か所のみ。下手なモンスターでは建物まで辿り着くことも出来ない。
彼等はそこで、しぶとく生き残っている者達だ。
……ただ、
「ちゃんと食料取ってきた?」
一人の強者のご機嫌を取りながら。
そう聞く男の外見はいたって普通。特徴のない顔に、特徴のない体形。人ごみに紛れてしまえば途端に消える、大勢の中の一人。
「あ、あぁ。これで三日は持つんじゃないか?」
四人が肩から降ろした戦利品を、男は不満気に物色していく。
「少ないな。……今は、あそこのコンビニだっけか。食料どれくらい残ってた?」
「っ、も、もう殆ど無かったぜ。なぁお前ら?」
「「あぁ」」「うん」
顎に手を置き一考する男は、後ろを向きそこに立つ四人の男女に冷めた視線を送る。
見ればその更に後ろには、二十人程度の老若男女が恐る恐る九人を見つめていた。彼等は九人と比べ、見るからに気力が無く、痩せてしまっている。
「調達場所を変える。次はβ隊にもう少し先に行ってもらう」
男の言葉に息を呑む四人。その中の一人、中年の男性が慌てて口を開いた。
「わ、私達よりも彼等の方が戦闘に秀でています。初めて行く場所なら彼等の方が適任ではないでしょうか?」
「んだとクソジジイ!」
「恐えぇからってなすりつけてんじゃねぇよ!」
それに異を唱えるのは、今しがた帰ってきたばかりのα隊の四人。行きたくもない未知の場所に送り込まれるなど、堪ったものではない。
それに、今まで偵察と称して送り込まれた人間がどうなってきたかを、彼等はその目で見ているのだ。必死に抵抗するのも必然。
男はそんな光景に苛立たし気に床を鳴らし、中年を睨みつける。
「変更はない。それに君達の方が弱いからって、だからに決まってるじゃないか。僕はここを守らなきゃいけないし、最大戦力の彼等を失うわけにもいかない」
お前達は死んでも構わない。そうとしか取れない言葉に、四人は歯嚙みする。
「なんの為に強化魔法まで教えてあげたと思ってるの?……まぁ、君達は最低限魔法使えるし、役にはたってくれてるからいいよ。
ここの九人以外は碌に魔法も使えない。食料を強請るだけのどうしようもない人達ばかりだからね」
自分達に男の目が向き、黙って見ていた者達は怯え縮こまってしまう。
「守ってあげてるのに、その視線はないでしょ」
苛立ちに拍車がかかる男に、場の空気が張り詰めた、直後、
「ちょっとちょとぉ、うちがトイレ行ってる間に何起こったの?てか九人以外どうしようもないって聞こえたんだけど、快人はうちのことそんな風に思ってたの?」
派手派手しい化粧を身に纏ったギャルが、猫撫で声で男に詰め寄った。彼女は流れる様にその腕をとり、自分の胸に押し付ける。
「き、きらら。ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ちょっと熱くなってしまって」
「分かってるよ快人。快人はうちのこと大好きだもんね?うちも快人が大好きだよ」
人目も憚らず抱き着いてくる彼女に、先ほどとは打って変わって狼狽える男。
場違いな空気を放つきららを一度引き剥がし、快人は赤く染まる頬を隠すように中年含む四人を睨みつけた。
「とりあえず君達には、明日新しい調達場所に行ってもらう。わかったね」
「「「「……はい」」」」
「……チっ。いつも通り適当に配っといて」
どうにも彼等の態度が気に食わない快人は、きららを侍らせ奥の部屋へと戻ってしまう。
後に残された者達を包む空気は、一様にして重苦しいものであった。
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